第15話

 新歓が終わり、大学の講義が始まった一週間。それが今日終わろうとしている。慣れていない一週間を過ごしたあとの疲労感というのはすごい。

 俺は大学から帰ってきて、布団の上でごろごろとしていた。晩ごはんの用意をしないといけないが、やる気が起きない。今日は冷凍チャーハンにしよう。

 ポチポチとスマホを触っていると、メールが来た。


《明日、一緒にパソコンを買いにいってくれない?》


 前野さんからだった。


《急にどうしたんだ》


《私、まだパソコンを買ってなくて。それで、私、パソコンとかよくわからないから》


 ふむふむ。そういうことか。

 それにしても、俺が男だからって、パソコンに詳しいとは限らないんだよなぁ。

 俺は二言で答えた。


《分かった。何時?》


 明日はパソコンを買いに行くのか―、と思っていると、ドアがノックされた。

 俺は重い体をひきずりながら、ドアを開ける。


「今日は何にする?」


 相手は分かっていたが、こうも毎日のように来られると、なんだか不思議に思えてきてしまう。


「瑞葉さん、毎日、晩ごはんを作ってくれるのはありがたいんですが、大丈夫なんですか?」


 大変じゃないのだろうか。一応、材料費は出してはいるが。


「だって、慎司くん。この前料理したとき、あきらかに料理をしない人の料理が出てきたんだもん」


「あのときは失敗しただけで……」


 この前、俺は夜ごはんを瑞葉さんにふるまっが、おもいっきり失敗した。ちょっと意識高い系なのを見せてやろうと思ったのがいけなかった……。

 いつか見返したいと思っている。


「ほら、早く言って。私、今から買ってくるから」


「軽めなもので、お願いします」


「じゃあ、行ってくるから。できたら、また呼びに来るからね」


「ごちそうになります」


 瑞葉さんはスーパーのほうに歩いていった。



「いただきます」


「いただきます」


 八時半ごろ。寝ていた俺は、瑞葉さんのノックで目をさまし、瑞葉さんの部屋にお邪魔していた。毎日のように来ていると、瑞葉さんに気持ち悪く思われてしまうかもしれないが、自分の部屋のように思えてきてしまう。

 メニューはうどんだ。疲れた体にはちょうどいい料理だと思う。ほんと、瑞葉さんはすごい。お母さん力が滲みでている。


「あ、慎司くんは、明日どうするの?」


「明日は、出かける予定ですけど」


 サラリと答えると、瑞葉さんはむせて、咳きこんだ。


「え、誰と!?」


「この前言った、前野さんとです」


「お~、イケイケの学生さんだね~。このこの~」


「いやいや、そんな前野さんと仲良くないですよ」


 実際、あれ以来、会ってもいないし、メールもしていない。

 というより、瑞葉さんのお母さん力が滲み出ているって間違いだったかもしれない。

 完全に、男女の関係に興味のある女性の目をしていらっしゃる。

 でも、まだ二十歳になってないわけだから……。年相応といえば、年相応なのか。

 女性って難しい。

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