山田が消えた
カミトロニア
第01話 消えた
蒸し蒸しとする梅雨明けの教室。
まだ6月だというのに、気温は30度を超えた。
この暑さでも学校という名の牢獄では「体育」という地獄が待っている。
無論、この暑さでもまだプール開きなどはせず、ごく普通の運動科目がそこには待っている。
「だぁー!あちぃー」
「おい誰か飲み物分けてくれ」
「・・あ、お前勝手に飲むな!!」
口を開けば「暑い」と「水」しか出なくなっていた頃、突如としてそれは起こった。
──山田が消えた
比喩でも何でもなく、物理的に山田は消えた。
この教室、そしてこの世界から。
何故“消えた”なのか。
正直説明が難しい。
まだ死んだと言われる方がややこしくない。
だが山田は消えたのだ。
そう、体育の授業中に、まるで神隠しにでもあったかのように皆の目の前から瞬きをするくらい一瞬のうちに消えた。
梅雨明けから数週間経った。
今週末から待ちに待った夏休みが始まる。
その日、気温は42度を越えようとしていた。
にも関わらず、うちの学校長様は脳みそが筋肉に侵食されてしまったのか、はたまた宇宙人に頭蓋骨の内側をまるまる筋肉にすり替えられてしまったのか、外体育を中止にすることなく『健全な肉体の維持』という名目の下、体育は実行された。
授業内容はサッカー。
このクソ暑い中走り回れるかってんだ。
通常時なら喜んで受けるであろうその授業内容もこの暑さの中では拷問と化していた。
息を吸うだけで咽せそうになる炎天下の中、頭から水道の水を被り何とか正気を保つ。
授業時間も半分を過ぎた頃、暑さに頭をやられたのか、はたまた元来の負けず嫌いが祟ってか気付けば両チームとも全力でサッカーを楽しみ、守っては攻め、攻めては守りを繰り返していた。
ピピーーーーッッッ!!!
試合時間の終了を告げるブザーが鳴る。
結果は・・
1 ─ 1
勝敗はまさかのPK戦へと持ち越された。
コイントス改め、ジャンケンでうちのチームは後攻に決まる。
4本目までの結果は、相手チーム2本、うちのチーム2本とまさかの接戦。
ここで決めれば勝てるという大事な場面。
キッカーは山田だ。
「いけー山田ァー!!」
「外したら山田の奢りな!!」
何とも理不尽極まりない応援の声にも関わらず、山田は涼しい顔をしてボールを受け取ると位置に着く。
「僕が決めたらアイス奢ってね」
何という余裕。
不覚にもかっこいいと思ってしまう。
目を覚ませ、あれは山田だぞ。
笛の合図を皮切りに、皆の視線が山田に向けられる。
ふーと息を吐き山田は後ろに下がる。
この一蹴りで勝負が決まる。
緊張の一瞬。
その場にいた全員が息をのみ山田を見守っていたその時。
グラウンド内に突風が吹き荒れる。
それはほんの僅かな時間。
目を開けたときには、そこに山田の姿は無く、ボールだけが転がっていた。
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