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「あ~私出てきたよ!」

 拾が出てきたゲーム画面には「ヒロイ」というキャラクターが「お姉さま方、ここは喧嘩をする場所はなくコンセンサスをする場でしてよ」と、やたら合意形成しようとしている。

「何この就活に必死な大学生みたいなキャラクターは」

「私だよ! 思い出して!」

 言われてみれば、そんなキャラクターいたような気がする。古いゲーム機のドット絵なのでよく分からないが、確かに拾に似てる気がした。

「この時代にコンセンサスって言葉あったんだね……」

「そんな所どうでもいいでしょ! それよりもほら、本当だったでしょ」

 確かに彼女が言うように……妹がゲームの中に居た。というよりはゲームから出てきたというのが本音らしい。

「ほら、お姉ちゃんって移し替える能力があったでしょ」

 ここで言うお姉ちゃんというのは……

「あらヒロイ、インセンティブありきのコンセンサスが、本当のコンセンサスと言えるのかしら?」

 オリビアのことだ。というかなんでオリビアまで就活大学生みたいになってるんだろう。

「ほら、お姉ちゃんも出てきたよ」

「昔のことだから覚えてなかったけど、こんなキャラだったんだ」

 冷静に見てみると、ドット絵からも分かるほどおっぱいの大きさだった。

「ドット絵のおっぱいに興奮するのやめようよ……」

「興奮してないし」僕は嘘をついた。「しかし、拾はキャラ変わりすぎだろ、本当に同一人物かよ」

「本当だよ、だって私との記憶、よく考えてみるとあの日より以前には無いでしょ」

「ああ、そういえば……無いような……」

 確かに、小さな頃の記憶とか思い出してみても、母と父の思いではあるものの、拾が小さい頃の……というよりは小学生の頃に記憶も何一つ思い出せなかった。

 そう、彼女はあの始めてチートを使った日に、僕の家にやってきて妹みたいな面をしていたのだ。僕に妹なんていなかったのだ!

「これも、お姉ちゃんの『移し替え』によるものなんだよ」

「拾を現実の世界に移し替えたってことか?」

「そう、そしてチートの機能をお兄ちゃん自身に移し替えたってわけだね、ちなみに、最初にテストの点数を変えたのはお姉ちゃんだね。だから、あれから24時間経過しなくてもお金持ちになれたでしょ」

「うーん」

 なんだか納得いくような、とってつけたような話のような……

「とってつけたんじゃなくて、移し替えたんだって」

「はぁ……」

 ため息をついてみたが、ゲーム機のオリビアは何もつっこんでくれなかった。

「どう、コアコンピタンスする?」

「とってつけたようにキャラ戻すなっていうか、なんか意味も通じなくなってるし……それはそうと、リメイク後のオリビアはどうなったんだよ」

「お姉ちゃんなら死んだよ」

「えぇ……」

 さらっと言ってくれるなあ、おい。

「お姉ちゃんはもともとシナリオ上死ぬ予定だったんだから当然でしょ」

「まあそりゃそうなんだけど……」もうこりごりだと思っていたけれど「どうしてみんな唐突に居なくなるんだよ」

「それが自然なんだよ」

 自然。

 拾が言った「自然」とはどういう意味だろうと考えてみたけれど、いまいちピンとこなかった。

「アグリカルチャーなんだよ」

「言い直さなくていいよ」

 意味がわからないけど、正しい使い方とは思えない。なんだアグリカルチャーって。

「ま、そういうことだから、お兄ちゃんはチートが使えなくなったから」

「えぇ……そんな唐突な、まあ別にいいけど……」少し考えて、「じゃあ、移し替えたものが無かったことになるってことは、拾もいなくなるのか?」

「ううん、いるよ。よかったね」たしかに嬉しかったが、そう面と向かって言われると少し腹が立つ。「能力が消えてしまうだけ。だから物理的に書き換えたり移し替えたものは残るんだよ。私も当然ずっとお兄ちゃんの妹だし、貴味さんも死んだままだし、私のおっぱいも大きいままだし、美亜さんも生きていくよ。オーバーナイトセンセーションだね」

「最早カタカナを言いたいだけだろ」

「かっこいいじゃん」

 まあそれには賛同するけれど。

「で、なんでお前はわざわざゲームから出てきて僕の妹になったの?」

「お姉ちゃんと結ばれた男がどんなやつかと思って見に来てやったんだよ」

「まあそれはご苦労なことで、でどうだったんだよ。この現実はゲームばっかりやってたからゲームに居た頃が懐かしかったって?」

「そんなことはないよ、ゲームも面白いけどこっちもそれなりに面白いよ。でも……」

「ん?」

 急に彼女が言いにくそうに口をとがらした。拗ねているようにもみえるが、アヒルのものまねをしているようにも見える。

「来なかったらよかったなって思うこともあるよ」

「そうなのか?」

「だってお兄ちゃん……」

 携帯電話が不必要なくらい軽快な音楽でなりはじめる。

 僕ではなく、美亜が勝手に設定したもので彼女からメールが届くとこの軽快な音楽が流れ出す。

 擬音にするとピロロロロローン!といった感じだろうか。

 メールには「明日10時からね」と書かれていた。付け足したように下のほうに「つまんなかったら承知しないわ」と書かれていた。

 最近になり、あのキス事件以降、遊びに行こうというメールが頻繁にくるようになった。そのたびに彼女は、つまらないと言い放ち帰って行くのだから、毎度のことながら憂鬱な気持ちになってしまう。

「美亜さんはなんで頻繁にメールしてくるようになったの?」

「多分……貴味が親身になって相談に乗ってくれた所を好きになったって言ってたから」

「あーそういうこと」妹が相づちをうつ。「次に親身というか仲良かった、お兄ちゃんを頼りにするようになったってことね」

「そうかもねって話だけど」

「そして最後にキスをせがむことで、美亜さんに好意を寄せていることをわざと気づかせ、相手がこっちに相談しやすいようにするなんて、お兄ちゃんなかなかやるね」

「そこまでは言ってないけど……」

 まあ、自分の好感度をあげなかっただけマシかなと付け足される。自分に関することなので、パラメータを変えられなかったと思うが、それに関して反論するつもりもなかった。

「えっと……」必死に話題を反らそうとする。「拾がこっち来て後悔してるって話じゃなかったっけ?」

「違うよ」

 拾が首を振った。

「相変わらずお兄ちゃんは、性格悪い女が好きって話だよ」

 彼女が画面に顔を向ける。

 ドット絵のヒロイが、農家のキャベツをトラクターでつぶしていた。

 そりゃ、キャベツ高くなるわ。

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