第02話 消しゴム
あの日、突然目の前から消えた山田。
何が起こったのか何度思い返してもわからない。
突風が吹いたとき、一瞬だけ山田の周りが光に包まれていたような・・。
いや、ないないないないないないないない。
そんな小説の中のお話じゃあるまいし、そんなことある訳・・。
しかし、何か普通ではないことが起こっているのは理解した。
時は遡り、山田が消えた日。
砂埃にやられた目を擦りながら、少しずつ目を開ける。
「おーい、大丈夫かー」
体育教師が駆け寄ってくる。
生徒の無事を確認すると時計をチラ見した後、おおよそ500メートル先まで届きそうなほどの声を張り上げる。
「あーもうそろそろ時間だから、終わりにするぞー。体育委員、片付け頼んだ!」
相も変わらず声がでかい。
しかし問題はそこではない。
さっきまでボールを蹴ろうとしていた山田の姿が見当たらない。
クラスの中でも1位2位を争う程の高身長ひょろがりもやし男をそう簡単に見逃すだろうか。
まさか、あの風に巻き込まれたか?
再度辺りを見渡すが山田は見つからない。
それどころか突風のこと以外に話題が上がらないことに違和感を覚えた俺はクラスメイトに声を掛ける。
「なぁ、山田どこ行ったか知らないか?」
とっっっっっても怪訝な顔をされる。
そんな顔をされる覚えがなさすぎて思わず目を逸らしてしまう。
「山田?そんな奴居たっけ?」
「え?」
どうやら俺が何かしたわけではなかったみたいだ。
それにしても山田のことを忘れるなんてそんなことあるか?
存在感ありまくりの男だろうに。
しかし、クラスメイトの表情から察するに俺をからかおうとしているわけではないことを悟る。
山田の存在自体が消えてしまっている?
どういうことだ。
先に校舎に戻ろうとする先生を呼び止め山田のことを話す。
「おいおい、佐々木お前そんな冗談言うようなキャラだったか?あ、お前もしかして熱中症にでもなったか。ちゃんと水分補給しろよー」
冗談はよせとでも言うかのように背中をバシバシと叩くと先生は校舎の方へと歩き出してしまった。
先生までもが山田の存在を忘れていた。
教室に戻って一番にクラス名簿を確認したが、そこに山田の名前はなく、山田が使っていたはずの机も山田の荷物もまるで最初からそこに誰もいなかったかのように何もかもが無くなっていた。
唯一、前の時間に山田から借りていた消しゴムだけが俺の筆箱の中に入っていた。
帰りの会が終わると速攻で自転車置き場に走っていき、ガサツに荷物を前かごに入れるとペダルを思いっきり漕いだ。
行き先はもちろん山田の家だ。
幸い山田の家はここからそう遠くない。
「はぁ……はぁ…っ」
高校に入ってからと言うもの、運動を一切しなくなった体にはこの暑さも相まって応える。
額からはとめどなく汗が流れ出てくる。脱水にでもなってしまいそうだ。
何とか倒れずに山田の家まで辿り着いたが、インターホンを鳴らそうとして手が止まる。
もし、おばさんも山田のことを忘れていたら。
怖くなった。
乱れた呼吸を整えながら、おばさんが忘れるわけはないと言い聞かせ、インターホンに手を伸ばす。
「はい、どちら様ですか」
「お、僕です。佐々木です。佐々木悠真」
「えっと…どちら様かしら。どこかでお会いしましたか?」
家を間違えたかと辺りを見回す。
しかし、ここは正真正銘山田の家に違いなく、そして山田の母親の声が今インターホン越しで聞こえてきているのだった。
考えられることは一つしかなかった。
そこからどうやって山田の家とは反対方向にある自分の家に帰ってきたのかあまり覚えていない。
気付けば自室のベットに横になっていた。
山田がそこにいたと証明できるものは消しゴム一つと、俺の記憶だけとなってしまった。
どれだけ考えても不可思議な現象故、当然何か解決策が思い浮かぶ訳もなく、結局何が何だかわからないまま、体力だけが無くなりいつの間にか俺は寝てしまっていた。
山田が消えた カミトロニア @sake_no_5
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