第2話 クレイ

 フリーシナリオRPG『マーロック・サーガ』。

 通称、『マロサガ』。


 古のカートリッジを挿すタイプのゲーム機向けに発売された、王道RPGだ。


 子どものころにクリスマスプレゼントで貰って以降。

 俺の人生を大半を捧げたといっても過言ではない。


 中学入試、高校入試、大学入試、そして就職活動……。

 思いおこせば、さまざまな人生のハードルの前には、必ずといっていいほどマロサガがあった。


 勉強をしないといけないときに、ふとカートリッジが目に付いたばかりに……。

 ニューゲームを始めたばかりのはずなのに、気が付いたらプレイ時間が24時間を超えていたときなど軽く絶望した……。

 


 

 少し話が逸れたな。


 どうやら、俺は『マーロック・サーガ』の世界に転生をしてしまったようだ。

 しかも、その主人公キャラクターのうちの一人、クレイとして。



 まさか……。

 数万時間を費やしたゲームの世界に転生できるとは。


 ましてや、クレイは俺がもっとも好きだったキャラクターだ。

 これほどの僥倖があっていいのだろうか。



 俺は、洗面台に据え付けられた鏡を眺めやる。


 そこには、黄土色の長髪を後ろでまとめた美丈夫が映っている。

 強い意志を感じさせる鋭い眼光に、整った顔立ち。

 一方で、首筋から下には無駄のない鍛えられた肉体が備わっていた。


 どこからどう見ても、クレイだ。

 物語開始三年前だから、俺の知っているクレイもよりも少し若いぐらいしか違いがない。



 ……実は、このクレイの素性は作中で明かされるようなことはなかった。

 せいぜい、自由を愛する冒険者で気ままに生きていることと、ジョンと友人だということぐらいしか知りえなかった。


 だが、クレイになった今となっては。


 泥のなかで泣いていた捨て子だったことが、その名の由来であることを知った。

 てっきり、黄土色の髪色にちなんだ名前だと思っていたのだが……。



 これ以外にも、俺の知らなかったマロサガを知ることができるかもしれない。


 ベッドの上で横になった後も、俺の興奮がおさまることはなかった。






■■あとがき■■

2022.7.12

 更新がんばります!

 

 

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