第10話 バーローと滝
「あっという間にバーローに到着しました……。まさか、一度も魔物と戦わずに済むなどとは思いませんでした……」
「そうですか? 至って、普通のことだと思いますが……」
「すみません。私が世間知らずなだけなのかもしれません」
「?」
一人で納得してしまったクローネを訝しんでいると、バーローの領都が見えてきた。
「ここから先は、やたらと人に話しかけないようにしてください。王国のイススマンス砦との緊張関係もあり、突如として捕縛される可能性があります。兵士には絶対に話しかけてはいけません」
「分かりました」
領都に踏み入れると、たしかに、ものものしい雰囲気をまとった兵士が領都中を警戒しながら巡回していた。
まるで、行方不明になった貴人を捜索しているかのようだ……。
バーローはマロサガでも、どこか異質な雰囲気の街だったが、輪をかけて酷いように感じてしまう。
俺たちは目を合わせないようにしながら、人通りをさけて領都外れの林のなかに足を踏み入れる。
幸い、ここまでで兵士に尋問されるようなことはなかった。
「こんなところに一体なにが……?」
「ここから先に、土手があります。そこを下って、川沿いにおりましょう」
「なぜ、そのように地理に詳しいのですか?」
「大した理由ではありません。あちらの階段のようになっている獣道ですね。あそこを下れば川があります」
「はぁ……」
無事、河原に降りた俺たちは、更に歩を進める。
領都のなかとは思えないような、
「人気が全くありませんが……」
「大丈夫です。この先に洞窟があります。その洞窟のなかで、割とポピュラーなバグを使えるはずですので、それをつかって国外脱出をします」
「バグを使えるはず……ですか?」
「ええ。今後も何回かお世話になるバグです」
「バグというのが何なのかよくわかりませんが、ひとまず承知しました」
そんな風にクローネと話をしていると、洞窟が目にはいってきた。
「周囲に他に洞窟はなさそうなので……。あれですね。では入りましょう」
「ええ」
「洞窟の中には魔物などはいませんのでご安心ください」
「たしかに……そうですね。それと、あまり広くはないのですね」
足を踏み入れたクローネが、周囲を見回す。
「ええ。ここの奥には滝しかありませんので。そこの滝で、とあるバグを使います。おお、見えてきました。あれですね」
洞窟の奥には滝があった。
主人公キャラクターのうちの一人であるアインベルトが、イススマンス砦崩壊後に、流れ着く滝だ。
その滝の前で足を止めると、俺は口を開いた。
「では、いまから、この滝を登ります」
「は?」
「クマッ?」
「ワンッ?」
その場にいた全員が俺に向き直った。
そんなに注目しないでくれよ……。
なんか照れちゃうだろ……。
「さすがに……、滝など登れないのではないですか?」
「いえ。登れないわけはありません。滝は登れます」
「そんなバカな……」
「たしかに、今回はセーブ&ロードをすることができません」
そう。
マロサガでは、滝に登った瞬間にセーブをして、一度リセットをしてからロードをすることで滝を登ることができていた。
しかし、現状、俺にはリセットはできない。
なぜならリセットボタンがどこにあるのか、よく分からないから。
俺は、静かに語り掛けた。
「おっしゃるとおり、困難を極めるかもしれません。しかしながら、かつて、武闘家皇帝として名を馳せたイノッキーが武道着を剥ぎ取られそうになりながら、このように言ったそうです。『元気があればなんでもできる』、と」
元気があればなんでもできる。
つまり、元気さえあれば、なんでもできるのだ。
幸い、俺たちは元気だ。なんせ、戦闘をしていない。
HPは満タンなのだよ。
「なんですって……。そのような名言を残された歴代皇帝がおられたのですか……」
「ええ。政治の面では点でダメでしたが、格闘をすることと名言を残すことにだけは長けておられました。彼の言葉に従えば、私たちに不可能なことなど存在しません」
「……そのように偉大な先達がおっしゃられるのでしたら、私も頑張ってみます。挑戦すらしないようでは、先祖にとっても恥になりますから」
イノッキーはバルフォア帝国の血筋の者でもなんでもないとは思うが、あえてそこは否定しないことにした。
折角のやる気を、余計な理屈で削いでしまっては話にならないからな。
「流石でございます。その意気です!」
「クマーッ!」
「ワォーンッ!」
そうして、俺たちは猛烈な勢いで泳ぎ切ることで、なんとか滝を登りきったのだった……。
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???「なぜだ……。国外に脱出できないように警戒網を展開しているのに、なぜ見つからないのだ……」
■■あとがき■■
2022.10.23
更新遅くてすみません!
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