第24話

 せめてもの抗議の棒読みは華麗にスルーされ、高次方程式分からないから教えてと志野は言ってきた。


「帰ってからな」

「おねがいしま~す、お兄ちゃんせんせ」


 志野のお願いの方法があざとい。教えてやらないでやろうかとも思ったが、おいしいそばを食べるとそんな気持ちは忘れてしまった。



 家に帰り、志野に高次方程式を教えた俺はゆっくりとネットサーフィンを楽しんでいた。志野は本当に数学が苦手なようで、高次方程式の基礎の基礎の問題でも手を焼いていた。

 その志野は頭の中が意味の解らないことでいっぱいになってしまったみたいで、今は横になってごろごろとしている。ゴールデンウィーク中の数学課題を終わらせることができてよかったぁ、と言っていたので、その満足感に浸っているのかもしれない。

 俺はネットサーフィンでオーディオ関連、主にヘッドフォンを探していた。新しく組んだ自作パソコンにはサウンドカードを内蔵している。俺が持っているイヤホンは家電ショップに投げ売りされていた三千円台の激安イヤホンだ。

 さすがにこのイヤホンではせっかく買ったサウンドカードの意味がなくなってしまう。最大限の性能を引き出すために新しいヘッドフォンを探していた。

 俺は以前までイヤホン派だったが、長時間のイヤホン使用だと俺の耳が蒸れてきてかゆくなる。そのためヘッドフォンを購入することに決めていた。用途は主にリスニング。求めるのはフラットな音質で、原音を忠実に表してくれる味付けのないこと。

 ということを条件に調べていくと、モニター用ヘッドフォンが主な選択肢になってくるのだが……。価格の幅が大きく、いまいちどれがいいのかが分からなくなってきていた。これがオーディオ沼なのかと思うと、怖くなってくる。音質を求めて高い製品を買いはじめてしまうのだろうか。


「お兄ちゃん、なんかまたマニアックな世界に入ってない?」


 志野は起きたようで、呆れた声で話しかけてきた。


「またってなんだよ、またって」


 俺は新生活を始めるにかけて買ったデスクチェアの背もたれにもたれかかった。


「中学のときに全く興味のなかったライトノベルとかにはまって、高校ではパソコンとかを調べ始めて、大学ではオーディオ。一般人にはよく分からない分野だし。これをマニアックといわないで何ていうの」


 志野は深くため息をつきながら、更に呆れた声で言った。

 俺はマウスのスクロールホイールを左に押して、ブラウザバックする。さりげなくこの機能は使いやすい。そう思わないだろうか。

 モニター上には、俺が気になっているヘッドフォンが一覧になった。今

後増えていく予定だ。


「なに」

「どれがいいと思う?」

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