0006/FFFF
相変わらず、妹は僕の部屋でゲームをしていたが、普段と違いなにやら騒がしい。基本的には拾は、あまり喋らない。
そんなイメージだったはずなのに、今になって考えると拾は本当に喋らなかっただろうか?
なんだか、喋らなかった頃、無口だった頃、そう言った頃の彼女を思いだそうとしても、具体的には思い出せなかった。
僕のごみのような記憶力でも、さすがにそこまでいくとどういったものかと思ってしまう。その妹はなにやらベラベラと話をしており、しかも喧嘩をしているらしいのだ。
といっても相手は僕ではない。
「いやいや、あんた、どうしてそこでドリーム・キャベツを使わないのよ! アホじゃないの?」
ゲーム機からオリビアの声が聞こえる。
「はぁ? ここでドリーム・キャベツ使ったって有利になるかどうか分からないでしょうが。相手がキャベツ属性持っているか調べてからのほうがいいでしょうが。もしキャベツで回復するような相手だったらどうするの?」
「何質問を質問で返してるのよ、まずはアホかどうか応えなさいよ。それとも、質問の意図が汲めないアホですっていう高度な返事だったことかしら? だとしたらそれ、成功してるわよ」
妹とゲームキャラが喧嘩するという異様な光景が目の前で繰り広げられている。頼むから僕の部屋以外でやってほしい。出来る限り遠くでやってほしい。
「あー、もううるさいうるさいうるさい! ドリーム・キャベツ使えばいいんでしょ、分かったから!」
「そうよ、早くしなさいよ」
「って回復してるじゃん! キャベツ属性持ちじゃん!何してくれてんのよ!」
「ん、何?」
「なななな、何すっとぼけてるの。びっくりしたわ! あんたがドリーム・キャベツを使えって言ったから使ったというのに、回復するって! ゲームのキャラクターが嘘のヒント教えるとか、あり得ないでしょ! じゃんけんの説明の段階で『最初はパーだからね?』って教えるようなもんでしょ!」
それじゃあ最初はグーを出した瞬間負けるのでは?
「なにゲームにムキになってんの?」
ゲーム機から身も蓋もない声が聞こえた。まあ確かに、ゲームにムキになってたら何のためのゲームだよという気もする。
「キェー!」
妹が発狂した。
奇声を上げて、なにやら発狂している。妹は意外なことに友人がそこそこ居ると聞いていたが、オリビアのような他人をからかうのが好きな人間にとって拾はいいリアクションをとるのかもしれない。
拾が「友達と遊ぶと疲れるからゲームのほうが好き」と言っているのを聞いたことがあるが、気遣いに疲れるとかそういうのではなく、普通にリアクションに疲れるということなのかもしれない。
そんな妹の心のより所であるゲーム機にすらバカにされリアクションをとっている彼女は、もうどうしようもない。
「お兄ちゃんはこんな女のどこがよかったの!?」
「どこがよくてって……別にオリビアはゲームのキャラクターであって、元カノでも交際相手でも、旦那が出張中の団地妻でもなんでもないんだけど」
「旦那が出張中の団地妻は、前みたアダルトビデオでしょ! 全然関係ないし、我が家は一軒家だから出会う機会ないし!」
夢の無いやつだ。
「ただのゲームのキャラクターってどういうこと? 私のことは遊びだったとでもいうつもりなの?」
「ゲームが遊びじゃなかったら、最早なんなんだよって感じもするけど、まあ今回は言葉の綾ってことで……」
「なら仕方がないわね」
「納得するんだ……」
オリビアの妥協ラインがいまいち分からない。
「でも、本当のところどうなのかしら?」
「本当?」
「私のどこが好きだったかってことよ」
「あぁそれは……」少し考えて、別に言っても問題無いだろうと思って口にした。「おっぱい」
「あぁ……」
拾が諦めと呆れを口から吐き出したみたいなため息をついた。この音声を電子辞書に保存して「落胆」という文字を調べるたびに流れるようにしてもいいかもしれない。
「おっぱい!?」うるさいゲームキャラクターだ。「他にもあるんでしょう」
「無いよ」なぜか拾が否定する。「お兄ちゃんは、同級生に告白された時、貧乳だったことに怒りを覚え『せめて胸に風船を詰め込んでからにしな!!!』と言い放ちながら、夜の校舎の窓ガラス割りまくった男だよ」
「告白されたこともないし、貧乳にそこまで怒りを覚えたこともないし、そもそも告白に文句言いながら夜の校舎っていう時系列の不一致もおかしいから」
「最低ね」
オリビアが信じてしまった。
「いや、他にも好きなところはあるよ」
拾がこちらを向いた。ゲーム画面が見えないので、オリビアがこちらを向いたかどうかは分からない。
「ほらね、やっぱりあるんじゃない。どこなのよ? 言ってみなさいよ」
こうなると言いにくい。しかし今更はぐらかすのも何だったので、小さく口にした。
「せ、性格……」
「えぇええええ!」拾が起きあがった。「嘘でしょ!」
ゲーム機からは「なかなか見所あるわね」という声が聞こえた。そりゃまあ、昔のゲームはドットだったわけだから、そのドット絵がいくら巨乳だったからといって、そこに惹かれるということは少ないと思う。どちらかというと性格のほうが自然だと思うんだけど。
「性格悪いでしょ」
僕も、オリビアの性格が良いとは思わない。そもそも性格が良いとは一言も言っていない。性格が好きだと言っているのだ。
といっても、そんなことは言わず「うーん……」とうなってごまかした。
「まあチートを使ってまで、こんなのを生かそうとするくらいだから仕方ないよね……」
チートをオリビアを強制的に生き残らせたのは僕だけど、いったいどういう理屈で普通に会話しているのかはよくわからなかった。
「チートを使って本来死ぬキャラクターを生存させるってのは結構難しいのよフラグの関係とかもあるし。だから今になって振り返ると、結構姑息な手段使ってきたとは思うわ」
「姑息な手段?」
妹が首を傾げる。
「そうよ、そこにいるあなたのお兄さんは、とても人の性格をどうのこうの言えるような奴ではないわ」
「頑張ったのに酷い言われようだなぁ……」
少し悲しい気持ちになる。
「あら、感謝はしてるのよ。私はあなたのそういう所が好きよ」
「そういう所?」
「なりふり構わない所よ」
そこで、美亜がゲーム機を折り畳んでしまった。スリープモードに入ったゲーム機を置くと「目が疲れた」と言ってそのまま自分の部屋に戻ってしまった。
ついに、という表現を使うと待ち望んでいたかのようになってしまうが、貴味の机の上にある花が撤去された。ユリが綺麗ではあったけれど、誰も手入れしないまま枯れてしまった。多分、だれも触れ辛かったのだろう。そうなることは置いた瞬間には分かっていたけれども。
机は残されており、席替えの時もそのままになるだろう。死んでいるのに生きているように扱うという日本の風習なのかなんなのかよく分からない現象をもし貴味が見ていたら、どう思うだろう。
「あまり良くは思わないでしょうね~」
それが、美亜の意見だった。それに関しては同意する。
「二年になっても、机だけが進級したりするかもしれないわね~、死者を弔うというよりは、どっちかというとクラスメイトの自己満足の為にね~」
意外と酷いことを言う。だけど、その通りかもしれない。
「ねえ、貴味とよくやってたんだけどさ、今日の小テスト勝負しない?」
「聞いたことあるわね~、乳首相撲するってやつでしょ」
「嘘のほうを教えられてる……」
「チャーハンに入れたら」
「おいしくないよ」
食べたことないでしょうが、というつっこみを無視して「テストの点数で勝負するんだよ」という訂正をした。案の定その件は美亜も知っていたようで「聞いたことくらいはあるわ~」と、思い出すように腕をくんで頷いていた。
「今日のテスト、勝負しない?」
「つまり負けたほうが、買ったほうの言うことを聞くってわけ?」
「そういうこと」
ただ、これは必ず断られる。なぜなら彼女は僕のチートのことを知っているからだ。
「でもあんた、それってどういうことか分かってるわよね? そんな誘いに応じると思ってるの?」
だから、秘策があった。
魂胆が他の場所にあればいいわけだ。少なくともそう思ってくれるようにしむけるだけで、彼女は断れなくなるだろう
「それは面白そうですね」打ち合わせ通り、三人目が会話に参加する。「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「あんたっ……」
美亜が流流を睨みつけた。
しかし、それは一瞬だけで、次の瞬間にはいつもどおりの美亜の顔になっていた。
「そういうことね」
そう、そういうことにしておかなければならない。
「私は負けませんよ」
流流が言うと、「分かったわ~」と言って美亜は自分の席に戻ってしまった。
「これでよかったんですか?」
「うん、まあ、これで美亜は、流流が仕組んだことだと思っただろうね」
「私が貴味のことで美亜さんに仕返しがしたい、美亜さんは、そう思っただろいうってことですね」
「多分、そうだろうね。これなら、美亜の性格上……」
「ええ、断れないでしょうね。あの人はそういう人ですから」
「でもまあ、これでなんとかなりそうだよ……僕が美亜に一度だけでも言うことをきいてもらえるチャンスができたら……それなりの対応が出来るかもしれない」
「それなりの対応ですか」流流が少し困った顔を作った。流流と話したことのない人物なら、無表情からまったく動かないなと思うほど微細なものだったが、友人の僕ならば例え磨り硝子越しでも困っていると分かっただろう。ちょっと盛りすぎた。「でも、明日の小テストって地学ですよね……」
「うん、そうだけど?」
「私、地学苦手なんですよ……60点以上とったことがありません」
「えぇ……」
冷静に考えてみると、点数が僕、流流、美亜の順番にならなくてはいけない。あれ、これってちょっと難しくない?
真逆にするのも難しいし。
「勉強しようか……」
「モホロビチッチ不連続面……」
「レマーン面……」
僕と流流は、明日のテストに向けて初めて友人と勉強をした。
屋上は冷たい空気にさらされていた、常に南京錠で施錠されている。
「もう開けてくれてたんだね、ありがとう」
「はぁ、あんたね、もっとマシな待ち合わせ場所はなかったの?」
「これ以上盛り上がるような場所、校内にある?」
「無いわね、何を盛り上げるつもりかしらないけどね~」
「だって、犯人を追求するんだから、ほら演出にも懲りたくなるでしょ?」
「そうね~」美亜はそういうと、ふぅ~とわかりやすいため息をついた。「もしかして、私が放火したと思ってるわけ?」
「思ってないよ、どっちかというと無理心中しようとしたのほうが正しいんじゃないかな?」
「へ~すごいわねぇ~」
なんて言っているが、同級生と無理心中をして自分だけが生き残り、何食わぬ顔で自分は関係無いですみたいな面をしているそっちのほうがすごいでしょ。
「寿命が見えるなんて、嘘だったんだね」
「嘘に決まってるでしょ、あんた、本当にそんなことあり得ると思ったの?」
「はっきり言って異常だよ」
「あら、正常よ。だって悪いのは私じゃないのよ」
聞きたくなかった。この期に及んで誰のせいにするつもりなのだろうか、そんなこと興味が無ければ、聞きたくもなかった。
だから返事をしなかったのに「悪いのは、あの流流とかいう女ね、私の彼氏を奪ったのよ~」と続けてきた。
流流と貴味は付き合っていたわけではない、ただ惹かれ合ってはいたと思う……というのは流流の弁だけれども。まあ、付き合うなんてことは絶対無かったでしょうね、と流流が付け足した時、流流は……もはや自分が幸せになるということを、あまり考えていないように思えた。
美亜が言った「奪った」という言葉。やはり、二人が別れてからも、美亜は貴味のことが好きだったんだ。
「で、それを今更どうしようと言うの? あんたが私を生かしたくせに、随分な言いぐさね。それとも、約束通り犯人を殺してくれるの?」
「それは……どうだろう?」
「強がらなくていいわ~、どうせあんた、私を殺す気なんてないんでしょう?」
「無いよ」
風が通り過ぎる。屋上という場所を選んでみたものの、コケも生えているし得体のしれないゴミが落ちていたりと、どうも居心地が悪い。それに、入ってはいけない場所という背徳感がどうにも、頭をよぎってしまう。
「でもまあ、せっかくだし反省くらいしてもらおうかなって思ったんだよ」
「反省? 何を反省するの?」
「反省は違うな……後悔かな?」
「後悔させる?」
彼女は本当に意味がわからないらしい。遊び方の分からないおもちゃを前にした子供のように首をひねった。
「後悔させる? 後悔させる? 後悔? 誰を? 何を? 誰が? どこで?」
「まあいっか……」
「まあいっか?」
彼女は復唱して笑った。
「ところで今日のテストどうだった?」
「は? あんた、さっきの話はどこへいったのよ?」
「それはそれこれはこれっていう言葉あるでしょ。さっきの話はもう終わりだよ、終了。僕にとってはどうでもいいことだから」
「どうでもいい?」
これ以上ないくらい重要な事項だったけれども、本当にどうでもいい。美亜の意志はどうでもいい。確認したかっただけだった。彼女自身が僕に関係なく、貴味を殺したことを後悔しているのならそれでよかったし。たとえ後悔していなかったら、ここからが本番、それだけだった。
彼女は少し投げやりに応えた。
「私のテストの結果? そんなのあんたがよく知ってるんじゃないの?」
「僕は一夜漬け頑張ったよ」
82点という僕が一夜漬けでそれなりの点数をとれるわけだから小テストというのは良くできていると思った。今更になってそれを実感した。
今になって思えば、チートは僕自信に使えない。
つまり、自分のテストは自分のステータスであり、本来、自分のテストの点数なんて上げることが出来ないのだ。
当然小テストの点数を65535点になんて、出来るはずがない。
いったいどうして、あの時、テストの点数を上げることができたかなんて分からない。
そして美亜を0点にすれば話が早かったかもしれないが、三人で約束した時からテスト開始までの時間に、彼女が接触を許すほど迂闊ではない。チートを使うには触れなければいけないと言った記憶はないけれど、警戒くらいはするだろう。
「ああそう」
流流のテストもみせつける。76点というこれまた微妙な点数だった。
「てっきり流流の点数をあげて、私に流流の言うことを聞けだなんて言うもんだと思ってたけど、まさか、あんたのほうが点数高いなんてね~」
「簡単だよこんなテスト、美亜は何点だったの?」
「知ってるでしょ」
そういって、彼女はポケットから紙切れを出した。
「まさか、こんな方法使ってくるとはね」
テストの点数は予想通り0点だった。
「なにかのいじめかと思ったわ~」そう言って手から放たれた、テスト用紙はどこか遠くに飛んでいってしまった。
ゴミになると思ったが、彼女がそんなこと気にするはずがない。美亜は例え、馬糞が詰まったペットボトルを処分しなくてはならない状況にあったとしても、問答無用でコンビニのゴミ箱に不法投棄するようなやつだ。
いやまあ実際のイメージであり、実際はちゃんと中の馬糞を取り出し綺麗にリサイクルするかもしれない。
それはそれでちょっと怖い。
やはり馬糞をペットボトルに入れるという想像自体がどうしようもないものだった。反省しなくては。
「まさかこんな力業で来ると思わなかったわ」
「次の時間ちゃんと返したでしょ」
筆箱を「ごめん、借りてるの忘れてた」と言ってちゃんと返した。まあ当然悪いことしたとは思ってはいるけれども。
「あんた、本当に白々しいわね、そのまま捨てて貰ったほうがまだ腹が立たなかったわ」
彼女の0点のテストはどこか見えなくなってしまった。彼女の筆箱をこっそり借りるという実に小学生じみた行動で勝利したのだ。
「まあ、チート、つまりズルなら何も数字をいじらなくたって、物理的手段もあるってことだよ」
「何決め台詞みたいに言ってるのよ、いらだちしか生まれないわ」
「でもまあ、約束は約束だからね」
僕は、せいいっぱい余裕ぶって笑ってみたけれど、美亜はつまらなそうに鼻で笑った。
「はいはい、何でも言うことを聞く、だったわね。いったい、どうするつもり?」
「うーん……どうしよっかな?」
なんて腕を組んでいると「茶番は時間の無駄よ」と言われてしまった。
「まさか謝れなんて言うつもりじゃないでしょうね、だとしたら何の意味もないんじゃないの? 謝ることはできるけど、ごめんなさい反省してます。許してください。って言うことわ簡単よね~」
「そうだね」
僕は適当に相づちをうった。
「でも、心の底から反省してなんて言われても無駄よ~、だって私、これっぽっちも悪いなんて思っていないんだから」
「そのくらい分かるよ」
「へ~」美亜は、僕を品定めするように上下へを目を移動させた。「じゃああんた、一体なんの意味があって私にこんな手の込んだことをしたわけ?」
「手の込んだって……」
「知ってる? 僕はスケベなんだよ」
「は?」
こんな時に何言ってるのって顔をされる、美亜には何度も驚かされてきたけれど、こうやって美亜にそんな顔をさせると、なんだか少し優越感が芽生えてしまう。
それこそ「こんな時に何言ってるの」という感じもするけれども。
「キスさせてください」
「あんた……」道端に落ちてる軍手でも見るような見下すような顔になった。「こんな……本気で言ってるの?」
「本気だよ。本気で言ってるよ」
スケベなお願い事は禁止、というルールは今回はなかったはずだ。いやまあ前回も結果的にスケベな感じになってしまったけれども。
「どういうつもり?」
「死んだ友人の元カノとキスするのも、悪くないかなと思ってね」
「はあ……あんた、見かけ通り最低なのね」
さらっと僕の容姿を否定された気がした。頑張って生んでくれたお母さんに謝っていただきたい。
「最低だよ。だめ?」
「そりゃ、だめと言いたいけど、別にいいわよ、今更純情を気取るつもりはないわ。援助交際しておいて処女ですみたいな面した、あの女みたいにね」
処女ですみたいな面と言う、これ以上ないほど下品な比喩には触れず……僕は笑った。
「貴味とは毎日のようにキス以上のことをしていたわけだし」
「キス以上? 乳首相撲とか?」
「あんたら、本当に乳首相撲好きね~」
いやまあやったことはないけれど。
「じゃあ、目を瞑って」
僕は彼女に近づく、少しだけ、余裕ぶっている彼女が、
少しだけ、嫌悪感を露わにして、
一歩後ろに下がった気がした。
「嫌なの?」
「別に」
目が閉じられる。
どこか緊張しているように見える彼女は……
よく見ると、やはりいつもと違っていて、いつも以上に……
「僕は友人が殺されたことを怨んでもいるし、怒ってもいるけれど……、でも、美亜のことを助けたいとも思っている。だから、何かあったら貴味みたいにうまくいかないかもしれないけど、相談くらいにならのるよ」
「今更何を言って……」
僕は彼女の唇を塞いだ。
なんだか駄菓子の明太子みたいな味がして、想像してたほどロマンチックじゃなかったことが、少し悲しかった。
お昼ご飯が明太子だっただけだとは思うけど。
彼女に背を向けて待っていると「何したの?」と声が聞こえた。
振り向くと彼女は涙を流していた。
ぼろぼろと、自分がなぜ泣いているかも理解できないような表情で。
「あんた、私に何をしたのよ!」
非難しているというより、気味が悪いといった叫び声だった。
「だから、言ったでしょ、絶対後悔させるって」
「え?」
「僕のキスしただけで、いきなり後悔するなんて、本当は貴味のこと好きじゃなかったんじゃ」
「ちが……違う! 私は貴味のことが好きだった……好きだったはず……」
僕は「そうなんだ」と言って、そのまま屋内へと入った。
「好きに決まってるよね、だって、好きでもない男を殺すなんてことするはずないし」
彼女のすすり泣きが聞こえないように、屋上への扉を閉める。
美亜の、貴味への好感度、というのが正しいか分からないけれども、恋愛感情をゼロにした。
今は美亜は、好きでもない男を殺したことに後悔している。
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