第5話 少女漫画
少女漫画は幻想の世界だ。
出て来る男にリアリティがない。
女の子もかわいくない。
主人公はぺちゃパイ、ブス、冴えない女の子で、男は線の細いイケメン。気障で俺様系。そして、中盤ではイケメン同士で、ヒロインの取り合い。
こんな男は実在しないと言いたくなってくる。
読んでてしんどくなって来る。あんな風に、周りくどい女は一緒にいて疲れるだろうと思う。たかだかキスをするまでがものすごく長い。5巻くらいになっても、まだしてない。ずっと一緒にいるのに、関係が全く進展しないのが謎だ。
でも、精神的なつながりは強くなっていく・・・。
昔付き合っていた女の子は少女漫画が好きだった。だから、部屋で読んだことがあったけど、読んでいて具合が悪くなってしまった。こういうのが理想なんだと思うと、裏切ったら悪いなと変な緊張をする。
壁ドン、どこでもキス、頭ポンポン、美人の女の子より普通の子を選ぶ。
こんなやつは俺の知る限りでは1人もいない。
今日は少女漫画好きな女子に翻弄されてた、イケメンの話。
***
これは大学時代の友達(A君)から聞いた話。
彼ははっきり言ってイケメンで、相当モテてていた。
彼女がいたけど、よく合コンに行っていた。彼女はアイドルみたいに可愛かったけど、もっといい子がいれば乗り換えようと思っていたんだろう。
彼は家庭教師のバイトをしていた。
勉強のできない女子高生(Bちゃん)に、算数と英語を教えていた。
俺が親だったら、先生は同性にすると思うんだけど、そこの親は有名大学の学生に目がくらんだのか、イケメン好きだったのか、彼に決めてしまった。
女の子は先生のイケメンに目がくらんでおろおろしていた。
隣に座ると、シャーペンを持つ手が震えている。恥ずかしすぎて、A君の目が見られない様子だった。
けっこうかわいい子だったから、A君もまんざらではなかった。
でも、勉強ができないから見下していていたし、付き合いたいなんて全然思っていなかった。
しばらくして、部屋に2人きりの時に、Bちゃんからラブレターをもらった。
「読んでいい?」
「え、恥ずかしい」
女の子はうつむいたけど、ダメとは言わなかった。
A君がそれを読むと、『先生が好き』と言うラブレターだった。
後ろを見るとベッドもあるし、部屋には内鍵がかけられるようにもなっている・・・。A君はすぐ彼女を物にできるとわかっていたけど、彼女の部屋にたくさんの少女漫画があるのを見て、やっぱりやめることにしたそうだ。夢を壊したらかわいそうだと思ったらしい。
「ありがとう。こういうのもらったことないから嬉しいよ」
と、ウソをついた。そんな筈はなかったのだが。
「彼女とかいるんですか?」
Bちゃんは真っ赤になりながら訪ねた。
「募集中」
A君はさらに嘘を言った。聞いてるだけでムカついてくる。
「えぇ!そうなんですか?」
「うん」
「どうしたら、先生の彼女になれますか?」
「う~ん。そうだなぁ・・・俺の大学に受かったら、付き合ってもいいよ」
A君は言った。
「え。でも、私、成績悪いし・・・」
A君は不可能だとわかってわざと言ったんだ。彼女の偏差値は40くらいだったのに対して、A君の大学は65以上だった。
「ちゃんとやれば大丈夫だよ」A君は適当に言った。
「でも・・・」
「じゃあ、偏差値60になったらキスしてあげる」
こういう男はホストにでもなった方がいい。
それから、Bちゃんは寝る間も惜しんで勉強した。A君に質問して来る内容がだんだん高度になっていった。A君はどうしよう・・・本当に受かっちゃったらと不安になって来た。
「偏差値50になったら、何してくれますか?」
「そうだなぁ・・・ハグしてあげてもいいよ」
別にハグぐらいだったら挨拶みたいなものだからと、A君は軽く考えていた。
その次の模試でBちゃんの偏差値はいきなり51になった。私立文系で、英語・国語・日本史選択だったから、ちょっとやれば成績は上がるし、運もあったらしい。A君は少女漫画ばりに、Bちゃんをぎゅっとハグした。
「B、頑張れよ。キャンパスで待ってるからな」
それからは、しょっちゅうBちゃんに触っていたそうだ。髪を撫でたり、手を握ったり。Bちゃんがどぎまぎする姿が可笑しかったらしい。
Bちゃんの両親は娘の成績が劇的に上がって喜んだ。
それで、先生へのお礼と言って、ヴィトンのキーホルダー何かをプレゼントしていた。A君はそれを大学で自慢していた。
「俺、生徒から告白されてるんだよ・・・めっちゃ可愛い子でさぁ」
それから、A君は味を占めて、Bちゃんにもっと思わせぶりなことを言うようになった。
「B。そんな成績じゃ俺の彼女にはなれない。もっと頑張れ」とか、「偏差値55になったら模擬デートしてやってもいいよ」などだった。
「模擬デート?」
「うん。デートの予行演習」
「え、どんなことするんですか?」
「そうだなぁ・・・手でもつないでみる?」
Bちゃんは照れて、にやにやしていた。
「あとは、俺の行きつけのレストランに行って・・・帰りには俺の部屋に寄って・・・まったりってのはどう?」
「はい。頑張ります!」
Bちゃんは、それからも寝ないで勉強した。好きだった少女漫画もテレビも封印した。
A君の茶番に付き合ってても仕方ないから、結論を言うけど、BちゃんはA君の通ってた大学の某学部に合格した。BちゃんはA君と同じキャンパスの学部だけじゃなくて、同じ大学の文系学部を全部受験した。合格発表の当日、A君の携帯に電話がかかってきた。
「先生。私〇〇学部に受かりました!」
「あ、そう。おめでとう。よかったね。頑張ったしね」
「私と付き合ってくれるって本当ですか?」
「う、うん。でも・・・お互いもっと知り合った方がよくない?俺のこと知ってがっかりするかもしれないし」
A君は逃げ腰だった。彼女は同じキャンパスにいるし、二股は無理だった。それに、家庭教師は終わったから、もう2人は何の関係もないからだ。
「じゃあ、今から先生の家行きますね!」
Bちゃんは、返事も聞かず電話を切った。A君は慌てて電話を掛けたけど、Bちゃんは携帯を持っていなかったし、自宅に電話したら今出かけていると言われてしまった。これから、彼女が来るのに・・・どうしよう。A君は絶望的な気持ちになった。
***
A君が家にいると、先に彼女がやってきた。その日は一緒にDVDを借りて見るつもりだったから、彼女が駅前のTSUTAYAで、前もって2人で選んでおいたタイトルを借りて、持って来ていたのだ。
その後来たのがBちゃんだった。A君はインターホンを無視するわけにいかなかった。Bちゃんはボディコンのような過激なファッションで、化粧もしていた。前から思っていたけど、巨乳だった。スタイルもよかった。
「あ、彼女さんですか?今日から先生と付き合うことになったので、お引き取りいただけませんか?」
「え?何言ってるの?A、浮気してるの?」
そう言って、A君を睨むと怒って帰ってしまった。美人だからプライドが高かったんだ。『まあ、いいや、そろそろ別れようと思ってたし』と、A君は呼び止めようとはしなかった。
「その格好で電車乗って来たの?」
「はい。電車で痴漢に遭って、何回もナンパされました」
「あ、そう。わかるよ・・・」
「私、今日から彼女ですよね?」
「でも、ご両親が反対するんじゃないかな?」
「親も先生だったらいいって言ってました」
「え、そうなの?」
A君はすぐに目の前の欲望に負けてしまった。
Bちゃんが初めてだったから、ものすごい長い時間をかけてSEXをした。
すごく気を遣うし、Bちゃんが痛がるから、A君にとっては、そんなに楽しいものではなかった。
でも、痛そうにしているところが初々しくてかわいかった。これから、俺が色々教えてやろう・・・。A君はニヤニヤした。
「結婚、してくれますよね。私、決めてるんです。人生一人だけって」
「えぇ!そんなの今決められないよ」
「浮気はメっですよ」
A君は、それでもうまく理由をつければ別れられると思った。
就職したら遠距離になって、疎遠になるかもしれない。
「卒業式いつ?」
A君は話題をそらそうと思った。
「3月20日くらい」
「じゃあ、入学式は?」
「まだ書類が届いてないから、わからないです」
「君と同じキャンパスで会うなんて、信じられないなぁ・・・」
「あ、あれ、ウソなんです。全部、落ちちゃいました。だから、通信制にしました」
「えぇ!」
「でも、ちゃんと〇大の後輩ですよ」
「通信は就職もよくないし、もったいないよ。通信の人は昼の学部と全然交流ないよ」
「いいんです。先生と付き合えるなら」
BちゃんはA君の胸に顔を埋めた。
A君は今海外にいる。南米だっただろうか・・・。
だから、卒業後は一度も会っていない。
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