第7話

 とてもおいしい豆乳おなべ雑炊を食べて、少しゆっくりしていた。

 今は、引っ越し業者さんが来るのを待っている。今日は、春の日差しのようで、太陽がのんびりと輝いている。暑くなりそうだ。


「あ、来たよ」


「ほんとうだ」


 となりには、普通におしゃれな瑞葉さんが立っている。

 俺は、けっこうですよ、と何回も言ったが、瑞葉さんは、手伝うから~、と言って、聞いてくれなかった。

 その瑞葉さんは、俺の荷物が届くのを、嬉しそうに待っている。


「おはようございます、〇〇の者です。糸吹さんでよろしいでしょうか?」


 トラックから降りてきたのは、筋肉質のかっこいいお兄さんだった。


「はい、そうです。よろしくお願いします」


「いえいえ、こちらこそ。えっと、そちらの方は」


「この子の親戚の加納です。引っ越しということを聞いて、お手伝いに来ました。よろしくお願いします」


「自分のほうこそ、よろしくお願いします。では、早速、用意の方をしますので」


 そう言って、お兄さんはトラックの方に帰っていった。

 その姿を見届けると、俺はすぐに瑞葉さんのほうを向いた。

 瑞葉さんの顔は、いつも通りの表情だった。女性は嘘をつくのが上手いのかもしれない。


「ど、どういうことですか! なんで嘘を!」


「嘘じゃないよ。糸吹くんは、私の親戚」


 瑞葉さんは嘘を言っているように見えない。

 なら、どういうことだ。俺の知っている親戚の中で、加納瑞葉という女性はいない。


「ネタバラシは、引っ越しのお兄さんが帰ってからね」


「……はい」


 引っ越しの荷物搬入はスムーズに進んだ。もともと、俺がこっちに持ってきた荷物が少ないのもあるが、あのお兄さんがすごくスムーズかつ丁寧に荷物を運んでくれたため、引っ越し自体は、一時間程度で終わった。

 さっきまで、なにもなかった部屋に、段ボールが転がっている。

 だが、引っ越しを本当にしたんだなぁ、という気持ちよりも、瑞葉さんの言葉の意味のほうが、気になってしょうがなかった。

 張本人の瑞葉さんは、なんだか楽しそうに、俺の荷物の開封を始めている。


「ちょ、勝手に開けないでくださいよ」


「こういう引っ越しの荷物を開けるのって、なんだか楽しいから、つい」


 ふふっ、と笑う瑞葉さん。

 俺は、早速、さっきの言葉の意味を聞いた。


「さっきの親戚っていうのはなんなんですか!?」


「私はね、博三ひろかずおじさんの妹の孫なの」


「え、俺のおじいちゃんの妹の孫!?」


 全く意味が解らない。博三というのは、俺の母さんのお父さんの名前だ。俺もよく会っている。

 今年でたしか九十歳手前だったはずだ。体もピンピンしていて、畑とかをしている。たまに野菜を送ってきてくれて、実家でのごはんが、大根料理オンリーになることもあった。その年は、大根の出来がよく、つい送りすぎたということだ。

 でも、なんで、俺のことを瑞葉さんは知っているんだ。俺は知らないのに。

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