1.3 新しい人生が始まった

 私は家から出て、目が覚めたときに遠くに見えた町に散策に行くことにした。遠くと言っても目測で1kmくらい。歩いていく分にはいい運動になる。神様はそこまで計算して家をくれたのだろうか。もしそうなら神様は計算ができる神様だ。

 とりあえず家の鍵をしめないといけない。鍵は玄関にかかっていた。こういうところは日本と同じなんだなと思った。

 道中。私の目の前にスライムが現れた。ど、どうしよう。


 ぴょーん。


 スライムは私に向かって体当たりをしてきた。けど、あんまり痛くない。断片的な知識しかないけどスライムは日本でも弱い扱いだったな。スライムに転生して最強生活をしていたものもあったけど。

 それにしてもスライムってかわいい。ぽよんぽよんとしていて愛らしい目。いつまでもじゃれあっていたくなる。愛玩動物かもしれない。正しくは愛玩魔物かもしれないけど。スライムに転生したくなる気持ちもわからなくない。かわいいは勝つ。

 でも、スライムってモンスターだから倒したほうがいいのかな、という至極当然な疑問が浮かぶ。本当にどうなんだろう。モンスターだから何か害があると考えてもおかしくはない。スライムが起こす害、スライムが起こす害……。葉野菜とかを溶かしていく?銅像を溶かしていく? 

 と考えていくと、溶かすわけではないけど、なんだかナメクジを思い出してしまった。あのヌメヌメした体。思い出すだけでなんだか気持ち悪い。そう思った瞬間、スライムが気持ち悪く感じた。


「やっ!」


 私はスライムに向かって思いっきりこぶしを向けた。そうしたらスライムは消えて、なにかの欠片を落とした。それを私は手にとってみる。透き通っている。宝石みたいだ。

 これをどうするか。私はとりあえずその欠片をポケットに入れて、早歩きで町に向かった。スライムに会いたくないからだ。よくわからない生態のものとは会いたくない。


 町の入り口付近まで来た。入口には祠が祀られていて、その祠をお世話している人がちょうどいた。タイミングが良かった。この人に少し聞いてみよう。


「すいませーん。あそこの丘の家に引っ越してきた者なんですけど、この町の紹介をしてくれるところってどこにありますか」


「あら。あそこに引っ越してきたのね。ここまで少し距離あるでしょ」


「少し歩きました。でも、空気が澄んでいて、歩いているのは気持ちよかったです」


「ならよかったわ。えっとね。この道をまっすぐ行ったら、大きな市場があると思うから、その市場の手前の道を右に行ったら役所があるわ」


「市場の手前で右ですね。教えていただいてありがとうございます」


「助けになったなら良かったわ。気をつけてね」


「はい。ありがとうございます」


 おばさんは心良く教えてくれた。いい人だった。祠をしっかりとお世話をしているあたり、心遣いができるいい人なんだと思う。とりあえず、この町を知るために役所に行こう。

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