第19話 本編11 作戦(2)


 鵜飼所長は遠くの梟山と孔雀石を雀藤越しに指差した。


「まず、キョウさんとリョウくんは引き続き富樫の行方を追ってくれ」


 梟山と孔雀石は黙って首を縦に振った。


 鵜飼は続いて目の前に雀藤と背後の鳩代を指差す。


「ユキくんと鳩代くんはピースピアで山口の素行調査。潜入実行で頼む。方法はいつものとおり、ユキくんに任せる」


 雀藤が「はい」と返事する。鳩代は少し意外と言わんばかりの顔で両眉を上げてから、不満気に頷いた。


 鵜飼は大島と阿鷹に顔を向けた。


「ミオくんとタケルくんは山口の生活実態を中心とした素性調査、アンド、ミオくんは引き続きタケルくんへの新人指導」


「はーい」


 大島は電卓を覗きながら敬礼して返事をして、その手でまた電卓を打ち始めた。


 席から立ち上がった孔雀石が頭を掻きながら不満を漏らす。


「しょうがねえなあ、またキョウさんとかよ。俺いま忙しいのに。時間休も貰いたいし。所長、今回は俺だけ別にしてもらえませんかね」


 鵜飼の方に顔を向けた孔雀石に、鵜飼所長は顔の前で手を交差させて答えた。


「だーめ。この件は両方とも早く解決しないと報酬はもらえないんだよ。もたつく訳にはいかないでしょうが。ウチので逃亡犯の方はしっかり追い詰めてもらわないと。みんなの臨時ボーナスが懸かってるんですぞ」


 大島が電卓を鵜飼に見せて言った。


「全員分で、ざっと、これくらいの額ですかね」


 電卓を覗いた鵜飼所長は、咳払いをすると、電卓を押して少し数字を修正する。


 電卓を覗いた大島が声を上げた。


「はあ? 減ってるし。所長、また抜くつもりでしょ」


 大島は膨れ面をして、電卓を雀藤に見せた。


 雀藤はまた目を丸くして言う。


「あれ、減り過ぎじゃないですか?」


 大島美烏は不満顔で頷いた。

 雀藤は電卓を梟山に渡した。

 梟山は「ほー」と一言だけ発した。

 鵜飼所長は、また手をポンと叩いて言った。


「ま、そういう事だから、皆、心して取り組んでくださいよ。ここは、この『トリノス調査探偵事務所』の看板を懸けた勝負所ですからね。いつにも増して真剣に取り組んで下さい。じゃ、早く取り掛かって。ゴー、ゴー!」


 梟山と阿鷹は椅子から、大島は机から腰を上げた。皆、少し不満気だ。


 鵜飼が追加の連絡をする。


「そうそう。さっきの金額から削った分は、この二件を一番早くダブルで解決したチームに敢闘賞として上乗せしますから。よろしく」


 雀藤がガッツポーズする。大島は強く溜め息を吐いて項垂れた。梟山は呆れ顔を左右に振った。


 ドアの前に立ってドアノブに手を掛けていた孔雀石が、振り向いて梟山に笑顔を見せる。


「だそうですよ、キョウさん。こりゃあ、キョウちゃんリョウちゃんの俺たち名コンビで本気出しますか。頑張りましょうね、よろしく」


 彼は怖い顔でニコリと微笑んだ。それもまた怖い。


 梟山公弘はドアを開けた孔雀石の前を通りながら言った。


「何がキョウちゃんリョウちゃんだ。お笑いコンビかよ」


 孔雀石は急に明るい調子になって、室内に向けて敬礼しながら言った。


「じゃあ、俺たちさっそく富樫の元奥さんに話を聞いてきま……」


 廊下の壁の方を向いて張り付くように立ち、壁と一体化して気配を消している梟山の背後を通り過ぎ、小柄で痩せた年配の女が姿を現した。彼女は左右に提げた大きなレジ袋に体重を振られながら事務所の中に入ってきた。



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