第4話 なんか聞こえる!

〇 寝室――夜12時。

 何者かの侵入者によって寝室のドアをノックする音に、息を呑むあなたと桃子。なずなは異変に気付かずにすうすう寝ている。


 ……。

 どうしよう……。

 ……。

 このまま寝たふりしとく?

 そうすれば、うちらを襲わないで帰ってくれるかな……?


(音)コンコン――ふたたび寝室のドアがノックされる。


 ひっ!

 ご、ごめん、おもわず悲鳴上げちゃった。

 ……。

 もう一回待ってみようか……?

 正直、まだこころの準備がなにも――


(音)コンコン――みたび寝室のドアがノックされる。


 ……こいつもしつこいわね。

 わたしたちは寝てるんだって言ってるのに、全然あきらめて帰ってくれないわ。

 あなた、どうする……?

 このままだと――


(音)コンコン――寝室のドアがノックされ、次の瞬間――コンコン、コンコンコンコンコンコン――と猛烈なノックに変わる。


 ひいいいいいいいいいいいいい!

 やばいやばいやばいやばい!

 絶対に気付いてるし!

 しかも、ドアなんて開けるわけないのに、全然あきらめてくれないし!

 あなた、どうしよう~(*涙目)


 ……え!


 やるの?


 このまま飛び出して、一瞬の隙を突いておれが強盗を押さえつけるだって?

 うん……。


(音)ごくり――桃子がつばを飲み込む。


 ……わかった。

 気を付けてね……。

 あっと……。さすがにお人形の傘じゃ武器にならないから、毛布がいいわ。これをあいつの顔に投げつけて、一気に取り押さえるのがいいと思う。

 ……わかった。わたしがカウントダウンするね。

 いくよ。


 1……


 2……


 ……あ、ごめん。3カウントか、10カウントかこれじゃわからないわね。


 3カウントでいい?

 OK。わかった。

 じゃあ、もう一度いくわよ。


 3……


 2……


 ……って! ちょっと待って!


 聞こえない……? なんか、わたしたちに話しかけてる。


 え?

 聞こえない?


 うそよ、なんかあいつが話しかけてるじゃない。なんか……こう、耳元で……まるで、すぐ近くにいるかのように……。

 ……ほんとに?

 ……なんであなたには聞こえないの?

 もしかして、わたしだけに――


 ――って、ちょっと待って!


 静かに!

 やっぱりわたしに話しかけてる!


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ――謎の金属音がかすかに聞こえる。


 ……。

 ひ……め……? なに、どういうこと?

 あなた、静かに!


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ――ふたたび謎の金属音が聞こえる。 


 ひめを……かえして……ほし……い……?

 なに、ひめって?


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ


 そこにねている……おんなの……こ……?

 ……なずな?


 なに、なずなに危害を加えようとしてるの!


 ちょっと!

 なにこいつ! お金だけじゃなくて、小さなこどもにまで乱暴しようとしてるわけ! 許せない!

 てゆうか、返すもなにもあなたには全く関係ないじゃない。


 ……まさか、新生児室で取り違えたとか?


 はっ!

 ばかばかしい。あんた、映画の見過ぎなんじゃない。そんなもんね、現実社会にはありません!

 ……あなた、いいのよ。もう大声だしても。どうせ、こいつには気付かれてるんだし。もう、こいつの狙いがなずなってわかったから。


 え?


 おれにはなんにも聞こえない?


 ほんとに?

 全然理解してないから教えてほしいって?

 いいわ。なんかよくわからないけど、こいつの要求を説明するわね。

 ちょっと、なんか言いなさいよ!


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ


 ふんふん。

 ……。

 ……。 


 ふふっ。


 いや、なんかずいぶん荒唐無稽な話だなって。

 思わず笑っちゃったのよ。


 あのね。


 なんかこいつは、太陽系から2億光年離れたアマテラス・ヤッパテラサズ銀河団にある、アマノハシダテハジメマシテ星っていうところからきたんだって。


 早口言葉みたいだって?

 知らないわよ。こいつがそう言ってるんだから。

 

(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ


 ふんふん。

 えっと……。

 我々の星では、コンニチハコン……。ちょっと、もう一回言ってよ。


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ


 はいはい……。

 コンニチハコンスタンチノープル星から侵略を受けている。

 どうでもいいけど、なんで全部早口言葉みたいな名前なのよ。翻訳しづらいじゃない。

 ……。

 このピンチを救うのは選ばれた姫の力が必要……。

 なんでよ?


(音)ぴろりろぴろりろぴろりろぴろりろ


 魔法……?

 お姫様が魔法を使える?

 あのね、なずなはそんなもん使えないわよ。せいぜい、使えるのはミラクルパンチぐらいよ。


(音)ぴろりろりろりろりろ――興奮気味な音に変わる。


 いやいや。

 あのね、ミラクルパンチっていうのは、なずながはまってる宇宙キューティー「KISARAGI」のことなんだって。

 あなたが言う、魔法なんかじゃないの。

 ちなみに、そのKISARAGIだってあの子のオリジナルおままごとなわけ。

 どうでもいいけど、なんか勘違いしてるんじゃない?


(音)ぴろりろ?


 そうよ。

 なずな。

 あの子の名前は小松菜 なずな。


(音)ぴろりろ?


 ちがうちがう。

 クハラアージなんて名前じゃないし。

 てゆうか、そこは早口言葉じゃないのね。

 

(音)ぴろりろぴろりろ


 クは正統なる、ハラは魔女、アージは偉大なる。

 そんな意味なの?


(音)ぴろりろ?


 2歳よ。もうすぐ3歳になるけど。

 だから、新生児じゃないって。

 

(音)ぴろりろりろりろりろ――興奮気味な音に変わる。


 ねえ。

 もしかして、人違いなんじゃない?

 なんとなくあなたが人間ぽくないことは理解したけど。

 悪いけど、わたしたちは関係ないと思うわよ。


(音)ピーポーピーポーピーポーピーポー――外から救急車のサイレンが聞こえる。





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