第14話

 新歓から数日が経ち、少し慣れたキャンパスでは、講義が始まっていた。

 結局、あれから慎司と会うことはなく、一人で毎日を過ごしている。高校生のときのほうが楽しかったように思えてくる。

 新歓でしっかり大学デビューをしておけばよかった、という後悔の気持ちが生まれてきていた。友達ぐらいは見つけておけば、今の気持ちは生まれていないのかもしれない。

 恵那は講義のある教室に入った。教室内には片手で数えられるぐらいの学生しかいない。来るのが早かったのかもしれない。

 恵那は教室の中央辺りの席を取ると、グッと体を伸ばした。教室内は空調が効いていて、暖かい。すぐに眠ってしまいそうだ。

 スマホを取り出して、ヒマつぶしをしていると、前の席の女の子があたふたとカバンの中を探しているのに気がついた。「筆箱忘れちゃった……」とかなり落ち込んだような声のトーンで聞こえてきくる。

 恵那は荷物を持って立ち上がり、女の子の隣の席に座ると、彼女は警戒心をあらわにした。


「ほら、貸してあげる」


「え?」


 次は驚いた表情になった。コロコロと表情が変わり、かわいらしい。

 恵那はシャーペンと消しゴムをその女の子に無理やり渡すと、講義で必要なものの準備を始めた。


「忘れちゃったんでしょ」


「……はい」


「じゃあ、それ使って」


 女の子はしばらく手元のシャーペンと恵那を交互に見ると、「ありがとうございます」と言って、講義の準備を始めた。


 *


 恵那がシャーペンを貸した女の子は、淺埜あさの花楓かえでと言う。花楓は新歓に参加しなかったらしく、友達がいないということだ。

 恵那は新歓に参加はしたが、友達はできていない。だから、恵那は花楓に親近感を抱いていた。

 高校のとき、あまり友達がいなかったようで、花楓は恵那のことを名前呼びすることを、最初はためらっていた。しかし、恵那は花楓と仲良くなりたいため、名前呼びすることを頼み込んだ。

 そしたら、花楓はしぶしぶ名前呼びをするようにしてくれたのだ。だが、慣れないようで、恵那のことを名前呼びすると、顔を少し赤くしている。

 今も、花楓の顔は少し赤い。少しづつ慣れてくれたらいい、と恵那は思う。

 そんな恵那と花楓の二人は学食に来ていた。すでにたくさんの他の生徒がいて、混雑している。


「どこか空いてる席ないかな」


「もうちょっと奥にいけばあるかもしれないよ」


 人の流れに飲み込まれて、奥に進むと、ハイテーブルの席が空いているのを見つけた。そこに紙コップを二つ置いて、席取りをする。


「もうちょっと遅い時間にこればよかったね。人が……」


「でも、席取れたから、早く食べて、外に出よ」


 恵那と花楓は食券機の長い行列に飲み込まれにいった。

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