第25話 本編14 談合(2), 本編15 ニューバディ(1)
川に架かる長い橋の
信号が青に変わり二号車が走り出すと、後部座席から梟山が言った。
「富樫の元奥さんが経営している『モナミ美容室』は、この橋を渡ったらすぐの所にある『赤レンガ小道商店街』の中だ。左に信用金庫があるだろ。あの横の通りだ」
孔雀石は鋭い目を細めた。
「あら、手前の古いデパートは解体されたんですね。隣の喫茶店も閉まってやがる」
「効率経営の波ってやつか。川のこっち側の大型ショッピングモールに客を取られて、弱小経営の店は万歳したんだろ。煽りを食らうのは、地元の年寄なんかだ」
梟山は鼻に皺を寄せた。
孔雀石涼はバックミラーで梟山を覗く。
「詳しいですね。調べたんですか」
「ああ。あのガキ、住んでいるのがこの辺りだからな。『赤レンガ小道商店街』やこの一帯は、あのガキの採用前の身元調査も兼ねて、少し回った」
「なるほど。タケルはここの商店街の常連の可能性がある訳かあ。じゃあ、富樫の元嫁さんにも面が割れている可能性があるって事ですね。で、俺たちのチームがこっち」
「そういう事だ。ご近所さんには口を開いてもらえないだろうからな」
「富樫の野郎、その元嫁さんにも酷い暴力を振るいやがったらしいですね」
「ああ。カスだな。それより、右が警察署だ。ほらパトカーだぞ。運転には注意しろよ」
橋を渡りきった辺りで、警察署から出てきたであろうパトカーとすれ違った。孔雀石は素早く速度計に目を配ると、少し緊張した面持ちで答えた。
「もちろんです。あぶねえ、法定速度、法定速度っと」
パトカーをやり過ごした孔雀石は、軽く息を吐いてから言った。
「――しかし、応じてくれますかね」
後部座席の梟山は窓から周囲を見回しながら答えた。
「その前に駐車場を見つけねえとな。この車で路駐して駐禁切符でも切られたら洒落にならん」
車の速度を落としてウインカーを点滅させた孔雀石が言う。
「ていうか、キョウさんの酒瓶も洒落になりませんよ。仕舞ってください」
「俺は運転してないからいいだろ、別に」
「いや、そういう問題じゃ……」
二人を乗せたオレンジ色のセダンは橋を渡り切って少し進んだ所の車道上で、ウインカーを点滅させたまま停止していた。
15 ニューバディ
秋の澄んだ光に照らされた幹線道路の上を一台の茶色いワゴン車が走っている。トリノス調査探偵事務所の三号車である。
運転席には鳩代伶が座っていた。正面から指す陽の光に眩しそうに眼を細めて運転している。助手席の雀藤友紀はサンバイザーを降ろしていたが、眉を八の字に垂らしていた。彼女はその顔を隣の鳩代に向けて言った。
「なんだか、すみませんでした」
「ん? 何が?」
鳩代は運転しながら口角をあげた。
雀藤は前を向いて答える。
「雲雀口さんですよ。いろいろと」
「いや、俺には何も……」
「鳩代さんって、ご結婚はされているんですか?」
唐突な雀藤の問いに、鳩代は口を大きく開けた。
「あ? あ……いや、してないけど」
「でも、恋人とかいるんですよね」
「いや、特にはね。この歳になると、なんだか、いろいろと面倒で」
「鳩代さん、お幾つなんですか」
また脈略がない。鳩代は困惑顔で答えた。
「四十二歳だけど」
「うーん……。変だなあ」
「何が」
鳩代は視線だけを雀藤に向ける。
雀藤は頷きながら、それに合わせるように顔の前で指を折った。
「だって、鳩代さん、イケメンだし、かっこいいし、背も高いし、見た目は二重丸じゃないですか。なんで独りで惨めな人生を送っているんですか」
「あの……、褒めてんのか
「鳩代さんって、下のお名前は、たしか……」
被せて尋ねてくる雀藤。それに戸惑いながらも、鳩代はちゃんと答えた。
「伶」
「レイさん。そうでしたよね。字はたしか、――ええと……」
「ニンベンに令和のれい」
「ほーほー。ってことは、いち、に、さん……七画だから、苗字も合わせると、ええと、ええと……」
「二十五画。画数占いかよ」
「ああ。私との相性は、まあまあですね」
雀藤はいつの間にか手に持っていたスマートフォンを覗きながら、しかめ面でそう言った。
鳩代は何度も隣の雀藤を瞥見しながら言う。
「あのな、これから組んで仕事する相手に相性まあまあとか言うか、普通」
「だって大事ですもん、相性。そう思いませんか」
「まあ、そうだけどさ……」
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