第23話

 俺は温泉から上がり、ライトノベルを寝転がって読んでいた。やっぱり風呂上りの読書は気持ちがいい。体がポカポカで、眠くなってきてしまう。

 あくびをしながらのんびりライトノベルを読んでいると


「お兄ちゃん、キモイよ……」


 引いている目をした志野がいた。髪の毛はまだ濡れていている。


「風邪ひくぞ。髪の毛乾かさないと」

「お兄ちゃんだって、髪の毛乾いてないじゃん」

「すぐに乾くからな」

「私だって同じだよ」


 志野はタオルで髪の毛を拭いている。女の子の髪の毛がどれくらいの時間で乾くのかは知らないが、志野がいうということはすぐに乾くのだろう。


「ならいっか」

「うん、いいの」

「瑞葉さんは?」

「もうちょっとでくると思うけど……。あ、でてきた」

「お待たせ。それじゃ、食べにいこっか」


 瑞葉さんの髪の毛も濡れている。もしかしたら女子風呂のほうにドライヤーがなかったのかもしれない。


「今日はなにを食べるの?」

「俺は前のと同じにします」

「私もお兄ちゃんと同じのにする」

「じゃあ、私も同じにしよっかな」


 ということで、俺たちは同じものを注文して、温まった体で眠気を感じながらのんびりと待っていた。

 俺の眠気が絶頂に達し、現実を忘れていたころに頼んだ料理がきた。


「もう、お兄ちゃん寝てたね」

「ふぁー」


 あくびをこらして、俺は料理を受け取った。わりばしを割って、いたた

きますと言ってから食べ始めた。


「温まった体に冷えたおそばがおいし~」


 志野がほっぺに手を当てながら食べている。


「お兄ちゃん、ごちそうになるね」

「……貰ってないのか、予算」


 マジメなトーンで俺は聞き返した。ただ俺の思いは伝わらなかったようで、志野はクククと笑いをこらえている。


「冗談だよ、冗談。まったく、昔からお兄ちゃんは冗談が通じないんだから」


 抑えきれなくなってようで、志野はクククと声を出さずに笑っている。


「志野の冗談が上手いんだよ。寝ぼけてると全然わかんない」

「うそ~。瑞葉さん、私、冗談上手いと思います?」


 志野のとなりに座っている瑞葉さんは、食べていたそばを飲み込んだあと


「慎司くんはだまされやすいのかも」

「……うそ。俺ってだまされやすいのか」


 人間不信になったほうがいいのだろうか。


「志野ちゃんは文系だったよね」

「はい、そうです。数学とか苦手です」


 テストで毎回絶望的なんです、と志野は笑っている。

 俺のフォローがないのがなんだかさみしい。


「私も数学が大参事だったけど、入試にはいるからしっかり勉強しておいたほうがいいよ」

「じゃあ、お兄ちゃんに教えてもらお。お兄ちゃん理系だもんね」


 少し落ち込んだのを忘れてようと俺はそばをもくもくと食べていた。食べながら話すのはマナーが悪いため、飲み込んでから棒読みで答えた。


「リケイダゾ」

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