第25話
意味わかんないという目線で志野は俺のことを見てくる。その目には軽い呆れがあるような気がした。
「お兄ちゃん。私が一般人ってこと知ってるよね」
俺はうなずく。
「だったら分かるよね」
志野は一息入れた。
「私がこれを見せられても分かんないってこと」
深いため息とともに言い放った。
これだから一般人は。
俺はくるりと椅子を回転させて、志野と向き合う。
「スマホのスピーカーってどう思う?」
「急になに」
「とりあえず答えてくれ」
「別に普通だと思うけど」
「本気で言ってんのか」
「私、音質とかあんまり気にしないから」
思わず俺は椅子から落ちてしまった。
本気で言っているのかと、俺はもう一度志野に目線で確認してみたが、志野はうなずいた。
最後のあがきで、俺がよさそうと思ったヘッドフォンやちょっとだけオーディオに投資するだけで世界が変わるということを伝えようかと思ったがやめておくことにした。
変わりにさりげなく、今パソコンにつないでいるパソコンスピーカーから志野が好きだと言っていたシンガーのミュージックビデオを流し始めた。本当は動画投稿サイトの音楽をあまり聴きたくはないが、ネット上でコスパの良いパソコンスピーカーといわれている三千円程度のスピーカーでは聴き分けはできない。だから、どっちでもよかった。少なくともスマホのスピーカーよりは音質はいい。
「あ、これ。お兄ちゃんも聴くの?」
いや、最近俺はアニソンとかしか聴かない。
というのは言う必要がないため
「志野が好きって言ってたから、なんとなく流してみた」
「お兄ちゃん聴かないんだ。持ったいない、持ったいないよ、お兄ちゃ
ん。このユニットの歌詞とか歌声が心にグッと来るんだよ! あ、そういえば、今日新曲を公開したみたいだから、再生してよ」
鼻息を荒くして話し始めた志野は俺からマウスを奪うと、勝手に今日公開されたというミュージックビデオの再生を始めた。
すでに高評価が万を超えていて、再生回数も数十万回を超えている。
志野は「あ~神曲」とうなりながら聴いていた。もしかしたら志野はこのユニットの信者なのかもしれない、というより、多分、もう信者だ。
「どうだった?」
ミュージックビデオが終わり、軽く涙目の志野に声をかけた。志野は興奮しているようで、顔が軽く赤い。
「この際、私がこのユニットの魅力を教えてあげる!」
「ちょ、勝手に――」
そのあと二時間ほど、そのユニットのミュージックビデオや魅力について、志野からプレゼンテーションを受けた。
「眠くなってきた、お兄ちゃん、布団どこにしけばいい」
熱く語った志野は疲れたようで、いや、布教活動にご満足がいったようで、やりきったという顔で聞いてきた。
「テキトーでいいぞ」
「ん、じゃあ、お休み……」
瑞葉さんから借りてきた布団をしくと、あっという間に志野は布団にくるまってしまった。
今日は移動してきた疲れがたまっていたのだろう。俺は志野が眠りやすいように、部屋の電気を消した。
俺はパソコンの電源を落とそうかと思い、電源ボタンを押す寸前で思いとどまった。
なぜだが無性にエロゲのオープニングムービーが聴きたくなってきてしまった。志野からミュージックビデオのプレゼンテーションを受けたからだろう。
俺は動画投稿サイトを調べ、適当なエロゲソングを聴き始めた。志野に配慮して、今度はイヤホンでだ。
男の娘のエロゲ。京都に本社を置く某ゲーム会社の最新ハードに移植されたエロゲ(2019年8月29日発売)。大阪に開発室を置く老舗エロゲメーカーの最新作のエロゲ。超泣きゲ―メーカーと知られる会社の美少女ゲーム。EpisodeⅠから続き、つい先日シリーズ最新作として最終章となるEpisode Ⅳが発売されたエロゲ―。を聴いて、満足した。
そろそろ寝ようかと思い、ブラウザーを閉じようとしたら、関連動画に一度どこかで聞いたことのあるようなエロゲのオープニングムービーがあったのに気がついた。
たしか、発想が狂気、地上波で誰かが紹介したとかでいろいろと話題になっているエロゲだ。
機会がなかったのか、俺はまだ聴いたことがなかった。せっかくということで、俺は聴くことにした。これも何かの縁だ。
再生を始めるとアップテンポでノリの良いリズムが流れてきた。苦ではなく、どちらかというと楽しくなってくるリズム。
あっという間にオープニングムービーが終わった。1st と書いてあるから、二作目もあるのだろうかと思い、チャンネルに入ってみると、百万回再生記念で二作目のオープニングテーマのフルバージョンが公開されていた。
すごい人気作なのかと思いながら、二作目のオープニングムービーを始める。
流れてきたのは既視感のある語りかたとムービー。言っていることはなかなかエゲツないが、かなり面白い。だが、最後はプチっと切られて、オープニング曲が入ってくる。かっこいいリズムで、戦いをイメージさせられる曲だ。
めっちゃかっこいいじゃんと思いながら、もう一度公式チャンネルに戻ると、没シナリオ動画というのを見つけた。
興味本位で再生を始めた結果、約一時間、志野を起こしては悪いために笑いをこらえ続けるのだった。
シナリオは知らないが、特に可愛いと思ったのは、オレンジ髪の子、むらさき髪の子、きみどり髪の子、うすピンク髪の子だ。ほぼ全員じゃんというのは知らない。可愛すぎるのがいけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます