第23話 本編13 調査方針(3)
「覗き部屋って言うな。それはね、あの鳩代って中途採用のおっさんのガタイがデカいからよ。でも、元
大島は両足をバタバタとさせながら腹を抱えて一人で笑っている。
しかめ顔をチラリと大島に向けた阿鷹は、前を向いて運転を続けた。
一通り笑い終えた大島が真顔に戻して言った。
「とにかく、あの部屋は狭いから、四人じゃ窮屈でしょ」
と言った大島も、そこそこに美人。いや、世間一般の基準に副えば間違いなく美人である。雀藤もそれなりに可愛い顔立ちであり、やはり美人の領域には間違いなく入っている。運転しながら、阿鷹尊は二人の美女と狭い部屋の中でぎゅうぎゅう詰めになっている自分を想像して、少しニヤリとした。ハッとして、邪念を払うべく頭を何度も振る。
助手席から大島が言った。
「なにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪い」
「あ、いや。大丈夫です。大丈夫」
「なにがよ」
「――でも、あれですね。鳩代さんって刑事だったんですよね。なんで警察を辞めたんでしょうね」
話題を無理に戻した阿鷹に疑念の視線を送ってから、大島はスマートフォンの画面に視線を戻して答えた。
「知っらなーい。若い頃はそれなりにイケメンだったぽいから、なんか女関係でヘマしたんじゃないの」
「まったー。何の証拠も無しに、そういうこと言うのは止めましょう」
阿鷹は語尾を上げた。
スマートフォンをパタリと下ろした大島は、もともと大きな目を更に大きくした顔を阿鷹に向けて言う。
「じゃあ、証拠を探ってみる? 鳩代がなんで警察を辞めたのか。こっそり探ってみようか」
阿鷹は大島をチラリと見て、眉を寄せた。
「駄目ですって。探偵倫理に反するでしょ。誰からも正式依頼されていないのに、ただの興味本位で他人のプライバシーを覗いてはいけません」
大島はシートに身を戻し、つまらなそうな顔で言った。
「さっすが元銀行員ね。まじめですこと」
「それ、まじめとは関係ないでしょ」
次の信号が見えてきた。大島がそれを指差しながら言う。
「それより、どうしますか。将来の名探偵さん。これからの方針は」
阿鷹は車の速度を落としながら答えた。
「そうですね。まずは、予定通りこのまま山口の住所地に向かいましょう。で、その周辺で地取りしたら、それから前の職場を探してみて……」
「ぶぶー。不正解。そんな事をしても無駄よ、無駄」
車が信号待ちの車列の最後尾に停まると、大島は握っているスマートフォンの画面を阿鷹に見せた。阿鷹がそれを覗き見て言う。
「どうしたんです?」
大島はスマートフォンを自分の方に向け直してから説明した。
「千座千楚家具店をググってみた。結果は該当なし。で、とりあえずローマ字で打って検索したら……」
「外国の家具屋だったんですか?」
スマートフォンを覗きながら大島は首を横に振る。
「うんにゃ。こういうのが出た。イタリア語「センザセンソ」(Senza senso)。形容詞、副詞。意味、『無意味』、『意味のない』、『馬鹿げた』、『デタラメ』だって」
「なんですか、それ」
大島が話している途中で信号が青になった。前の車列の流れに続いて、一号車も走り始める。阿鷹が急ブレーキを踏んで横を向いた。
「あああ! ってことは実在しない家具店って事ですか」
後ろの車も急停止した。短くクラクションを鳴らす。大島に前を指差されて、阿鷹尊は口を尖らしたままアクセルを踏んだ。
「なんだよ、それ。ふざけてるなあ」
「たぶん、この履歴書の記載内容は全部『デタラメ』ね」
「はあ。何なんすかね、そいつ」
「一応、住所も検索したけど、そっちは実在する住所みたいね。でも、その辺は雑居ビルばかりの飲屋街だから、たぶん、これもガセの住所よ」
「まいったなあ」
阿鷹は渋い顔で周囲の車両に注意しながら、信号を直進した。そんな阿鷹の顔を横目で見ながら大島が尋ねる。
「どうする? 一応行ってみますか? 私は行っても無駄だと思うけど」
「――まあ、念のため、現地に行って確かめてみましょう。画像とかも撮っとかないと、報告書に掲載する分が要るでしょうから」
大島美烏は指を鳴らす。
「よーし正解。それなら、この道を直進だもんね。いいわねえ、その調子、その調子。この分だと、敢闘賞の追加ボーナスもゲットできそうね。そしたら、全部私のもの。うひひひ」
「なんで! 僕と折半でしょ」
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