第19話

「ね、ねぇ、い、糸吹君。私、じ、自作パソコンとか、よく分からないんだけど」


 自作パソコンコーナーで、グラフィックカードを若干興奮しながら見ていると、緊張気味の淺埜さんが、そう尋ねてきた。

 俺は一回咳払いをして、その興奮を少し冷まして、淺埜さんの方を向いた。

 ……淺埜さん、そんなに怖がらないでください。俺が不審者だと思われますので。

 すると、淺埜さんはスススと俺の隣まで来た。俺の思いが届いたのだろうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。

 早速、相談にのっていこう。


「それで、淺埜さんは自作パソコンで何がしたいの? それで、けっこう必要スペックが変わってくるから」


「……げ、ゲーム実況……」


「!?」


「だ、だから、げ、ゲーム実況。なんども言わせないで」


 いや、そうなるだろ。一回は聞き返してしまうだろ。

 外見から見て、引っ込み事案そうな淺埜さんが、ゲーム実況だなんて。想像もできない。


「じゃ、じゃあ、どんなゲームを?」


「プレイス〇ーションのゲームとか……」


「それだったら、別にプレ〇ステーションの録画機能でよくないか」


「で、でも、他の動画を撮って、編集もしたいし」


「そうか。お金とかはどうなんだ?」


「えっと、十万円ぐらいで済ませたいです……」


 そうか。それだったら、俺と似たようなスペックでいいんじゃないのか。もし、パソコンで録画したいなら、低スぺックパソコンでも大丈夫な、ハードウェアエンコードのキャプチャボードを買えばいいわけだし。そっちのほうが安くつく。


「あ、忘れてた。モニターとかも金額に含んでる?」


「えっと、はい」


「そうか」


 よし、こんな感じの構成でいいだろう。


「じゃあ、早速選んでいこうか」


「は、はい!」



「わぁ、ほんとに十万円以下でできました。すごいですね、糸吹さん。お詳しいんですね」


「いやいや、ネットで調べながらだったし、誰でもできることだよ」


「それでもすごいと思います」


「ほんと、誰でもできることだから」


 ある程度の構成を淺埜さんと決定した俺は、パソコンコーナーから出て、はぐれてしまった瑞葉さんと前野さんを探していた。


「それにしても、あの二人、どこにいるんだ。連絡しても返信ないし」


「そうですね。どこに居るのでしょう」


 それにしても、淺埜さんとかなり話せるようになったような気がする。やっぱり共通の趣味を通すことで仲良くなれるんだなぁ。

 そんなことを思っていると、オーディオコーナーで、前野さんがいるのに気がついた。


「前野さん見つけたよ」


「え、ほんとですか? あ、恵那!」


 駆け足で行く淺埜さんを見ながら、もう一回瑞葉さんに連絡をした。

 ほんと、どこ行ったんだろ、あの人。

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