文化

ある日、私達の目の前に1隻の船が現れた。

しかしそれはただの船では無かった。

忽然と目の前に現れたそれは

どう見ても宇宙船だったのだ。


形は円盤状。

素材は恐らく金属だろうか、

鏡の代わりになろうかと言う程、

銀色でツルツルだった。


突然の珍品には、野次馬が多く来た。

しかし皆怖がって、近からず遠からずの位置で

それを眺めるだけだった。


その時、

一人の子供が宇宙船に向かって石を投げた。


『ブォンッ・・』


石は宇宙船にぶつかる寸前で何かに阻まれた。

野次馬たちはざわついた。


「これはすごい、

 なんていう技術力だ」


「しかし石を投げるなんて、

 反撃されたらどうするんだ!

 これだから子供は困る・・。」


喧騒の中、遂に事態は動く。


『カタン!プシュー・・』


宇宙船のハッチが開いた。

恐怖や期待で、現場に静寂が訪れる。


『カツン、カツン、カツン・・』


中から何かが現れた。

宇宙船と同じ色をした人間だった。

手が2本、足が2本、頭があって目や鼻や・・

と、パーツの構成は人間なのだが、

色やバランスが少し奇妙な生物だった。

また、耳や腰などには、

禍々しい機械が付いていた。


人々が微動だにしない中、

恐れ知らずな子供は前に出てこう声をかけた。


「ねえねえ、何しに来たの?

 遊びに来たの?」


その生物は首を横に振った。

耳に付けた機械のおかげであろうか、

言葉は通じるようだ。


やり取りを見ていた大人たちはハッとした。


(遊びに来たのではない・・

 ・・という事は・・・・)


人々は再びざわつき始めた。

しかし言葉が通じると分かったからか、

生物に聞こえないよう、声は小さくなった。


「侵略じゃないのか?

 そうだ、そうに決まってる。」

「いや待て、早まるな。

 何か事情があって助けて欲しいのかも・・」

「こんな技術力がある星の人が、

 我々なんかに助けを求めるか?」

「と、とにかく誰か、何か話しかけてみろ・・

 機嫌を損ねたら大変だ・・」

「警察、いや、自衛隊を呼ぶんだ!

 は、はやくっ・・」


程なくして、警察と自衛隊の両方が来た。


ベテランであろう一人の警官が、

人々から今までの状況を聞いた。


一通り聞き終わり、

いよいよする事が無くなった警官は

「・・よしっ・・」

と言って両頬を両手でパンッと叩き、

そして、生物に恐る恐る近づいていった。


警官は生物に笑顔で声をかけた。


「や、やあ!」


声がうわずる。


「か、観光かい?

 ど、どうぞお好きに、

 よろしければ、あの山なんて、

 い、いかがかな、ハハハ・・」


引きつった笑顔で警官が笑うと

その生物は首を横に振った。

同時に不気味な笑みをも浮かべた。


現場の緊張感はピークに達している。


その時、

1人の派手な若者が勢いよく飛び出して、

こう告げた。


「おい!いい加減にしろよ!

 ちょっとは何とか言ったらどうなんだ!

 どうせ侵略しに来たんだろ!

 俺はお前なんかにゃ負けないからな!!

 かかってこいよ!さあ!!!」


その生物は突如表情を無くし、

首を縦に振った。

同時に、腰の機械に手をかけた。


その瞬間、自衛隊の方向から

『パァン!』

と一発の銃声が響いた。

生物はその場に倒れ込む。



現場は騒然だ。


「誰だ!許可もなく撃ったのは!」

「すみません!しかし隊長!アイツは

 『侵略するか』の質問に対して頷きました!

 一刻も早く息の根を止めるべきです!」

「発砲許可は誰が出すんだ!?

 お前が出すのか!?違うだろう!」

「しかし隊長!・・」


揉める自衛隊をよそに

生物は最後の力を振り絞って、

ゆっくりと、再び腰の機械に手をかけた。


皆が機械と思っていたのは金属製の袋だった。

生物は中から別の機械を取り出し、

口に装着した。

そして・・


「asj@・・ydあ?・・k&あー、あー・・

 私の言葉が・・分かりますか・・?」


生物は言葉を発した。

人々は戸惑い、顔を見合わせた。

それを見て、生物は続ける。


「私は観光でこの星に遊びに来ました・・。

 侵略などするはずがない・・。

 仲良くしたいと思っていたのに・・

 うう・・ひどい・・・。」


生物の言葉を聞こうと、

人々は静かになっていた。

しかし頭の中は大騒ぎだった。

何が何だか分からない。


その時、

例の派手な若者が、人々の心を代弁した。


「ふ、ふざけんな!!

 お前、お前さっき侵略するって・・

 頷いたじゃねぇか!!

 観光だって遊びだって、

 否定しただろ!」


生物は、今にも消えそうな声で応えた。


「ああ・・・なんとなく分かってきました。

 そういう事だったんですね・・・

 私達の星では、

 首を横に振るのは『肯定』を意味し、

 首を縦に振るのは『否定』を意味します。

 もしかしてこの星では・・うう・・・」


間もなく、生物は息絶えた。







この星では、未だに戦争が無くならない。

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