第6話

「お粗末さまでした」


「ごちそうさまでした」


 豆乳おなべを食べ終えて、俺は満腹を感じていた。本当においしく、お箸が止まらなかった。

 おなべには、具材がなくなっていて、お汁だけが残っている。


「あ、瑞葉さん。これ、お礼です」


「これって、さっき秘密って言ってたものかな」


「はい、そうです。明日のおやつにでもしてください」


「豆乳プリン?」


「豆乳がかぶっちゃいましたけど。じゃあ、俺、帰らせてもらいます。お邪魔しました」


「あ、うん。これ、ありがとね」


 俺は瑞葉さんの部屋から出て、自分の部屋に帰った。

 部屋は真っ暗で、なにも見えない。俺は、備えつけの電気をつけた。

 菓子ぱんと、もってきていたカバンだけが、ポツンとおいてある。


「とりあえず、体でも拭くか」


 カバンから、キャンプとかで使われるというウェットタオルを取り出して、体を拭き始めた。肌がツーンとして、気持ちがいい。

 下着も持ってきておいたため、俺は着替えた。


「することもないし、寝るか」


 俺はカバンを枕替わりにして、横になった。


 翌朝。

 起きると体のあちこちが痛かった。体が完全に固くなっている。

 軽く体操をすると、その痛みはましにはなった。

 昨日買っておいた菓子パンを食べようと思い、封を開けようとしたら、コンコンと玄関のドアがたたかれた。


「おはよ~、糸吹くん。朝ごはん、一緒に食べよ~」


「瑞葉さん?」


 ドアを開けると、目の前には瑞葉さんが立っていた。朝ごはんを呼びにくるなんて、なんだか若妻のように思える。


「朝ごはん、あるんで大丈夫ですよ」


「昨日の菓子パンでしょ」


「そうですけど」


「今日、荷物届くんでしょ」


「そうですけど・・・・・・。俺、今日に荷物が届くって言いましたっけ」


「うん。昨日、私の部屋に入ったときに、ぼんやりと。あ、私、ミニマリストとかじゃなくて、あんまりモノを買わないだけだから」


 それをミニマリストって言うんじゃないですか、ということは言わないでおいた。


「菓子パンだけだと、お腹空くでしょ」


「そうかもしれませんけど……。迷惑じゃないですか、朝ごはんまで一緒になんて」


「昨日のお汁で、雑炊を作ったんだけどなぁ」


 チラッと瑞葉さんが俺のことを見てくる。

 昨日のおなべを思い出しただけで、雑炊の味が想像できる。これは絶対においしい!


「ほら、食べたいって顔をしてる。決まりだね」


「……はい」


 またしても負けてしまった。いつか、絶対に主導権を取り返してやる。豆乳おなべの雑炊を食べてからだけど。

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