第22話 本編13 調査方針(2)
書類を下ろして大島が答える。
「しつこいわね。あの酒臭さは間違いなく本物のキョウさんよ。キョウさんはね、変装のプロなの。通称『カメレオンの梟山』。苗字はフクロウなのにカメレオン。うける。ガハハハハ」
組んだ足の膝を叩いて笑う大島。そんな彼女を横目で見ながら、阿鷹は口を尖らして言う。
「どういうことですか。それじゃ、酒の臭いで変装もバレちゃうでしょ。警察から依頼の案件は梟山さんのチームだけで追うんですよね。大丈夫なんですか、本当にあの二人で」
「まあ、二人ともウチの表のエースだからね。一応は」
「梟山さんが……。じゃあ、孔雀石さんもですか? 二人ともエースなんでしょ」
「まあ、そうなるわね。彼は、ほら、こっちの方がエース級だから」
大島は拳を前後させてボクシングの真似をしてみせた。阿鷹が口を開けて頷く。
「ああ、なるほど。だから、凶悪犯である富樫の追跡の方に充てられた訳ですね。じゃあ、孔雀石さんもミオさんみたいに元自衛官だとか」
大島はまた書類を読み始めていた。彼女は読みながら答える。
「ううん。違うみたい。所長がスカウトしたらしいから、私も詳しくは知らないけど、なんか、裏の世界の人だったみたいよ」
「へえ……」
広い国道に出る前の信号で車を止めた阿鷹は、ハンドルに手を掛けたまま隣の席の大島の方を向いて言った。
「裏っていえば、表のエースがあの二人なら、裏のエースはミオさんなんでしょ」
大島は髪をかき上げながら答えた。書類に目を落としたままである。
「あたぼうよ。他に誰がいるのよ」
「ユキさんは?」
「シャク?」
大島美烏は一度短く視線を阿鷹に向けた。
信号が青になる。
阿鷹は戸惑いながら何度か大島の方に視線を送った。大島はまた書類を読んでいる。阿鷹はウインカーを出し、とりあえず信号を左折した。
体感でそれを確認した大島は、少し頷いてから、片方の手を振った。
「ないない。あれは只のメカおたく」
阿鷹はチラリと大島に視線を送ってから言う。
「でも、頭はいいですよね」
「かあ……」
口を大きく開けてそう発した大島美烏は、真顔に戻して言った。
「まあ、そうねえ。悪くはないわね。でも、アイツああ見えて、なかなかあざといからね。騙されんなよ」
阿鷹はハンドルを握ったまま両眉を上げる。
「マジっすか。あんな可愛い顔して。そうは見えないけどなあ」
大島は書類の前で両眼を左右に動かしながら続けた。
「あんた、二か月もウチに居て、まだ気づかないわけ? 駄目ねえ。この前の案件、見てたでしょうが。あれがあの子なのよ。結構、ズル賢い」
「そうなんすかねえ……。ああ、ズル賢いと言えば、今回の山口って男、あいつも相当にズル賢いですけど、そもそも彼はもともと何の仕事をしてたんです? 履歴書には、どこかで職人していたって書いてありまたよね」
大島は手に持っている履歴書を反対の手の指先で弾いた。
「この履歴書では、木工職人の見習いということになっているわねえ」
「
シートの上で寝そべりながら身を斜めに倒してジーンズの後ろのポケットからスマートフォンを取り出した大島は、顔の前に掲げたそれを操作しながら答えた。
「そうねえ。採用されてすぐに給料の前払いを要求するなんて話も聞いたことないわね」
「経済的に切羽詰まっているってことですかね。多額の借金があるとか」
「……」
大島は黙ったままスマートフォンを操作している。
阿鷹尊は大島の方をチラチラと見ながら言った。
「なんか臭いますよね、この山口って男。だから裏エースのミオさんと僕が山口の素性調査なんでしょ」
スマートフォンを顔の前から下ろした大島美烏は、その顔を隣の阿鷹に向けると、目を大きくして言った。
「そんな訳ないでしょ。あんたのせいでしょうが」
阿鷹は、隣の席で驚き顔をしている大島を二度見して尋ねる。
「え? 何が? なんで僕のせいなんです?」
「かあ……ったく」
呆れた様子でそう漏らして項垂れた大島は阿鷹を指差して言った。
「あのね、あんたが不用意にドアなんか開けて、林田さんと豊島さんに顔を見られちゃったから、あんたを
言い終えた大島は荒々しくシートに身を投げた。
阿鷹は動揺して一瞬だけ固まった。
「あ……そうだったんですね。だから僕だけ、あの『覗き部屋』に入れてくれなかったんですか」
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