第12話

 新しい生活が始まり、家電がそろい、インターネットが開通し、大学の入学式が終わり、落ち着いてきた今日この頃。

 俺は大学の新入生歓迎会、いわゆる新歓というのに来ていた。

 もちろん、瑞葉さんはいない。俺、一人で来ている。

 周りでは、着々とコミュニケーション力の高い人たちが、男女関係なくグループを作って、アドレスの交換などをして集まっている。

 で、俺はというと、そんなにコミュニケーション力が高いわけではないため、会場の端っこのほうで、新歓の雰囲気を味わっていた。

 こうやって出会っていくんだなぁ、と思いながら、紙コップの中の緑茶をぐびっと飲む。

 彼女いない歴=年齢なのは、俺のこういう性格だからだろう。自分からは話にいかないが、話しかけられると、受け答えをしっかりとする。社交性が消極的だということ。

 コミュニケーション能力が高い人たちは、コミュニケーション能力の高い人同士で引き合う。そして、コミュニケーション能力が高くない人たちは、誰とも話さずに過ごしていく。まぁ、一人でいるのも楽しいから、いいんだけど。

 そう考えると、瑞葉さんはコミュニケーション能力の高い人なんだろう。いきなり俺に話しかけてきて、晩ごはんに誘って。そのあと、親戚だと分かったけど、初めて会う親戚にあそこまでするものだろうか。いや、しない。

 しかも、あれから、ごはんを作ってくれたりしたし……。あれ、これって、コミュニケーション能力じゃなくて、母性じゃないのか。

 と考えているとスマホがバイブした。


《新歓楽しんでる?》


 瑞葉さんからだった。

 どう返したものだろう。ぼっちです、と返事をすると心配をかけてしまいそうだし、孤高を楽しむイタイ子だと思われるかもしれない。

 スマホを握りしめて、間違っていないかつ、心配をかけない返事を考えいると、となりに女の子がいるのに気がついた。

 その女の子も俺が存在に気がついたことが分かったみたいだ。


「初めまして。大丈夫? スマホを握りしめて、難しい表情をしてたけど」


「あ、そうですか。すいません、大丈夫ですよ」


 スマホをポケットに入れて、改めて女の子のほうを見る。

 派手な服装でもないけど、かといって地味すぎる格好でもない。高校のクラスで例えるなら、中くらいのポジションで、男子とたまに話したりする階級。分かりにくいか。


「敬語はやめよう。同い年なんだし。私は前野まえの恵那えな。君は?」


「俺は糸吹慎司。前野さんはなんで端っこに」


 普通に話しかけてくるあたり、高校のときには男子と普通に話していたのだろう。つまり、コミュ力が高いと思われる。


「なんでって。糸吹君って、闇が深いのかな」


「そんなに闇が深いと思ったことはないけど。平均だと思う」


「ほんとに? 平均だったら、そんなことは言わないと思うよ」


「そ、それは置いておいて。なんで? もっと中心のほうで居たほうが楽しいと思うけど」


 自分でも話のそらしかたは下手だと思うけど、これしかできない。これも、コミュニケーション能力がかかわっているのなら、少し自信を失う。


「あんな感じの《俺たちイケてるぜ》っていう雰囲気が苦手なんだよね」


 前野さんは明らかに嫌悪の表情をした。

 そう言う彼女も闇が深いのかもしれない。

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