1.5 新しい人生が始まった
以前の映画で見た山梨県庁のようなレトロな役所の入り口に恐る恐る向かう。こういう雰囲気がある建物っていうのは苦手だ。近づきにくい。
大きな窓ガラスが埋め込まれているけど、ガラスが外の景色を反射していて中を見ることができない。これも魔法でできているのだろうか。
中が見えなくて、不安がますます大きくなりながら、役所の入り口につく。大きな木のトビラだ。雰囲気がある。
入るためにはトビラを押す必要がある。押すとギィーときしむ音がなった。歴史あるのは分かるけど……。
外観が歴史あるように、中も歴史ある内装だった。洋式の階段が中央にあった。とっても目立つ。かっこいい怪盗が「お姫様はもらっていく」と言っているシーンが頭に浮かんだ。
階段のサイドには窓口対応のフロアなのか、各スペースのところに対応業務が書かれていた。多分、ここは普通に市役所みたいなところだ。県庁だとこういう住民対応の窓口スペースはないって聞くし。ということは、それなりに大きい市なのかもしれない。
とりあえず住民課というところに行くことにした。こういうのはどこの世界でも変わらないんだと思う。
「すいませーん」
窓口には誰もいなかった。
私が住んでいた市の役所は窓口スペースと業務スペースはつながっていて、役所に働いている人が丸見えだった。
けど、ここの役所は違って、窓口スペースと業務スペースが仕切られているから、中を見ることができなかった。だから窓口に誰もいないと、人がいるのかが分からなくなる。
「はーい。少々お待ちください―」
人が居てほっとする。
私は窓口の椅子で待つことにした。
「お待たせしました。今日のご用件は何でしょうか」
三十秒くらい待っていると、ショートカットのスラっとした女性が奥からきて、対面に座る。
「今日引っ越してきたんですが、いろいろ分からなくて……。それを聞きにきました」
「そうなんですね。ならまず住民登録とかの事務作業を済ませましょうか」
お姉さんはまた奥に戻っていった。必要な書類を取ってくるのだろう。
引っ越し恒例の事務作業だ。こういう役所でいろいろするのは就職して一人暮らしを始めた以来。あの時も親にいろいろ手伝ってもらったし……。一人でできるかが不安だ。
「お待たせしました。では早速していきましょうか」
私はお姉さんに言われたまま、署名が必要なところにサインをしていく。ただ、一番最初にサインをするとき、どうしようかと考えた。こっちでは外国のように先に名字を書くかもしれないと思ったからだ。
けど、名前を書く欄の上にサンプルが載っていて、思った通りに名字が先だった。ということで、日本での名前をそのままに書くことにした。
カオリ・ハマサキ
これが、これから私がこの世界で名乗る名前だ。語呂も悪くない。
カオリ・ハマサカと名前をカタカナでファーストネームを先に書いて、・をファーストネームとファミリーネームの間につけると外国人になった気がするのは私だけだろうか。
異世界に転生しました。第二の人生はにぎやかになりそうです。 広野ともき @sizen
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