第31話

「んん?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


「マイクも一つしかないけど、真ん中に置いておけば、私と糸吹くんの声が録れると思うから」


 最後の準備として、淺埜さんはマイクを置いた。マイクからはケーブルが伸びていて、オーディオインターフェイスにつながっている。マイクがどれくらいのものなのかは知らないが、USBでパソコン直差しでなく、XRL端子を使いオーディオインターフェイスからパソコンで録音している。


「準備できたよ。それじゃ、初めていこっか」


 口調が敬語からタメ口になった淺埜さんは隣に座った。これがゲーム実況に入る前の気持ちの切り替えのやり方なのかもしれない。

 淺埜さんがゲーム実況を始める前に、俺は一つ淺埜さんに聞いておかなければならないことが一つあった。


「実況者名はどうするんだ? さすがに本名で実況しないよな」

「あ、忘れてた。えっと私は……」


 俺はごくりと唾をのみ、淺埜さんの続きを待つ。


「メープルでお願い。糸吹くんはどうしよっか。って、どうしたの、糸吹くん」


「い、いや。なんでもない。それで俺の実況者名か……」


 少し笑いをこらえていたのは、某私TUEEEアニメの主人公を思い出していたからだ。あのめちゃくちゃっぷりは、思い出しただけで笑ってしまう。


「私はストリングとかいいんじゃないかな~って思うけど」

「その心は」

「糸吹くんだから」

「えらい率直だな。ま、それでいっか。考えるのめんどくさいし。じゃあ、俺はストリング。淺埜さんはメープル。よろしく」

「う、うん。それじゃ、はじめていくね」


 テレビにはプレイ〇テーションのホーム画面が表示された。サクサクッと淺埜さんはソフトを起動した。


「こんにちは、メープルです」


 目線で名前を言ってと淺埜さんは伝えてくる。


「こんにちは、ストリングです」

「今回から、キング〇ム トゥー〇ラウンを一人でやっていきたいと思います」

「これって二人でするゲームじゃないのか」

「こちらの事情でちょっとできなくて……。いつか、二人でできる日を願って! それで始めていきましょう!」

「……」


 このゲームは横スクロールのドット絵ゲームだ。どこかのんびりしていて、何も考えずにできそうだ。

 もしかしたら、俺好みのゲームかもしれない。


「けっこうのんびりしてるゲームですね」

「そうだなぁ。あ、幽霊消えた」

「チュートリアルが終わったようですね。ここからが本当のゲームがスタートです」


 それからはちょくちょく会話をしながら、ゲーム実況をすすめていた。

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