●ラリー・カールトン・アンド・ザ・サファイア・ブルース・バンド2(05/2/22・東京 ブルーノート東京)

【原点回帰、極上のブルース・ギター】


約3年ぶりにラリー・カールトンを聴きに行って来た。場所はおなじみのブルーノートだ。


今回は一昨年に引き続き、ブルースを中心としたナンバーを演る「ザ・サファイア・ブルース・バンド」を引き連れての来日である。


このバンド名はもちろん、彼が2003年に出したブルース中心のアルバム、「サファイア・ブルー」にちなんでいる。


バンドのメンツは、アルバムのレコーディング・メンバーと共通している人もいるが、大半は新規に参加した人たちである。


具体的には、アルバム参加組はマーク・ドウジット(テナーサックス)だけ。ダグラス・モフェット(バリトンサックス)、マイク・ヘインズ(トランペット)、ロバート・バリー・グリーン(トロンボーン)、グレッグ・マティソン(キーボード)、トラビス・カールトン(ベース)、モイーズ・ルーカス(ドラムス)はいずれも新規参加組である。


アルバムの演奏とはまた、ひと味違ったライブが期待出来そうだ。


定刻の午後7時を少し回ったところで、ラリー以外のメンバーがステージに登場。さっそく、「フライデイ・ナイト・シャッフル」をスタート。


アルバム「サファイア・ブルー」のトップ、快調なテンポで飛ばすシャッフル・ナンバー。いかにも、オープニングにはうってつけの選曲だ。


ひとしきり彼らの演奏(ソロはマーク)が続いたところで、今夜の主役、ラリー・カールトンがいつものようにカジュアルなシャツ姿で登場、観客席に大きな歓声が湧き起こる。


まずはバックが演奏、十分お膳立てが出来たところで主役が登場。こういった演出方法は、BB、アルバート・キングなどの大御所ブルースマンのステージングを強く意識しているのは間違いない。


トレードマークのサンバーストES335をセッティング、ピックを一振り。さっそくホットなプレイが始まる。


かなりエッジの立った音で、派手なスクゥイーズをキメるラリー。まさしく、ブルースギターそのもの。


威勢のいいシャッフルで、お客のつかみは十分。曲は、一転してスローナンバーへ。これまた「サファイア・ブルー」からの「ナイト・スウェッツ」だ。


かなり抑え目のトーンで、ブルーズィ、そしてメロウな調べを紡いで行くラリー。観客もかたずを呑んで、そのプレイを見守る。


アルバムからの2曲目が終わり、場内もすっかりブルースな雰囲気に染まった頃、聴き覚えのあるイントロを弾き出すラリー。


ん? これはもしかしてスティーリー・ダンのあの曲?


そう、次の曲はアルバム「彩(エイジャ)」でも名曲とされる「ジョージー」でありました。


これには、観客も大喜びで、ブルースとはまた違ったアーバンなノリを堪能。


4曲目は、小ぶりなマーティンのアコギに持ち替えての「ミニット・バイ・ミニット」。同題のアルバムもヒット、ラリーにとっていまや代表曲といえる、ドゥービー・ブラザーズのカバーナンバー。そういえば、3年前のステージもやっていたのを思い出した。


エレキとはまた違い、非常に軽快なタッチでアコギを弾くさま、これまたキマっている。


次の一曲も、アコギで。自作の「スマイルズ・アンド・スマイルズ・トゥ・ゴー」である。軽やかなビートに乗せて、指板の上を縦横無尽に動き回るラリーの指遣いに、観客全員が引き寄せらていく。


ES335に持ち直し、ブルースな世界が再び始まる。6曲目はこれもまた「サファイア・ブルー」に収録されたスローナンバー、「ジャスト・アン・エクスキューズ」。


ゴスペルライクなサウンドに乗せて、クリアなトーンでタメを効かせたギターを弾きまくるラリー。「間」の取り方のなんとも絶妙なこと。


次第に音量をアップして、最後は熱く熱~く盛り上げていく。うーん、これぞブルース。


ラリーが「次の曲はマークと、グレッグをフィーチャーします」とアナウンスして始めたのは「7フォー・ユー」。裏打ちなサウンドがちょっとモダンな感じ。


マークのジャズ、ブルース、ファンクなんでもござれな達者なテナー、そしてグレッグのも力強いエレピ&ハモンド。彼らの実力のほどが、そのソロ・プレイにはっきりと現れていた。


特にグレッグの音はかなり泥臭くて、洗練という言葉からほど遠いのだが、その力技中心のダイナミックな演奏は、いかにもブルース・バンドにふさわしい感じだ。


再びラリーが「(ベースの)トラビスをフィーチャーします」と言って始めたのは「ディープ・イントゥ・イット」。そう、2001年発表のアルバムのタイトル・チューンだ。


サウンドは、ちょっとセカンドラインふう。躍動感あふれるビートを生み出すトラビスのソロを聴いて、普段は目立たないところでしっかりといい仕事をしてるなと感心。


ドラムスのモイーズのソロをフィーチャーして演奏されたのは、「スライトリー・ダーティ」。これも「サファイア・ブルー」に収められている曲だ。アルバムではテリー・マクミランのハープがフィーチャーされていたが、これがまるごと抜けることで、かなり印象が変わっている。


モイーズもまた、他の曲では堅実なプレイに徹していたが、この曲のソロでは大暴れ。スティックさばき、その一打一打ごとに、彼の底知れぬパワーを垣間見せてくれた。


ここまでホーン・セクションについてはほとんど触れることなく来てしまったが、ラリーが選んだメンツだけに、もちろんその実力は相当なもの。4人のリーダー格、マークはいうまでもないが、ほとんどソロを取ることのない他の3人も確かなバッキングを聴かせてくれた。


そんな彼らをフィーチャーして最後に演奏してくれたのは「テナー・マッドネス」。いまさら説明不要だろうが、ソニー・ロリンズ作の、モダン・ジャズにおけるスタンダード的ナンバー。


これをステージの一番上手のロバートから、マイク、ダグラス、そしてマークと、順にソロを回していく。


ゴリゴリ吹きまくる人、飄々と吹く人、スタイルはそれぞれなれど、いずれも見事なソロをキメてくれた。縁の下の力持ちの彼らにも、スポットが当たった一曲であった。ここでいったん退場。


アンコールは、さて何だろう。前回のように、「ルーム335」だったら最高なんだが、とか、いやもしかしたら「スリープウォーク」かなとか、興味津々。


で、再びステージに戻ったラリーが弾き出したのは、「ア・ペア・オブ・キングス」でした。


これもまた「サファイア・ブルー」からのナンバー。アップテンポ、ファンキー・ブルースのスタイルの、歯切れのいいナンバー。


歌のタイトルはトランプの「キング」のカード2枚と、BB、アルバートふたりの「キング」を引っかけてあるのだろうな。


ラリーのギター・プレイのほうも、アルバートの派手なチョーキング・スタイルを相当意識したもの。ブルースの先達に対するリスペクトがはっきりと表われている。


「ルーム335」も、もちろん聴きたかったが、この曲も悪くない。何より、ブルースをメインに据えたこのバンドのステージを締めくくる一曲として、一番ふさわしいように思った。


プロ活動を始めて、35年あまり。その間、ずっと先頭を走り続けて来たギタリスト、ラリー・カールトン。


そんな彼にとっての原点、ルーツはやはり、黒人たちが長い歳月にわたって脈々と生み出してきたブルースなのだろう。


最もブルースの本質を知る白人のひとり、ラリーの奏でるギターは、決して借り物でも亜流でなく、しっかりと自らの血となり肉となったブルースだった。


ブルースがもはや人種に左右されることのない、ユニバーサルな音楽でありうること、彼のステージを観て、それを筆者も確信した。


21世紀、ブルースはありとあらゆる肌色の人たちによって、しっかりと継承されていくに違いない。

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