第24話 本編13 調査方針(4), 本編14 談合(1)

 大島は車内から窓越しに、周囲を走る車両を確認しながら言う。


「あんたは見習いじゃないの。私はあんたの指導教官役なのよ。って事は、全部私の取り分でしょうが」


「はあ? どうしてそうなるんすか。ああ、なんっか、やる気無くすなあ」


 阿鷹尊は頬を膨らませた。大島が笑いながら手を振る。


「分かった、分かった。では、三歩下がって……」


「おっ」


「三歩下がって師の影を踏まず。三対七で分けるってことで」


「三七ですか? やっぱ、そっちが七ですよね」


 大島はサイドミラーの角度に顔の角度を合わせて後方を確認しながら言った。


「あたり前でしょうが。リードするのは私の方だし。あんた、ポカやって、シャクのチームとキョウさんのチームに負けたら許さないからね。足引っ張らないでよ」


「分かってますよ」


 運転しながら阿鷹尊は下唇を突き出す。


 大島美烏は斜めに倒したシートから身を起こすと、胸の前で拳を握った。


「今度こそ、臨時ボーナス全額を獲得してやるわ。シャクのやつ、覚悟してらっしゃい」


「だから、僕と分けるんですよね。三七で!」


「分かった、分かった。でも、それはタケルが本採用になったらの話よね。本採用になるには、指導教官としての私の評価報告が必要になるでしょう。つまり、今回の働き次第ということよねえ」


「あー、はい、はい。分かりました。頑張ります。頑張らせていただきますう!」


 ふて腐れた様子で阿鷹は運転を続けた。大島は手を一回叩いて言う。


「分かれば、よーし。という訳で、あと運転よろしくね。私、ちょっと寝るわ。頭使って疲れたから」


 大島美烏は頭の後ろで手を組んで、シートに寝そべった。


「はあ? ったく、何なんだか……」


 阿鷹はしかめ面でハンドルを握っていた。


 登りきったばかりの太陽か放つ光を返している漆黒の一号車は、繁華街の方へとまっすぐに進んでいった。



14 談合


 後ろから陽に照らされながら、広めの幹線道路を走行しているオレンジ色のセダンは、トリノス調査探偵事務所の二号車だ。運転しているのは孔雀石涼で、そのはすで後部座席に座っているのが梟山公弘である。


 二人は逃亡犯・富樫の足跡を追い、富樫の前妻が営む美容室がある隣町へと向かっている。


 大型ショッピングモールの前を通り過ぎ、川に架かる長い橋が見えてきたとき、孔雀石がバックミラー越しに梟山に言った。


「キョウさん、さっきはすみませんでしたね。ちょっと言い過ぎました」


 腕組をした梟山は背中をシートに押し当てたまま答えた。


「いいや、あれくらいでちょうどいいんだ。気にするな」


 会釈して返した孔雀石は続ける。


「俺の拙い演技に引っ掛かってくれればいいんですけどね」


「相手も百戦錬磨だ。見透かされていたとしても仕方ないさ」


「敢闘賞、取りたいですもんね」


「そうだな。ま、頑張ろうや」


 梟山公弘は上着の内ポケットからスキットボトルを取り出すと、慣れた手つきで蓋を外し、口の前に運んだ。中身を一飲みしてから彼は言う。


「それにしても、あの鳩代って野郎、俺はどうも生理的に受け付けねえな。なんか気に食わねえ」


 もう一度ボトルを傾けた梟山は窓に顔を向けた。バックミラー越しに孔雀石が頷く。


「ですね。もう、すっかりエース気取り。何なんすかね、あの態度」


「こりゃあ、しっかりシメないといけねえな。それより、そっちの方はどうなんだ。順調か」


「ええ、まあ、なんとか、お蔭様で」


「最初が肝心だからな。絶対に手を抜くなよ」


「ええ、そのつもりです。やれるだけやってみようと思ってます。キョウさんにもいろいろと教えてもらって、ホントに助かってますよ」


「まあ、餅は餅屋。いや、蛇の道は蛇か。分からんことがあれば、何でも訊いてくれ」


「頼りにしています、先輩」


 後部座席から、運転席との仕切りのアクリル板越しに、梟山が言う。


「そんな事より、この富樫の件は気合を入れろよ。こっちはこっちで、臨時ボーナスの増額が懸かっているんだからな」


 ハンドルを握り直し、孔雀石が深く頷く。


「もちろんですよ。富樫の野郎、さっさと捕まえてやります。簡単に逃げられないようボコボコにしてやりましょうかね」


 シートに背中を戻して、梟山は笑った。


「それは気合を入れ過ぎだ。ブタ箱行きは不味いだろ。そこは慎重に行け」


「了解です。でも、本当に大丈夫なんですかね。なんとか、計画通りにいってくれればいいんですけど」


「どっちの」


「富樫の方ですよ。野郎、動きが読めねえ奴ですもんね」


 スキットボトルをもう一度傾けた梟山は、険しい顔で頷いた。


「そうだな。ま、こっちも全てタイミング次第だ。で、そっちの方はいつなんだ」


「予定では今夜か明日あたりのはずです。うまくいきますかね」


「大丈夫だ。イザという時は、場持ちは俺が引き受ける。心配はいらん」


 孔雀石は運転しながら、再びミラー越しに頭を下げた。


「なんか、ホントにすみません。いろいろと」


「いいから、とりあえず目の前の仕事に集中しろ」


「ですね。集中します」


「集中しているなら、ブレーキ踏め。信号が赤だ」


「ああ、すみません」


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