第21話 本編13 調査方針(1)
13 調査方針
事務所が入っているビルから大島美烏と阿鷹尊が出てきた。雑居ビルが建ち並ぶ裏通りは、地元の店が並んでいる一本隣の煌びやかなアーケード通りとは対照的に、暗く湿っている。その上を二人は駐車場に向かって歩いていた。
大島美烏は書類を片手に握って読みながら歩いていた。阿鷹尊は何個もの重そうなバッグを提げて彼女の隣を歩いている。
角のゴミ置き場を曲がって少し入った所に月極駐車場がある。トリノス調査探偵事務所の社用車はそこに駐車されていた。
ゴミ置き場では
「何やってんすか」
大島は丸めた書類を左右に振りながら答えた。
「カラスって、苦手なのよね。なんか気持ち悪いじゃない。シッ、あっち行けってば、もう!」
「そうなんですか。意外だなあ。名前は『美烏』なのに」
烏は何処かに飛んでいった。書類を下ろした大島は反対の手で長い黒髪をかき上げながら辟易した様子で言う。
「やめてよ。本人も嫌なんだから」
「素敵な名前じゃないですか。それにカラスって、ものすごく頭がいいんですよ」
「知らないわよ。ああ、もう、なんだか縁起が悪いわね」
大島は革ジャンの上から左右の二の腕をさすりながら駐車場の中に入っていった。
中ほどの白線の枠の中に、漆黒の真新しいRV車が駐車してある。トリノス調査探偵事務所の一号車である。会社が購入したばかりの新車で、ボディは特殊コーティングで艶光り、鏡のように光を返している。高めの車体の助手席のドアを開け、大島美烏が乗り込んだ。後部座席に荷物を放り込んだ阿鷹は運転席に乗り込む。
シートを引いた助手席でシートベルトを締めた大島は、ブーツの脚をダッシュボードに掛けて高い位置で組み、再び書類を読み始めた。書類は今回の調査対象者である山口剛の履歴書である。その様子を横目で見ながら、運転席の阿鷹尊はエンジンボタンを押す手を下ろして、口を開いた。
「ちょっと
大島は履歴書を読みながら答える。
「なによ」
「梟山さんって、前にお会いしたあの梟山さんですよね」
「そうですよ。それがどうかしましたか」
依然として履歴書を見たまま、大島は書類を握っている手と反対の手で人差し指を立てると、それを回した。
それを見て、阿鷹はエンジンボタンを押してから、話を続けた。
「いや、孔雀石さんは相変わらず派手なスーツで、顔つきもイカつい感じだから、しっかり印象に残っているんですよ。この前も会いましたし。けど、梟山さんって、あんな人だったかなって……」
大島は顔の前から書類を下ろした。
「ああ……。そっか、二人ともあまり顔を出さないもんね。特にキョウさんは。あ、とりあえず、大通りの方に出よっか」
阿鷹は頷くと、アクセルを浅踏みしてハンドルを切った。黒い新型RV車がゆっくりと走り出す。
駐車場の出口で左右を確認しながら阿鷹は尋ねる。
「ほとんど出社してこないですよね。僕も何回かしか会ってませんもんね。一緒に仕事したことは一度もないし。いいんですか、それで」
「出社のこと?」
阿鷹は頷いた。車の速度を少し落とす。ゴミ箱の前でさっきの烏がネットを嘴で挟んでいた。こちらの車が近づくと、烏は「ガアー」と一声叫んでから、今度は遠くに飛び去った。車は速度を少し上げて、先へと進む。
窓越しに様子を見て眉を寄せていた大島は、上げていた両肩を下ろして会話を続けた。
「所長がそうさせているのよ。ま、外でちゃんと仕事しているみたいだし、いいんじゃないの」
「本当に仕事してるんですか。ものすごく酒臭かったですけど」
阿鷹が言っているのは、当然、梟山公弘のことである。
大島は笑いながら手を一振りした。
「あれはいつもの事。酒瓶を握ってないだけ今日はましよ」
「そんなので本当にプロの調査員なんですか。前にお会いした時は、もっとシャキッとしてましたけどね」
阿鷹尊は少し不機嫌そうにそう言った。大島美烏は再び履歴書に視線を落として答える。
「ああ、それはたぶん、お酒を飲んだからでしょ」
「飲んでシャンとする人なんですか。怖いなあ。でも、見た感じも別人でしたよ。ていうか、全くの別人。もう一度訊きますけど、さっきのあの人、本当に梟山さんなんですよね」
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