第7話 クローネ
「おおっ! 見えてきたぞ!」
クローネの住む隠れ家が、視界に入ってきた。
仕掛けの分かっているマップだったので、大して苦もなく目的地にたどり着くことができた。
「目印が分かりやすいから助かるぜ」
そんなことを言いながら、俺は、隠れ家を覆うような大樹を見やる。
この"魔の森"の中心に位置する、タワーマンションを思い起こさせる太い巨木。
これが、実は、夜の女神リリスの加護を宿す神木であることが、終盤のとあるイベントで明らかになるのだが、ここでは横に置いておく。
その巨木の木陰に隠れるかのように、ひっそりとクローネが隠れ住む小屋が建っている。
平屋建ての吹けば飛ぶような小屋だ。
こんな森の奥深くの粗末な小屋に皇女が住むと、誰が思うだろうか。
……誰も思わない。
だからこそ、彼女の身を案ずるならば、この地に隠したというわけだ。
原作開始前の時点で、クローネと乳母がここに住んでいることを知っているのは皇帝ぐらいかもしれない。
そんなことを思いながら、小屋の前に立つ。
俺は呼吸を整えて、郵便配達夫のように優雅に、扉の脇に置かれているベルの音を2回響かせた。
この回数は1回でも3回でもダメだ。
この地にたどり着き、2回という符号を知っているものだけが、皇帝からの正式な使いと認められる。
このあたりは、原作のクレイ編をプレイしたことのあるプレーヤーは誰もが知っていることだ。
クレイでスタートして帝都をうろついていると、皇帝直属の特命部隊の一員であるジョンから依頼を受け、クローネの下を訪ねることになる。
そして、彼女をパーティーメンバーに加えて、このマーロック大陸を舞台にした冒険の旅に出るというわけだ。
今回の俺の動きは、それを数年早めているだけだ。
何の問題もない。
しばらくの間があった後、ドアノブが動いた。
ガチャ。
ドアが開くと、慇懃に頭を下げる乳母に対して帝国式の立礼を無言で交わす。
そして、俺は乳母の横を抜けて、奥に佇むクローネの前で跪いて首を垂れる。
皇族の血を継ぐ彼女の姿を、許可も得ぬうちに視界に収めるなど、恐れ多い。
俺にできることは、頭を動かさずに、床の木目をひたすらに読むことだけだ。
「頭をあげなさい」
俺は前を向いた。
クローネ。
マロサガの主人公キャラクターのうちの一人が、たしかにそこにいたのだった。
■■あとがき■■
2022.09.11
伊勢貝コールセンターの朝は早い。
入電開始は午前9時だが、社員は準備をしないといけないから午前8時業務開始だ。
そして、早番オペレーターさんが集まる午前8時半になると、業務レクを行ったのち、架電案件の玉込めをする。
始業後は、延々と手上げの対応や苦情のサイドバイなどが、目まぐるしく続くことになる。運悪くオペレーターさんが撃沈されてしまったら……、社員が上司役で対応を引き継ぐこともある。そうなると、1時間ほど無益な対応をすることになることも……。
コールセンターに配置された正社員など、オペレーターの席の間を目まぐるしく飛び回る働きバチのようなものだ。
ただ、騒々しくブンブン飛び回る。
管理職といえどもスタッフが不足していれば、プレーをしながらマネジメントをしなければならないのだ……。
午後9時になると、やっと入電終了。
……午後5時ぐらいで締めてくれよ、頼むぜ……。
遅番オペレーターさんたちは早々に帰宅をするが、社員はそこから日中の積み残し対応をしたり、日報を作成したりする。
午後11時ぐらいになると、だいぶハイになってくる。
だが、大丈夫だ。
今回の伊勢貝コールセンターは午後11時半には帰宅できる。
時代の流れにのって、だいぶホワイトな感じだ。
かつて、筆者が8年前に経験をした、旧・伊勢貝コールセンターのように午前3時まで働かなくてもよいのだ……。
過去経験した、最もブラックな職場を思い出しながら心を慰める日々が続いた。
そんな日々が、もうすぐ1か月となろうとしていたときのことだった。
突如として、筆者の業務用携帯電話が鳴った。
(つづく。更新遅い上に話の進みが遅くてすみません。)
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