第4話 商人
"銅の鎧"が"の5"個(つまり255個)あることを確認した俺は、さっそく道具屋に向かった。
「いらっしゃいませ~って、またアンタか」
「さっきはすまなかった。今度は買取をお願いしたい」
「へぇ。何を買い取ればいいんだい」
親父が興味深そうに尋ねてきた。
利に聡い商人であることがうかがえる。
「ああ……実は。"銅の鎧"を255個買い取ってもらいたい」
「はぁ?!!」
「ここに出すから、"銅の鎧"の店売価格440Gの半額、つまり220Gで255個を買い取ってほしい」
「いや、そんなに大量に売られても……。しかも査定にも時間がかかるし、それだけの数量となると大口の……」
「まぁそういうな。今からここに出す」
「えっ……ちょっ待っ……ウボワァーーーーー!!!!」
そうして、俺は255個の"銅の鎧"を取り出した。
突如として出現した、俺の体臭がこびりついた大量の"銅の鎧"。
その大波に飲み込まれてしまった道具屋の親父。
もはや店内は、"銅の鎧"で一色だ!
なんてこった!
「……まさか、こんなことになるなんて……」
思わず遠い目になってしまう。
眼前の惨状たるや、目を覆わんばかりである。
だが、すぐに、これはしょうがないことなのかもしれないということに思い至った。
よくよく考えてみれば、俺は、マロサガでも毎回増殖バグを使用していた。
ゲームのなかで似たようなことが起こっていただけだ。
「すまんが、金はもらっておくぞ」
そう言って、俺はレジに手をつっこんで56100Gを懐に入れて店を去ったのだった。
「大変だ! 道具屋の建屋が"銅の鎧"で崩壊しているぞ!」
「なんだって!」
「しかも、レジの中から大量の
「犯罪じゃねーか……」
「衛兵さん、はやく!」
目立たぬように道具屋から去り行く俺。
徐々に、俺の背後の喧騒が遠ざかっていったのだった……。
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次に、帝都の外れに位置する工房横の店舗に入った。
「いらっしゃいませ」
工房に併設された店舗であっても、さすがに高級品を取り扱っているだけのことはある。
小洒落たスーツに身を包んだ店員が、すぐに接客を開始してきた。
ソツがない印象を抱かせる。
「"ギャラリア・シリーズ"を出してくれ」
すぐさま俺は用件を告げる。
「少々お待ちください」
店員は表情を変えずに、俺に対して険しい顔で視線を送ってきた。
値踏みしているのだろう。
無駄な営業をする気はないということか。
営業をしても空振りをしたら、時間と労力が無駄になるからな。
合理的な判断だ。
商人らしい嗅覚で俺を探っているのか、店員の口ひげが少しだけ上下する。
一方、上裸の胸元に"ポーション1"を貼り付けた俺は悠然と構える。
こうしたときには悠然と構えるに限る。
何らやましいことはない。
たとえ乳首が見えようとも、どうということはないのだ!
しばらく眺められた後、店員はバックヤードに下がった。
その後、俺は商談用の部屋に案内された。
そこには、念願の"ギャラリア・シリーズ"が並んでいた。
いずれもが丹念に磨き上げられており、極上の輝きを放っている。
"ギャラリア・ソード":3590G(攻撃力10)
"ギャラリア・スピア":4300G(攻撃力10)
"ギャラリア・アーマー":9999G(防御22)
"ギャラリア・ガントレット":5300G(防御7)
"ギャラリア・ヘルム":3700G(防御6)
"ギャラリア・シューズ":7800G(防御7)
思ったとおりだ。
俺は、店員の御眼鏡にかなったようだ。
「こちらが当店で取り扱っている"ギャラリア・シリーズ"全品となります」
「端的に言って、すばらしいな」
「いずれも、職人が丁寧に1つずつ製作する、自慢の一品です」
「非売品のはずのシューズまであるとは……すべて買おう」
俺は購入の意思表示をすると、
これで手持ちは21421Gとなった。
計算どおりの金額なので、次に考えている、魔法の購入もなんとかなりそうだ。
店員は、まるで自分の眼に狂いはなかったとでもいいたげに頷くと、俺から
ほどなくして、全身を"ギャラリア・シリーズ"で固めた俺は、店舗を後にしたのだった。
「……気にしないほうがいいな。うん」
店員に渡した紙幣にシリアルナンバーっぽい数字が入っているように見えた。
だが、俺はあえて気にしないことにしたのだった。
■■あとがき■■
2022.07.23
ポーション購入後の所持金 +10G
レジからパクった金 +56100G
ギャラリア装備購入 -34689G
よって、残額は21421Gになります。
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