第28話

「お兄ちゃん、食べるの早いね」

「うどんだから、スルスル食べれるんだよ。別に焦って食べる必要はないからな」

「言われなくてもゆっくり食べてるよ。早食いすると、太りやすくなるらしいしね。お兄ちゃんも気を付けたほうがいいよ」


 食器を返したついでに、ウォーターサーバーで水を入れて、水をちょびちょびと飲みながら、志野と瑞葉さんが食べ終わるのを待っていた。

 といっても、もうすぐで志野と瑞葉さんも食べ終わりそうだ。


「ごちそうさまでした。私、毎日、これ食べれるかも」

「栄養偏っちゃうよ。そしたら、太っちゃうかも……」

「太るのは嫌なんで、瑞葉さんに栄養管理してもらお」


 フフッと瑞葉さんは笑うと、一緒に返しにいこっかと返却に志野と瑞葉さんは行った。


「このあとはどうする? まだお昼過ぎたころだから、時間はあるぞ」


 お茶を飲み、一息ついている志野に声をかけた。


「バイトもないから、今日はフリーだぞ」

「でも、今日の目的は達成しちゃってし……」


 志野は特にしたいことがないようで、頭をひねっている。そんな志野を

見かねてなのか、ただたんに自分がしたいのかは分からないが、瑞葉さんが一つの提案をした。


「散歩しない? 今日の天気いいし、絶好のお散歩日和だと思うよ」

「「散歩ですか?」」


 この辺りに散歩コースなんてあっただろうか。まだ越してきて一か月ほどしかたっていないが、散歩コースって言われるぐらいのは聞いたことがない。周りに自然はいっぱいあるけど。


「他にしたいことがあるなら言ってね?」


 俺と志野は顔を見合わせる。


「特にないです」

「じゃあ、散歩いこっか」


 瑞葉さんが楽しそうに言った。



「散歩って、山歩きですか」

「うん。歩くのって楽しいね!」

「お兄ちゃん、しんどい……」

「志野、頑張れ」

「お、お兄ちゃん……」


 俺の顔は多分、とっても優しい表情になっていたと思う。

 あのあと、電車に乗って来たのはそこまで高くない山だった。瑞葉さんが言うには、子どもでも登れる山らしいが……。


「ねぇ、瑞葉さん。本当に子どもでも登れるんですか? 俺、めっちゃしんどいんですけど」


 ついでに志野もだ。俺の少し後ろでハァハァ息をしながら頑張ってついてきている。


「ん? 上に行ってみたらわかるよ」


 その声ははずんでいて、瑞葉さんは笑顔だ。中学、高校時代、瑞葉さんは運動部だったのだろうか。今度聞いておこう。


「楽に登れる方法ないんですか? もう、クタクタですよ」


 瑞葉さんは俺が少し止まって休憩している間にも、てくてくと先に進んでいく。


「楽しんで歩くことが楽して登る方法かな!」

「「……」」


 その笑顔は悪魔にしか思えなかった。

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