第5話

「おじゃまします」


 中に入ると、ものは少なく、すっきりとした部屋だと感じた。多分、明日届く荷物よりも少ない。瑞葉さんは、ミニマリストなのだろうか。


「食材持ってくれて、ありがとね。さて、今からは私の出番だよ、おいしいもの作るから期待しておいてよね」


 先に上がった瑞葉さんは、俺から食材を受け取ると、さっそく料理に取り掛かった。

 俺の部屋とほとんど同じ間取りの瑞葉さんの部屋は、さっきも言った通り、すっきりとしていて、全体的に白を基調としていた。普通におしゃれな部屋だ。


「注意深く見ても、えっちなものはないからね~」


「そ、そんんな目で見てません!」


「糸吹くんの反応はかわいな~」


 またしてもやられてしまった。悔しい。完全に主導権を握られてしまっている。

 俺はジッと座って、瑞葉さんのおなべができるのを待つことにした。


「お待たせ~。はい、豆乳おなべ」


「とうにゅうおなべ? なにを投入したんですか?」


 おなべの汁は白かった。


「あれ、豆乳おなべ知らない?」


「はい」


「そっか。じゃあ、さっそく食べよう! そうすれば、なにを入れたか分かるかもしれないよ」


 瑞葉さんは、お箸と取り皿を持ってくると、俺の前に置いてくれた。全部してもらっていると、なんだか小学生みたいで恥ずかしい。


「それでは、いただきます」


「いただきます」


 きちんと両手を合わせて言う瑞葉さんに、俺も両手をしっかりと合わせた。普段、いただきますと言うのみだから、久しぶりに手を合わせたような気がする。

 俺はさっそく、おなべから、食べる分だけを取り皿に盛りつけた。

 キャベツから、口にしていく。


「あ、豆乳か」


「そう、正解!」


「豆乳となべって合うんですね。初めてです」


「けっこう流行ってるんだよ、豆乳おなべ。おうちでしなかったの?」


「お父さんがキムチなべが大好きなんで、基本的にキムチなべでした」


「へぇ、そうなんだ。キムチおなべもおいしいよね。いつもキムチおなべだってことは、糸吹くんって、辛いのはいける口?」


「うーん、ビミョーですね。カレーとかは、無難にマイルドとかしか頼まないんで」


「キムチの辛さは別ってことだね」


「そういうことになりますね。それにしても、豆乳なべ、おいしいです。止まりません」


「たくさんお食べ、若人よ」


「なんですか、その田舎のおばあちゃん」


「わしはおばあちゃん。ほらほら、この豆腐、あつあつでおいしいんじゃよ」


「ありがたくもらわせてもらいます」


 瑞葉さんからもらった豆腐は、かなり熱かった。思わず、口から出してしまいそうになるが、なんとか水を流しこんで、耐える。汚いことはしたくない。


「あ、ごめんね、まだ熱かった?」


「なんとか食べれました」


「よかったぁ。やっぱり、誰かとごはんを食べるのは、楽しいね」


「はぁい」


「食べながらしゃべらないの。たくさん食べてね、移動で疲れているだろうし」


 本当は白飯も欲しいところだが、我慢した。瑞葉さんは、夜に炭水化物を取るのは控えているのだろう。

 と考えると、俺が買ったものを、このあと開けてもいいのだろうかと思った。

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