第4話 改・夫婦交換

*本作はカクヨム利用規約に違反していた「夫婦交換」という作品を書き改めたものです。第2話から別のエンディングになっています。


 今日はディープな大人のお話。

 普通の大人じゃなくて、タガが外れた大人の人たち。

 しかし、もともとは普通の人たちだった。セックスレスという、取り立てて珍しくない悩みを抱えているだけの・・・。

 

 世の中、セックスレスの夫婦は多いらしい。

 30代で47.0%、40代で59.0%、50代では71.3%がセックスレス夫婦というリサーチもある。若い人にとっては、結婚への夢が壊れるかもしれない。


 俺のセフレの人妻たちはセックスレスの人ばっかり。セックスレスの場合、両方がもういいと思っていれば問題ないけど、片方はやりたい、でも、相手が・・・。と、いう場合はかなり深刻な話になる。いろんな女性に話を聞いてみたけど、夫から求められない状態は、かなりしんどいらしい。女性としての自信を失うどころか、愛されてないこととイコールだと考えてしまうからだ。


 俺は独身のくせに分かったような口を利く。

「結局、ほとんどの男は奥さんのことは好きだし、浮気してても愛してるのは君の方だと思うよ。でも、セックスレスってほとんど解消しないんだって・・・しみけんがYouTubeで言ってるのを見た。だから、諦めて外で発散すれば?」


 日本では、セックスレスが理由で離婚することができるらしい。つまり、裁判で強制的に離婚が認められる法廷離婚事由になるんだとか・・・要件は3つ。『誘っても断られる。大体1年以上レスの状態が続いている、性交渉が困難な事由がないこと』だそうだ。そうなると、日本の半分の夫婦は相手から離婚されてしまう可能性があるということだろうか。


 俺が知ってる人で、旦那さんのせいでレスになってる夫婦がいた。

 どちらも悩んでいたが、どうしようもなかったらしい。

 理由はありふれているけど、旦那さんは奥さんを女として見れなくなっていたということだった。彼女はまあまあきれいな人だったから、彼女と付き合いたい男なんて山ほどいるだろうという感じだった。

 でも、旦那さんにとっては、彼女はもう子供のお母さんでしなかなかった。


 その夫婦は、セックスレス夫婦向けのカウンセリングを受けていた。

 そこのカウンセラーがかなり振り切れた人で、レス夫婦を集めてグループセラピーをやっていたそうだ。それで、10人くらいで輪になって、参加者の気持ちを吐き出させる。円になる時は、夫婦を向かい合わせに座らせる。そうすると、パートナーを客観的に見られる。両サイドには他人の奥さんも座っている。緊張するし、興奮もする。人のパートナーを見て、こんなに素敵な相手なのにどうして?と思ったり、この人は無理・・・と思ったり。色々な思惑が乱れ飛ぶ。想像しただけでエロい。


 しかも、そこで夫婦交換をしてみたいカップルがいたら連絡先を交換することもできるとか。その目的で、このグループセラピーに参加しているカップルもいるようだ。夫婦で参加しているから、健全な気もするし、インモラルな感じもする。


 で、俺の知人Aさんは、別の一組の夫婦と夫婦交換をやってみることにしたらしい。なぜ、俺が知ってるかと言うと、俺と奥さんが付き合っていたからだ。


 俺はこの話を聞いて、ちょっと怖くなった。

 悪いことが起きる気がした。

 夫婦に亀裂が入るとかじゃなくて、もっと悪いことが。


 ***


 もしかしたら、これを読んでいて、うちもグループセラピーに参加してみたいという夫婦がいるかもしれない。

 残念ながら、どこでやってるかは教えられない。不特定多数の人が入り込むといけないから、紹介者がないとダメで、きちんと性病検査の証明書なんかも出させて、安全に運営しているそうだ・・・ってことは、もともと相手を見つけることを前提としてるんだ。

 でも、男女が集まると自然とそうなってしまう・・・って思うのは、俺が普段AVを見過ぎてるのか。


 Aさんという女性は、前の会社で出会った派遣さんだった。で、彼女にLine教えてと言われて、教えたら、すぐにそういう関係になった。彼女は相当肉食だったんだろう。一緒にいた時のことを思い出すと、確かにそんな気がする。


 ちなみに、俺はよっぽどじゃなければ、誰にでも連絡先を教えてしまう。彼女がいないから、別に揉めない。失敗したと思ったら、Lineを見ないし、返事を出さない。


 俺とAさんは友達みたいな感じだった。すごく話しやすい人で、一緒にいて心地よかった。そこそこきれいな人でもあった。

 旦那さんとは恋愛結婚で、友達の紹介だったとか。社会人になってから出会って結婚。言っちゃ悪いけどありふれている。


 前にAさんに旦那の写真を見せてもらったこともあったけど、お似合いの夫婦だった。旦那は爽やかで感じのよさそうな人だった。がっちりしていてスポーツマン系。年齢は2人とも30代半ばで、小学生と中学生の子どもが1人づつ。こういう人と不倫をしていると、空しくなる。彼女には帰る家があって、俺にはないからだ。


「俺も早く結婚したいなぁ・・・」俺は独り言のように言う。

「一回してみれば?そしたら、意外とはまるかも」

 彼女は面白がって笑った。「いいなぁ。江田さんの奥さんになる人」

「どこが?」

「好きでしょ。SEX」

「うん」

「じゃあ、レスにならないよ」

「でも、相手が嫌がるかもしれないし・・・」

「江田さんだったら、疲れててもやりたいかな、と思う」

「あ、そう?」

 ちょっとうれしい。

「何でレスになったんだと思う?」俺は好奇心から尋ねる。

「忙しすぎて鏡も見ない生活をずっとしてて・・・それに、子どもに怒ったりするのが嫌だったみたい」

「普通じゃない?」

「優しいお母さんがよかったみたい。私には無理だったから」

「でも、俺の近所でも、お母さんは結構子どもに怒ってるよ。みんな外面はいいけど、戸建てだから丸聞こえだし」

「そうなんだけどね・・・旦那は外で見かける優しいお母さんが普通だと思ってるの」

「じゃあ、優しいお母さんになってみれば?」

「どうしても無理なの。かっとなって、怒っちゃうの」

「じゃあ、セクシーな下着を着るとか。君、きれいだよ」

 Aさんはやせ型なのに、腹が出てて、胸も垂れ下がっているけど、俺はそういうのも好きだった。

「不思議だね。他人から見たらすごく魅力的なのに。旦那は君の価値がわからないなんて。いつも見てると、当たり前になってくるのかな・・・もったいないね」 

 俺は慰める。

 

 ***


 俺は彼女が結構気に入っていた。

 とにかく人柄がよかった。

 お互い別れ際には、次は”いつにしようか”という話になるような人だった。


 でも、彼女に家族がいるからあまり会えなくて、月1回か2回くらい、俺の家に来ていた。大体土日。しかも、子どもが塾行ってる合間とかの短い時間。俺は時間つぶしに利用されていたのかもしれない。


「いいなぁ。広い家に一人で住んでて」

 彼女は俺の家の3Fのベッドルームを見て言った。

「でも、寂しいよ。家族がいないから」

「いいなぁ。江田さんの奥さん」

「俺、まだ相手いないし」

「何でだろうね。理想が高いんでしょ」

「よく言われる」

 俺たちは笑う。俺は彼女のことは好き。でも、もし、俺が彼女が20代の独身の頃に出会っていたとしても、彼女を選ばないと思う。平凡過ぎるからだ。俺は普通の人はあまり好きじゃない。もっと目立つ人、すごい美人とか、東大卒とか女医とかに惹かれてしまう。

 でも、そういう人たちから見たら俺は基準点を満たしていない。さらに年も取ってしまってる。だから、いつまでも結婚できない。

 

「今度生まれ変わったら・・・江田さんの奥さんになりたいな」

 彼女はベッドの横で服を着ながら言った。 

 でも、俺は来世でも彼女を絶対に選ばないのがわかってる。

「そういうことを言うんじゃない。君にはかわいい子どもたちがいるんだから」

「そうね・・・」

 彼女は寂しそうに言った。


「今度、旦那とカウンセリング受けるの・・・セックスレスの」

 俺はちょっとびっくりした。

「悪いけど、そういうのって旦那を追い詰めてしまうんじゃない?」

「うん。でも、私が辛すぎて耐えられないから」

「じゃあ、不倫すればいいじゃん」

「それだと、ダメなの・・・離婚したくないから」

「旦那は君が浮気してるの気付いてる?」

「うすうすわかってると思う」

「それはまずいね・・・俺も困るよ」

「絶対迷惑かけないから。ごめんね」

「いいよ・・・俺もAに会いたいから・・・でも、離婚なんかになったら申し訳ない」

 君とは結婚できないし・・・。

「お互い、そうならないように、カウンセリング受けるの」

「そうだね・・・解消するといいね」

 そろそろ彼女との関係も終わりだけど、俺はそれほどのめり込んでいなかった。むしろ、2人のためにはその方がいいと思っていた。彼女は家庭に戻るべきだ。お人好しの旦那と子供たちの元へ。


 ***


 俺は翌週の平日の夜、彼女に会った。

 彼女は女友達に会うと嘘をついて、子どもの塾のお迎えを旦那に頼んだらしい。奥さんがすごく俺に入れ込んでいるから、気が咎める。大事なお母さんを盗み出しているみたいだから。実際はお母さんが勝手に押し掛けて来てるんだが。


 お母さんも女なんだよ。知ってた?


 俺は彼女に会うなり尋ねた。

「カウンセリングどうだった?」

 俺は例のセックスレスカウンセリングに興味津々だった。

「よくわからないけど、心理カウンセリングみたいな感じだった」

「どんな事聞かれるの?」

「お互いどんなことを悩んでいるか、とか・・・」

「旦那さんは何て言ってた?」

「仕事で疲れててそんな気持ちになれないって」

 きっと、奥さんを女として見れないからだ。

 でも、それを言うと傷つくから仕事のせいにしてるんだ。優しい旦那だ。

「じゃあ、仕方ないんじゃない?」

「だからね。今度グループセラピーを受けることになったの」

「グループ?え?それって、、、やばくない?」


 俺みたいな遊び人でも、見知らぬ人に性生活を開示するのは、やっぱり恥ずかしい。


「それって、大丈夫?そっから、不倫したりしない?」

「あるかもね。

 でも、夫婦一緒にだから。参加者には、夫婦で隠し事はしないっていうルールだけはあるの」


 旦那のいる前でその奥さんとSEX?俺は赤面する。


 セックスレスの夫婦はやけくそになっているのか、随分振り切れてると思った。

 言い換えれば4P。

 俺はそういうのが苦手だし、ありえない。


 グループセラピーの狙いとしては、そこで、旦那が興奮して、奥さんをまた女性として見られるようになるということなのか・・・。


「へえ。よく考えたね。でも、嫉妬深い旦那だったら?男の嫉妬は強烈だよ。俺より反応がいいとか、俺よりあっちが好きなんだろう?っていう風にならない?」


「そうなら、最初から参加しないんじゃない?」

「そうだけど」


 俺はすごく嫌な予感がした。


「相手が凄くても、それほど感じてないフリすれば?」

「私は無理。出ちゃうタイプだから」


『あ、この女、ただの好きものだったんだ』と、俺は気が付いた。性にだらしない女。色ボケの垂乳根の母。俺は一気に覚めた。


「グループ、どうだったか教えて」

「いやだ!別に話すだけだよ。最初だし」

 彼女はニヤニヤしていた。自分から話し始めたくせにと、俺は思う。

 彼女が笑うと、歯並びの悪いのが目立った。汚らしく思えてしまった。

 この人は、レスで悩んでるんじゃない。ただ、やりたいだけなんだ。


 その翌週、彼女から『会いたい』というLineが来た。グループセラピーで出会った夫婦と乱交して性病を貰って来てるんじゃないかと、俺は怖くなった。


「スワッピングやってみた?」俺は予め確認したかった。

「これからなの。今度の土日」

「子どもはどうすんの?」

「実家に預ける。江田さん、会いたいんだけど・・・無理?」

「週末スワッピングするなら、いいじゃん」

「でも、しばらく会えないかもしれないから。旦那にスワッピングに参加していいから、不倫相手と別れろって言われたから」

「不倫相手って、俺?」

「うん。だから、最後。お願い」

 

 彼女の肉欲はすごいなと思う。普通のお母さんなのに・・・。俺、そんなにすごい?ちょっと嬉しいけど、こういう女は気持ち悪い。


「旦那が江田さんと、ちゃんと話合ってこいって。だから、今日はゆっくりできる」

 

 話し合うも何もない。俺たちは割り切った関係で、秒で別れられるのに。旦那は、俺たちが失楽園ごっこをやってると勘違いしているらしい。


 俺はグループセラピーのことを尋ねてみた。自分ではそういうのに参加したくないけど、設定には興奮する。普段、夫婦という枠組みに囚われて、本能に抗って生きている人々の闇を知りたかった。きっと、すごいんだろう。


 セラピーの内容は、大体、次のような感じだったらしい。


 ***


 グループセラピー。これはキツイ・・・性生活は千差万別。別にどうだっていいじゃないか。セックスレスで悩んでいる人たちは、相手に自分の価値観を一方的に押し付けようとしているんじゃないだろうか・・・。どちらかがその気じゃなかったら、それを受け入れるしかないと思うのだが・・・。離婚するかどうかは当事者同士の問題だけど、ただ外に相手を作るだけ。


 グループセラピーの参加費は1人1回15000円。人に喋らせておいていい商売だと思う。俺もやってみたいくらいだ。

 でも、タダで遊べる相手を探している人には安いかもしれない。

 まるでお見合いパーティーみたいだと思うのは、俺みたいな独身者だけだろうか。


 まず、会場にはホストの女性がいる。何度か会ったことがある若く美人のカウンセラーだ。タイトスカートにハイヒール。白衣。ストッキングを履いた足を組んでいて艶めかしい。その中で彼女だけは、セックスレスではないだろうとみなが思った。その場で唯一問題を抱えていない健全で幸福な人・・・。高みの見物を決め込んでいる。臨床心理士の資格を持っているけど、この人は一体何なんだろう・・・。結婚しているのか、独身なのか、フリーなのか、彼氏がいるのかもわからない。俺はカウンセラーという職種の人たちが苦手だ。あんたに一体何がわかるんだと思ってしまう。


 参加者は10人だった。


 年代は30代~40代。多分、年齢を合わせているのかもしれない。それが出会いの場でもあるからだ。5組の夫婦がいて、まあまあ美男美女とそうでない人がいた。お互いはそれぞれのパートナーを知らない。プライバシーを保つためだ。


 最初に自己紹介を求められる。でも、名前は言わなくていい。名札があって、1番と書いてある。今回の1番は、俺のセフレのAさんだ。


***


「1番。35歳の派遣社員です。子供は2人で小学生と中学生です。2人目が生まれた頃からレスです」

 Aさんはその中では2番目にきれいだった。次はBさん。

「2番。東京都品川区から来ました。専業主婦、36歳です。子供はいません。3年付き合った彼と、3年前に結婚しましたが、1年前からレスです」

 Bさんは化粧が濃くて、スタイルのいい美人。その中では1番きれいだった。ミニのタイトスカートをはいていて、中が見えるんじゃないかと、みなハラハラしていた。Bさんも手を添えて隠していたが、それなら履いてくるなと他の女性は思っていた。


 旦那さんが羨ましい・・・と他の参加者は思っていた。こんな奥さんがいてレスなんて・・・。

 でも、俺だったらこんな奥さんからは逃げたくなる。はっきり言って怖い。

「3番。東京都大田区から来ました。専業主婦。30歳。子どもがいないのにレスで悩んでいます」顔が丸くて大きくて、人の良さそうな感じだった。友達ならいいけど、その人を女性としては見れない。

「4番。神奈川県から来ました。会社員、28歳。結婚する前からレスでした」

 若いし、スタイルがよくてきれいだけど、性格がきつそうな女性だった。キャリアウーマンぽい。こういう人と一緒にいたら疲れるし、ストレスが溜まると思う。

「5番。埼玉から来ました。会社員。32歳。ここ数年は年1回くらいです。今日は夫が参加したいというので、仕方なく来ました」

 中肉中背で、見た目は普通だった。その中では一番まともに見えた。


 女性5人のうち、旦那に原因があるのは4人。奥さん側が1人。


 6番からは男性。6番はAさんの旦那。

「6番。東京都から来ました。36歳です。自分的にはそんなに悩んではいないんですが、妻がどうしてもというので今日は来ました」

 子どもがいることは言わなかった。1番と夫婦だと思われたくないからだ。A旦那は恥ずかしかった。自分がなぜ晒し物にならなくてはいけないのか・・・。A旦那はがっちりした体型で、その場にいた奥さんたちは、Aさんのことを男らしくて真面目そう。あちらも強そう。いいなぁと思っていた。その場にいた男性では、一番普通の感じだった。

「7番。38歳です。うちも妻が参加したいというので来ました。もともとそんなに性欲は強くないので、僕自身は悩んでいません」

「8番。30歳です。うちも妻が参加したいと言うので・・・改善しなかったら離婚を考えると言われていて。子どもはいません」

「9番。31です。子どもが生まれてからレスで、妻が忙しいと言って全然させてくれないので悩んでいます」

 旦那の発言で、9が5と夫婦だということがばれてしまった。

「10番。40歳。うちも妻が参加したいというので来ました」


 Aさんは、告白タイムの時、「ずっとレスなので愛されていないんじゃないかと不安になるんです。今まで夫婦で話し合ったり、2人で旅行したりしてみたが、主人がその気になれなくて・・・」と話した。女性たちのコメントはみな似たり寄ったりだった。

 俺は旦那さんの気持ちもわかる。肉食だと余計に引いてしまう・・・。女性はいつまでも女として扱われたいのだと思うけど、表面的には気を遣うことができても、体は正直だ。


 2の女性は、さらに貪欲だった。女性も性欲があるから、性行為は配偶者の義務だと訴えた。旦那にEDの治療を勧めているけどやろうとしない。たまに相手から誘って来ても途中で中折れしてしまうとか。

「主人は自分がEDだと認めたくないみたいなんです」

 これを聞いて旦那がどう思うか心配だ。誰にも言いたくないようなことを、知らない人の前で発表されてるんだから。


 最後にカウンセラーが閉める。「これからマッチングタイムにしたいと思います。皆様のお話を総合して、カウンセラーとして勝手に夫婦の組み合わせを決めさせていただきました」

 結局、これは、スワッピングのパートナーを探す会でしかなかった。

 だから、効果がなくても人が集まる。リピーターがいるから、毎週やってるのに5組も参加しているんだ。

 

 俺のセフレのAさんと10番の40歳の男性がペアになった。Aさんは不満だった。なんで、私がこんな冴えないおじさんと・・・。旦那6番は4番の若い女性とペアになった。旦那は涼しい顔をしているが、内心は喜んでいるだろうと思った。相手の女性は笑顔だった。きつそうな女性でも、年上の男と一緒の時は大人しくなるものかもしれない。二人は8歳も離れているのにお似合いだった。8番の男性、30歳くらいの・・・イケメン。あの人が夫だろう。私の相手はどうしてあの人じゃないんだろう・・・どうして、一番年上のこの人が私の相手なんだろう。


 10番の男性は、感じは悪くないけど、ちょっと薄毛で日焼けして痛んだ肌に、汚れた眼鏡をかけていた。背が高くて180センチくらいあるだろうか。こういう会に参加しているけど、お金はなさそうだった。


「初めてですか?」男は尋ねた。名前も知らないが、聞く気もなかった。

「はい」

「うちは3回目なんですよ・・・わはは」

「そうですか・・・奥さんは何番の方ですか?」

「私は一人参加です」

「え?」

「さくらが何人か混じってて・・・、今回はサクラは何番かな」

「オタク以外はもしかしたら・・・夫婦はいないかも。会ったことある人ばっかりだから。ダメですよ。・・・よそで言っちゃ」

 男は聞かれもしないのに、得意になって喋っていた。

「大体毎週メンバー一緒なんですけどね。新しい人が入るとけっこうみんな目が血走っちゃって・・・」

「じゃあ、20代の若い女の人は?」

「あの人も一人参加です」

「え?あんなに若いのに何のために?」

「まあ、出会いを求めてるんでしょうね。セックスの相手を。

 でも、出会い系は怖いし・・・こういうちゃんと検査されている所でなら安心だってことでしょうから」

「私・・・お断りしたいんですけど」Aさんは男が気持ち悪かったからそう言った。

「ダメですよ。私だってお金払って来てるんですから」

 男はそのまま抱き着いてきて、Aさんの首を舐め始めた。一瞬で獣に変わったようになって、ハアハアと臭い息を吐いた。Aさんの心はすっかり萎えたが、もう逃げられそうにないので、仕方なく観念した。

 

 Aさんは天井を見つめていた。知らない男が隣に寝ている。自分がなぜそこにいるのかわからなかった。後に残ったのは後悔だけ。相手の男は満足していたようだけど、意に染まない性行為には虚しさしか残らなかった。


***


「江田さんと続けていればよかった・・・。独身でイケメンの江田さんと、その男とじゃ比べ物にならなかった」


 Aさんは電話でそう言っていた。俺としては彼女の本性を知ることができてよかったと思っていた。旦那に対してのリスペクトがなさ過ぎた。こういう女には失望する。


「旦那とその若い人はどうなったの?」

「今も続いてて・・・そのうち、離婚してあっちと結婚したいって言うんじゃないかって不安で」

「へえ、あちらは独身なんだ?」

「よく知らないの・・・でも、若いし、そうかもしれない」

「離婚する時は、慰謝料いっぱいもらって別れれば?」

「そんなにもらえないよ。あの人そんなに高収入じゃないし、住宅ローンもまだ2000万くらいあるし。あの人、年収500万くらいしかないから」

「30代でそれだけもらってたらいい方なんじゃない?」

「そうだけど・・・、養育費だってそんなにもらえない」

 

 それだけわかってて、何でスワッピングなんてことを考えたんだろう。自分があぶれるって心配はしなかったんだろうか。女の食べ頃は短い。自分が思っているより、いい時期は早く過ぎ去っている。旦那は男盛りで、年下の女に求められることはあっても、逆は稀。俺は彼女が好きだったけど、彼女が俺たちの関係を台無しにしたんだ。


「また、会えない?」

「俺、もう彼女できたから。ごめんね」

 俺はとっさに嘘をつく。実態は万年フリーで彼女なんかいたためしがない。


 旦那は週末20代の彼女と会っている。Aさんだけがグループセラピーに参加し続けている。後で気がついたのは、そのセラピーに参加しているのは、サクラとパートナーが見つからなかった人だけだってことだ。夫婦で参加して来る人がいると、みんなその人達に釘付けになる。運よくパートナーにしてもらうこともあるけど、誰もAさんを気に入らない。


 Aさんはセラピー以外でも、他のメンバーと試してみたけど、誰もAさんを選ばない。Aさんは今も月1でその会に参加している。今も残っているのは、最初にペアになったあの背の高い男だけ。彼だけが今もAさんを指名してくれる。好きだと言ってくれる。だから、彼女の心は次第に揺らぎ始めているそうだ。


 

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