第6話 魔の森
帝都で旅立ちの準備を整えた俺は、帝都から近くに位置する森に向かった。
まぁ……近くといっても、森の外縁が近いというだけで。
森の奥地という目的地までは、かなりの距離があり複雑怪奇なルートを辿られねばならないため、初見では当然の如くたどりつけない。
なんせ、ここは"魔の森"と呼ばれる魔境だ。
その広さたるや、作中屈指のマップ面積だ。
現実世界ならば都市部付近に森林資源が豊富にあるわけないのだが……ゲーム世界万歳!
俺は、マップ上のオブジェクトがゲーム知識と合致することを確認しながら、一歩一歩、慎重に森の中を進んでいく。
延々と変化のない景色が続くが、幸い俺はマロサガをやりこみまくっている。
方向感覚を喪うようなこともなく、時間をかけて奥地に向けて歩を進めたのだった。
しばし歩いた後、少し大きめの岩が目についたので腰をかけて小休止をとることにした。
少し息を整えながら、魔の森の変化のない木々の様子を横目にみやる。
この"魔の森"には、主人公キャラクターのうちの一人であるクローネが隠れ住んでいる。
このクローネは……、実は、このバルフォア帝国の皇帝の血を継ぐ皇女だ。
もっとも、側妃の子で、皇位継承順位も低い。
それゆえ、暗殺を避けるために、原作開始までの期間は、皇帝と皇帝に仕える一部の者のみしか立ち入り方を知らない"魔の森"に身を隠しながら生活をしている。
とはいえ……、皇女という地位を隠してひっそりと生活する彼女も、原作が開始すると、世界中を旅してフリーシナリオを堪能するわけだ。
不思議な話だが、細かいところに疑問をさしはさむのはよくない。
気になることをスルーするのも、社会人には大事なスキルだ。
……よって、原作開始前のいま時点でも、俺がパーティーメンバーに加えても何ら支障がないはずだ。
そう結論づけると、再び俺は森のなかをひたすら突き進んだ。
バルフォア帝国で仲間になるキャラクターはクローネだけだし、パーティーメンバーを増やしておかないと、不意をつかれて全滅することもありうるからな……。
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「おっ、これは住まいが近くなってきたな……」
森のなかに突如として現れた五叉路。
俺は右斜め前に進むと、その次の三叉路では左に進む。
そして、その次の十字路ではまっすぐを選んだ。
このルート選択だが、一回間違えると五叉路のスタート地点に戻るというギミックになっている。
前提知識がなければ、延々とここでトライアンドエラーを繰り返すことになるわけだ。小学生のころの俺のようにな!
……、すでに知り尽くしている今の俺には何の障害にもならないというわけなのだよ。フハハ。
次のエリアは、木々が並行して並ぶエリアだ。
同じような真っすぐの木々が砂利道の脇に、両サイドに50本ずつ生えている。
ここも、正しいルートを選ばなければ、延々と五叉路のスタート地点に戻ってしまうわけだ……小学生のころの俺のようにな!
俺は、右側の十五本目と十六本目の間に入ると、脇の草むらをまっすぐ進んで、低木を越える。
「霧がでてきた……。もうすぐだな」
最終の霧エリアに到着した。
ありがちだが、視界の開けていないところで正しいルートを選択しなければ到着できないのだ……。
ここも、誤ったルートを選んだ瞬間に、五叉路のスタート地点に戻ってしまうのだ! なんてこった!
一メートル先ぐらいしか先が見えず、自分の足元もおぼつかないような濃霧のなか。
俺は風向きを感じながら、風向きに従って進む。
三歩前に進むと左に折れて、そこから更に九歩進むと、今度は右に折れる……。
「風に任せて進むだけだから、楽勝だな。俺の記憶とも合ってるし」
答えを知っているから、迷うことはないのだが……。
これ、攻略サイトとか攻略本とかが無かったら、絶対に無理だな。うん。
「おおっ! 見えてきたぞ!」
そうして、俺はクローネの住む隠れ家へとたどり着いたのだった。
■■あとがき■■
2022.08.22
ある日、社内に激震が走った。
誰が聞いても「そんなこと、常識的にありえないだろ……」と評価せざるをえない大規模チョンボ。
筆者も、初めて「ここだけの話ですが……某部で……」と内密にリークしてもらったときには耳を疑ったものだ。
「まさか、そんなバカな」と。
そして、「ビジネスに関する常識がなさすぎる会社だとは思っていたが……そこまでとは……」とも。
筆者を含め、社内では「某部でちゃんと解決しろ! 火元責任者として!」という意見が占めていた。
当たり前だ。
どのようなミスであったとしても、ミスの回収は自分でする。
それが大人というものだ。
どら●もんのような都合のいい存在は、社会には存在しない!
数日して、筆者が自席でカクヨ●で暇をつぶしていたときのことだった。
「テリードリーム君、ちょっといいかね」
「なんですか、部長」
筆者は、部長の呼び出しにホイホイとついていった。
筆者が椅子に座ったことを確認すると、部長は口を開いた。
「実は……、キミには、伊勢貝市に新設されるコールセンターに異動してもらいたい」
「はっ?」
「すまない」
「伊勢貝市に新設されるコールセンターに異動ですか? 流石にそれは……」
B部は初期消火にめでたく失敗し、更なる延焼を招いた。
盛大なミスをやらかすチームに、そのまま事態の回収にあたらせたのだから……そのような結果になるのは不可避だった。
日本にはとても便利な言葉がある。
"恥の上塗り"という便利な言葉だ!
もはや、データのどこが間違っていて、どこが正しいのかも分からない状況だった。
1回目データを作るひとに、タイムプレッシャーをかけまくって2回目データを作らさせたのだ。何が何だかよく分からなくなってしまうのかもしれないが、ちょっと勘弁してほしい……。
その結果、緊急立ち上げられることになったお詫びコールセンター。
それこそが……伊勢貝苦情対応コールセンターなのだ!!
「ま、マジか……」
筆者は途方に暮れて、トイレの個室で頭を抱えるのだった……。
(更新遅くてすみません。仕事が忙しくて……)
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