第32話

「それでは、次回、またお会いしましょう」

「またな」


 淺埜さんはキャプチャーソフトの録画停止ボタンを押して、録画を終了させた。ずっとしゃべり続けていたせいなのか、少し口の感覚がいつもと違っている。

 淺埜さんはキッチンへ向かうと、一リットルのペットボトルに入ったコーヒーとコップを二つ持って帰ってくる。


「お疲れさま。今日はありがとね」

「いただきます~」


 コーヒーを淹れたコップを俺は受け取ると、のどを潤す程度に飲む。口の中に少し苦みが広がった。



 帰宅後。俺はア〇マのアニメ放送のコメントを楽しみながら、現実逃避に勤しんでいた。特に嫌なことがあったというわけではないが、やはりアニメを見ることは楽しい。

 アニメのオープニング、エンディングでの訓練されたコメント欄は一体感があって、見ていて気持ちがいいし、なにしろ面白い。

 もはやこれまで、浄化される、ここは世界一汚いコメントが流れる場所~♪、一生奈良素敵大、は本当に訓練されていて、見ていて楽しい。

 みんなでコメを楽しみながら、アニメを楽しむということは、アニメの楽しみかたの一つだと思う。

 それにしても、ごくごく民のコメントを打つ速さは異常だと思う。アニメのエンディングで「ごくごく」でコメント欄が埋まるけど、あれは準備しているのだろうか。

 ちょうどアニメライブの最終話を迎え、きれいに浄化されたあと。インターホンが鳴った。


「晩ごはんできたよー」

「はーい」


 いつも通りにご飯を食べて、俺はお皿を洗っていると


「今日、女の子のおうちに行ってたでしょ」

「ん?」

「私が大学から帰るときに、女の子と一緒にいたよね? 今日、帰ってくるの遅かったみたいだし」


 急なことにお皿を落としてしまいそうになる。俺はとりあえず、今洗っていたお皿の水を切った。


「別に瑞葉さんの思っている関係ではないですよ。第一、あの子、淺埜さんですし」

「あの子、淺埜さんなの!?」


 俺がネタばらしすると、とても瑞葉さんは驚いていた。地味ッ気の強かった淺埜さんが、普通におしゃれな女の子になっていたのだ。当然のことと言える。


「なにがあったの?」

「さぁ。大学生活を充実するものにするためなんじゃないですか」


 ゲーム実況をしているということは、一応伏せておく。俺はこれ以上、追及のできないように


「お邪魔しました」


 と言って、自宅に戻った。

 お風呂に入り、なんとなくゲームハードのほうを探していると、スマホが振動した。

 淺埜さんからだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋愛成就の神様にお願いした結果 広野ともき @sizen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ