第3話 金策
翌日、目を覚ました俺は次に為すべきことを決めた。
他の都市への移動、イベントの消化、仲間の加入……。
やるべきことは無数にある。
昨晩、眠りにつく前に、それらについて一つ一つ優先順位をつけていった。
その結果……その中で最優先の事項は……やはり
金
そういう結論になった。
やはり、世の中、金だ。
装備品の購入もそうだが、回復アイテムや魔法習得など。
とにかく金が無ければ話にならないところがある。
船に乗って移動時間をショートカットしようにも、船代が無ければ話にならないからな。
俺の前世でもそうだった。
経済力で、世の中に存在する苦労の八割ぐらいは解決できた。
とくに、この帝都では、強力な店売り装備が買える。
マーロック大陸屈指の強国、バルフォア帝国。
その帝都でのみ販売される、"ギャラリア・シリーズ"。
それで身を固めておけば、物理ダメージを喰らうことはほぼなくなる。
本来ならば終盤までコツコツと金を貯めないと手が届かない装備なのだから、当たり前だ。
"ギャラリア・シリーズ"で装備を固めれば、全体攻撃魔法を連打される終盤までは死ぬことはないはずだ。
初手は、金策で決まりだな!
「よし! そうと決まれば、善は急げだ!
そうして、俺は宿を出発して、
帝都の中心にある山本金策さんのお宅を訪問したのだった……。
なんちゃって」
帝都の商業地区の中心部を歩きながら、俺は独り言ちた。
独身生活が長いと、独り言が習慣づいてしまうのだ。
許してくれ。
「たしか、マロサガではこの辺りのはずだったが……」
そうして、俺は目的としていた道具屋に辿りついたのだった。
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「へい、"ポーション"1つですね。毎度!」
「思ったよりもでかいな」
「ええ、ちょうど3回使えますので、安心してください!」
俺は、道具屋で"ポーション"(3回分で30G)を購入して、懐に入れてみた。
「やはり分割できるな……。これなら、あのバグがいけそうだ」
再度、俺の懐から取り出すと三分の一のサイズになった"ポーション"が、そこにはあった。
「へっ、お客さん、一体どんな奇術ですか……?」
目を白黒させている道具屋の親父をよそに、俺は"ポーション"を追加で32個購入した。
そして、分割した"ポーション"でアイテム欄を全て埋め尽くしたのだった……。
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「次は、地下水路と……」
帝都の地下には広大な地下水路が存在する。
都下のいくつかのポイントから易々と侵入できる場所なのだが……。
実はここには、多くのモンスターが跳梁跋扈していて、帝都で起きる幾つかのイベントの舞台となる場所だ。
帝都の地下なんだから、モンスターの駆除ぐらいちゃんとしろよ……。
子どものときの初プレイでもそう思ったが、今でもやっぱりそう思ってしまう。
地上には衛兵がたくさんいるのに。
お前らはアホか、馬鹿かと。
近隣諸国と軍事的に敵対することに一生懸命で、自国の足元がおぼつかない。
まるで、どこかの日系企業を見ているようだ。
帝国の闇の深さを感じる。
が、まあそんなことはどうでもよい。
「とりあえず255個にしないとな」
いまの俺はアイテム欄の全てを「ポーション1」で埋めている状態だ。
これから、一体どうするのかというと……。
「おっ、いたいた」
水路の中にいる魚系モンスターに投石をして、俺は戦闘に入った。
「なんかでけぇ……。こりゃ駆除できんわ……」
思わず感想を漏らしてしまうぐらい、デカい魚だ。
マロサガでも妙にでかくて物理ダメージに特化した、古代魚というモンスターがいたが……それかもしれない。
俺の十倍ぐらいは体長がありそうだ。
一撃くらっただけで死ぬ自信あります。
魚系モンスターでもあり、通路の壁際まで距離をとっているから、俺には攻撃が届いていないが……。
これ、マロサガやったことない人だったら、初っ端で死んでそう。
モンスターとの戦闘って命がけなんですね。
魚系モンスターが水路のなかで攻撃をしようとして飛び跳ねている傍ら、俺は、装備していた"銅の鎧"を脱ぐとアイテム欄の左側の上から3マス目に入れて、代わりに"ポーション1"を鎧として装備した。
「よし、いまだ!」
そうして、俺は古代魚から全力で逃走を図ったのだった……。
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そうして、地下水路から脱出した俺は、胸元に"ポーション1"を貼り付けながら、アイテム欄の数字を確認した。
「できた! やはり、バグ技が使えるぞ!」
確認したところ、アイテム欄の左側の上から3マス目に位置する"銅の鎧"の数量は、たしかに"の5"と表示されていた。
マロサガは、同じアイテムを99個までしかスタックできない仕様だ。
だが、俺のアイテム欄には、その使用を超越した数字が刻まれていた。
"の"とは、あいうえお順で25番目に位置するカナだ。
"の5"という表記が意味するのは、すなわち……
255。
俺は、この世界でもバグ技が通用することに手ごたえを感じた。
■■あとがき■■
2022.07.17
推敲中、山本金策さんをパーティーメンバーに加えて、壮大な旅に出てしまうところでした。
危うかった……。
前作で変な男爵を出してしまって作品が崩壊するという経験をしたからこそ、今回は我慢できました。
人間とは常に学び続ける生き物なのです。
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