第28話
「お兄ちゃん、食べるの早いね」
「うどんだから、スルスル食べれるんだよ。別に焦って食べる必要はないからな」
「言われなくてもゆっくり食べてるよ。早食いすると、太りやすくなるらしいしね。お兄ちゃんも気を付けたほうがいいよ」
食器を返したついでに、ウォーターサーバーで水を入れて、水をちょびちょびと飲みながら、志野と瑞葉さんが食べ終わるのを待っていた。
といっても、もうすぐで志野と瑞葉さんも食べ終わりそうだ。
「ごちそうさまでした。私、毎日、これ食べれるかも」
「栄養偏っちゃうよ。そしたら、太っちゃうかも……」
「太るのは嫌なんで、瑞葉さんに栄養管理してもらお」
フフッと瑞葉さんは笑うと、一緒に返しにいこっかと返却に志野と瑞葉さんは行った。
「このあとはどうする? まだお昼過ぎたころだから、時間はあるぞ」
お茶を飲み、一息ついている志野に声をかけた。
「バイトもないから、今日はフリーだぞ」
「でも、今日の目的は達成しちゃってし……」
志野は特にしたいことがないようで、頭をひねっている。そんな志野を
見かねてなのか、ただたんに自分がしたいのかは分からないが、瑞葉さんが一つの提案をした。
「散歩しない? 今日の天気いいし、絶好のお散歩日和だと思うよ」
「「散歩ですか?」」
この辺りに散歩コースなんてあっただろうか。まだ越してきて一か月ほどしかたっていないが、散歩コースって言われるぐらいのは聞いたことがない。周りに自然はいっぱいあるけど。
「他にしたいことがあるなら言ってね?」
俺と志野は顔を見合わせる。
「特にないです」
「じゃあ、散歩いこっか」
瑞葉さんが楽しそうに言った。
*
「散歩って、山歩きですか」
「うん。歩くのって楽しいね!」
「お兄ちゃん、しんどい……」
「志野、頑張れ」
「お、お兄ちゃん……」
俺の顔は多分、とっても優しい表情になっていたと思う。
あのあと、電車に乗って来たのはそこまで高くない山だった。瑞葉さんが言うには、子どもでも登れる山らしいが……。
「ねぇ、瑞葉さん。本当に子どもでも登れるんですか? 俺、めっちゃしんどいんですけど」
ついでに志野もだ。俺の少し後ろでハァハァ息をしながら頑張ってついてきている。
「ん? 上に行ってみたらわかるよ」
その声ははずんでいて、瑞葉さんは笑顔だ。中学、高校時代、瑞葉さんは運動部だったのだろうか。今度聞いておこう。
「楽に登れる方法ないんですか? もう、クタクタですよ」
瑞葉さんは俺が少し止まって休憩している間にも、てくてくと先に進んでいく。
「楽しんで歩くことが楽して登る方法かな!」
「「……」」
その笑顔は悪魔にしか思えなかった。
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