第17話

「えっと、どのパソコンがいいの? ちょっとだけ調べたけど、あんまり分からなくて? 糸吹君、男の子だから、パソコンとかに詳しいのかなって思って……。どうしたの、糸吹君」


「え、ああ。ちょっと好きだから、いろいろ調べてるけど……」


 危ない危ない。前野さんの話しかけがなかったら、パソコンの世界に飲み込まれるところだった。

 パソコンを食い込むように見ていた俺は、平静さを装いつつ、前野さんのほうを向いた……

 ……前野さん、淺埜さん、俺から離れたところで、変人を見る目で見ないでください。パソコンのことを紹介できないですし、ちょっと悲しいです。

 俺はサササと二人のところまで向かった。


「これって、最近よく聞く、げーみんぐぱそこん、だよね。思ってたのより安いかも」


 前野さんが「げーみんぐぱそこんってなんだろう」とつぶやいている隣では、淺埜さんが熱心にゲーミングパソコンを見ていた。もしかしたら、淺埜さんはゲームに興味があるのかもしれない。


「ゲーミングパソコンと普通のラップトップとの大きな差は、グラフィック性能だな。普通のラップトップだと、CPU内蔵グラフィックなんだけど、ゲーミングパソコンだと、基本的に、高性能なGPUが使われてるんだよ」


「……?」


「(コクコク)」


 前野さんは茫然と、淺埜さんは理解しようと頑張っている。二人の間で大きな差が生まれてしまった。


「ゲーミングパソコンはさておき。前野さんはなんでパソコンを買おうと? レポートとかだったら、こんな高性能なもの、オーバースペックだと思うけど」


「え、そうなの?」


「重いし、でかいし。レポートの制作とかだったら―――」


「あ、マ〇クとか?」


「別にそれでもいいと思うけど……」


 はぁ。たしかにいいんだけど、庶民には高すぎるんだよな。十万円出して、2コアだぜ。最近安くはなったとはいえ、ビミョーなんだよな。


「ほら、あそこにあるのとかどうだ」


「もしかして、糸吹君って、アイ〇ォンとか嫌いな人?」


「な、なんでバレ……。いや、別になんとも思わないけど……」


「やっぱりそうなんだね。私がマ〇クって言ったとき、あきらかに嫌そうな顔したもん」


「……」


 だってさ。俺いつも思ってたんだもん。

 中学、高校のとき。周りのリア充たちがさ、「アイ〇ォン8欲しい」「アイ〇ォン11欲しい」ってうるさいし、普通にアイ〇ォンを持ち歩いてるし。

 十万円以上を、欲しいと言えて、普通に持ち運べるってさ、俺からしたら頭おかしいとかしか思えないんだよな。第一、中高でアイ〇ォンは要らないんだよ。

 五万円ぐらいのスマホで十分だろ。カメラ性能、グラフィック性能が申し分ないのがあるんだからさ。

 え、俺? 日本会社の四万円のスマホですが。防水、イヤホンジャック有、タイプC充電。格安sim契約で、月々、約千円しかかかっていませんが。 

 まぁ、親に払ってもらってるから、なんともいえないけど、賢い選択だとは思う。俺、あんまりスマホを外で触らないから、通信速度が多少遅くても大丈夫だし。

 それとさ、みんな、外に出てまでスマホとかしすぎ。みんなで集まって、ケータイ触るとか意味ないじゃん! なんで集まったの? 顔を見ておしゃべりしようよ!

 っていつも思う……。つい、普段、俺が思っていることを語ってしまった。すまない。


「まぁ、俺のことはいい。あっちに、よさげなものがありそうだから、あっちに行こうぜ」


「ふ~ん、そうなんだ」


 なにが「ふ~ん、そうなんだ」かは分からないが、前野さんはラップトップ売り場のほうに歩いて行った。

 ここまで前野さんにくっついていた淺埜さんは、ゲーミングパソコンを熱心に見ている。


「淺埜さんは行かないの?」


「……え、えっと、もうちょっと見たいです」


 ここでアドバイスを一つ。


「ゲーミングパソコンを買うなら、同じくらいのスペックの自作PCを組んだほうが安く済むよ。俺も、今日、自作PCのパーツを見に行くから、一緒に……」


「(!!!)」


 淺埜さんは目を輝かせた。

 淺埜さんはゲーミングパソコンでどんなゲームをするのだろうか。

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