第29話

「ハァハァ、もう頂上ですか、ハァハァ」

「もう無理ー」


 志野は近くにあったベンチに座り込んだ。肩で呼吸していて、生気すら感じられない。しばらく動くのは無理そうだ。

 瑞葉さんはというと、楽しそうに目の前に広がる景色をスマホのカメラで撮っていた。


「きれいだね~。晴れてて風が気持ちい~! もう頂上だよ、お疲れさま~」


 よかった、頂上か。俺は一安心して志野と同様ベンチに座り込んだ。足から力が抜けていく。俺もしらばくベンチから動くことができなさそうだ。

 俺はここに来る途中で寄ったコンビニで買ったスポーツドリンクをかばんから出すと、一気にグビッと飲んだ。ちょっとの甘さが体にしみていって、体が生き返ってくる。

 志野も同じようにスポーツドリンクを飲んでいた。


「瑞葉さん、元気だね。無限に体力があるんじゃないかな」

「だな。でも、高校生だったらこれぐらい余裕じゃないと。ペース走とかあるだろ」


 志野は少しムスッとした様子で


「お兄ちゃんもでしょ」


 図星で何も言い返せない。


「ま、まぁ、これから体力つけていけばいいんだから」


 俺はこうごまかすことしかできなかった。

 俺は話題を変えるようにかばんからおにぎりを取り出した。これもコンビニで買ったものだ。

 山登りをしたため、少し小腹が空いている。


「ほい。塩にぎり」

「ほんと、塩にぎり好きだね」

「安いし、おいしいからな」


 志野も小腹が空いていたようで、塩にぎりを食べ始めた。

 塩にぎりを食べ終えて、休憩しているとだんだんと体力が回復してきたように思えてくる。さっきよりも足には感覚が戻ってきていて、体が軽くなってきているのを感じた。

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