03.うちの姉ちゃん

 うちの姉ちゃんは美人だ。


 学校のミスに選ばれちゃったりするくらい、顔面はすこぶるいい。

 狭い世界の話じゃないのと姉ちゃんは恥ずかしそうに言うが、三桁に及ぶ対象者のトップに立つなんて、そんなにたやすいことではない。見た目十人並みの俺からすれば十分すぎる偉業だ。


「ローカルな称号なんてただ恥ずかしいだけよ」


 と、本当に恥ずかしそうに、嫌で堪らないといった様子で眉間に皺を寄せるその面は、決して表に出してはいけない。


 うちの姉ちゃんは美人だ。

 というか。長所が顔面に特化していて他はとにかく酷い。

 勉強もスポーツも、見た目を裏切れない十人並スペックの俺よりも出来ない。


「女は愛嬌!」


 と堂々と言い放つ、度胸だけは男前。ついでに付け加えるならば、性格も悪い。


 うちの姉ちゃんは美人だけれど、本気で顔しか長所がない。

 手先も勿論とびきり不器用。

 そんな姉の美容の為に、俺は毎朝弁当を作る。

 おかげで十人並の俺に、ひとつ、特技が身についた。




 可愛い女が好きで、

 アイドルグループが好きで、

 何よりも自分が大好きな、可愛い可愛い俺の姉ちゃん。

 リビングを占拠し女子のミニスカダンスを堪能していたおっさんみたいなその背中に、愛情を込めて一言。


「詐欺女」


 すると姉は底意地の悪い極上の笑顔で


「私は夢を売ってるの」


 かすかに残っていた俺の『夢』を、あっさりとぶっ壊した。



 そんな仕打ちに耐えながら、俺は明日も弁当を作る。

 起床時間は朝六時。作る弁当は、三つ。

 俺のと。姉ちゃん。そしてその姉ちゃんの、チャラい茶髪の彼氏の分。

 哀れな幸せ者である彼は、俺の愛情の篭った出汁巻きを。

 姉のいう「夢」の塊を、旨い旨いと喰らうのだ。


「ざまみろ」


 キレイに食い尽くされた弁当箱には、今日もくしゃくしゃのアルミホイルだけが転がっていた。

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短編小説詰。 @dflat1

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