第9話 「アルメリア」から来た男


■ 「アルメリア」から来た男(ロナルド)


 ――翌日。

 朝、「ポートラル国際空港」。

「待って! それアタシのよ!」

「ちがうアル! よく番号を見るヨロシ!」

「ちょっと! 押さないでよっ!」

「あっ! それオレの荷物! オレの荷物~!」

「お客様ー! “早い者勝ち”では御座いませんので落ち着いて下さ~い!」

 ――現在、ここの「手荷物受取所」にある「荷物受け取りターンテーブル(バゲージクレーム)」の周りには多くの人が集まっていた。

 彼らの目的は「飛行機に乗る際に預けていた荷物」の“回収”であり、彼らは荷物に取り付けられていた「タグ(番号)」を確認しながらに「ベルトコンベア」の上を流れて来た荷物に対して“我先に(われさきに)”と手を伸ばしては、“押し合いへし合い”しながらに“荷物の回収作業”を行なっていた。


 ――一方、そんな盛況な「荷物受け取りターンテーブル」の隣には、誰も居ない「荷物受け取りターンテーブル」が存在をしてみていては、けれどもその「ベルトコンベア」の上には一つの「大きなトランク」が“回収される事”も無いままに“回り続けて”みせていた。

 ――と、

「…………」

 “そんな状況”を見ていた一人の「空港職員」が、“次に到着する飛行機の邪魔にならないように”と考え遣ると、「大きなトランク」に対しては“手を差し伸ばして”みせていた。

「よっと!」

 ――「空港職員」は「大きなトランク」を取り遣ると、

『ゴトンッ!』

 と、“雑な感じ”にて、「床の上」へと置き遣った。

 ――すると、

「おいっ! そこの職員っ!」

「!?」

 と、「男の声」が“トイレの方”から聞こえて来ていた。

『(くるり……)』

 ――「空港職員」が“声の方”へと振り向くと、

『(ずーーーーん!)』

 と、そこには「高身長」&「筋肉質」の「黒いサングラス」を掛けた「外国人風の男」が立っており、男は――、

『(つか! つか! つか! つか!)』

 と、「空港職員」の方へと“近付く”と、「大きなトランク」を前にして“立ち止まって”みせていた。

「…………」

 この時「空港職員」は「この男がこの『大きなトランク』の持ち主であるのだろう」と考えた。

 そこで、「さっさと荷物を取らないと駄目じゃないか!」と言ってやろうとしてみたが、けれども男はそれより早くに「空港職員」へとこう言った。

「まったく……、駄目じゃないか。慎重に扱ってくれなくちゃ……!」

 ――対して「空港職員」は、

「いえいえ、しかしお客様、いつまでも荷物を放置されていては困ります……!」

 と、言い返し、“自分の非”を否定した。

 ――すると男は、

「ふうっ……!」

 と、「大きなトランク」に対しては、“屈んで”みせてはその後に、

『コンッ! コンッ!』

 と、“叩いて”は、それから“トランクに対して”話を掛けた。

「大丈夫か……? 気分が悪くなったりしてないか……?」

「?」

 それを見ていた「空港職員」は男に対して尋ねてみせた。

「あの……、いったい何をしてるんです……?」

「ん?」

 男は言った。

「ああ、すまない。――実はこのトランクの中には“私の友人”が入ってるんだ」

「!?」

 「空港職員」は驚き、尋ねた。

「ひっ、人が中に入ってるんですかっ!?」

「ああ、そうだ♪」

 そう言って後、男は言った。

「実はこのトランクの中には、『ロスカル=ゴーン』が入っているんだ♪」

「!!!!」

 ――勿論今のは「ジョーク(アルメリアジョーク)」である。

 最近あった「世界的なニュース」を元に、男が吐いた「冗談」だった。

 ――そして後、

「さて、行くか……」

 と、男はトランクを手にすると「空港職員」を残しては“歩き出して”みせていた。

 ――この男、「アルメリア(国)」からやって来た人物で、その名は『ロナルド』と、そう言った。

 彼は「IPPO(国際平和警察機構)」という名前の国際組織のエージェントであり、今回「十二国」へとやって来た目的は“テロドスを逮捕”する為だった。



■ 「シュウの出勤」と『テナンの民』の演説


『ブロロロロ~~』

 ――シュウは毎朝「職場」へと向かう際、「バス(公共交通機関)」にて通勤を行なっていた。

 それは(“現在シュウの車が修理に出されているから”が理由ではなく、)『ポートラル』が「環境問題」と“交通渋滞の緩和”の観点から「公共交通機関」の利用を“推奨している事”に因って(よって)いた。

『ブロロロロ~~』

「…………」

 シュウはバスの中にて座っていては“窓の外”を眺めてみていた。

 ――“窓の外”では朝の慌ただしさ(あわただしさ)に責っ付か(せっつか)れつつも人々の「平和な日常」が見えており、

「♪」

 シュウは“そんな人々の日常”を守る事が出来る「警察官」という仕事に対して、誇りを感じてみせていた。

 ――と、

『プシュ~……』

 バスが「停留所」である「大きな公園(ワキヤク公園)」へと停車をしては、一部の客が“乗り降り”をした。

 ――そして後、

『ブロロロロ~~』

 と、バスは走り始めてみるものの、その“前方”には「交差点」が存在してては、「信号機」は「赤」を示し遣り、

『プシュ~……』

 と、バスは再びに“停車”をしてみせていた。

 ――と、この時、

「?」

 シュウは“窓の外(大きな公園の敷地内)”を見ていたのだが、そこには「とある男」が立っており、「拡声器」を手にしては“(赤)信号待ち”の「者ら(車や通行人を含む)」に対して「演説」をしてみせていた。

 ――男は言った。

「――つまり、この国の現状を救うには“現政権を倒すしかない”のです!」

 ――男の名前は「シンジロー」と言い、「十二国」に対して“民主化”を求める『テナンの民』の一員だった。

 男は卑劣(ひれつ)にも「赤信号」により“身動きの取れない者ら”に対して、“一方的に”こう言った。

「――皆さんは“この国が豊かになった”と言いますが、けれどもその認識は間違いです! この国の今の『豊かさ』は“借金をして作られたマヤカシの豊かさ”であるのです! “未来の負債”と引き換えに“今を得ているだけ”なのです! このままでは“今の時代の代償”を子供たちや孫世代に“支払わせる事”になるのです! 皆さんはそれで良いんですかっ!? 親の時代の借金を子供や孫らに払わせる! そんな国で良いんですかっ!?」

「――いいや、ならない! あってはならない! 許してはならない事なのです!! ――ですが、この国は“その真実”を国民に対して隠しています! この国は“この国が豊かである”と自称して、“見栄を張りたい”が為だけに“借金を拵えている(こさえている)”のです!」

「――では何故“そのような事”が罷り(まかり)通ってしまうのか? それはこの国が“独裁国家であるから”です! この国は情報統制を行なって、言論弾圧を行なって、民を家畜化しているからですっ! この事実は世界中の誰もが知っています!」

「――だから皆さん、私と一緒に“独裁政治”を終わらせませんか? 皇帝クマープを打倒して、“民主主義国家”を目指しませんか?」

「――世界中の『安定している国々』は、『尊敬されている国々』は、全てが『民主主義国家』であるのです! この国のように“文書の書き換え”や、“情報の隠蔽(いんぺい)”を行なわない! 説明責任をきちんと果たす! 偉い人に対して忖度(そんたく)しない! それが国として“当たり前の事”なのです! それでこそ『先進国』と言えるのです!」

「――私はこの国の事を愛しています! そして、この国を――! 皆さんを――! “豊かにしたい”と思っています!」

「――だから是非(ぜひ)とも御願いです! 一度我々『テナンの民』に“この国の舵取り(かじとり)”を任せて下さい! そうすればボクは結果を出します! 必ず結果を出してみせます! そして皆さんは“ボクの言っていた事が正しかった”と実感出来るハズなんです!」

「――ボクは必ず成功します! やり遂げられると信じています! だから皆さん、信じて下さい! 我々の事を信じて下さい!」

「――『勇気』無くして『変革』は無しっ! 今こそ皆で勇気を出して『クマープ政権』を倒しましょう!」

「――国民の手による国民の為の政策をっ! 子供や孫に対して誇れるような! 『素晴らしい国家』の実現を! 『民主主義』による栄光と、そして発展を、皆で享受(きょうじゅ)しようじゃありませんかっ!!」

 ――それは“信号待ちの時間”よりも長い長い「演説」だった。

 ――なので、

『ブロロロロ~~』

 と、バスは「演説」の“途中”にて出発(発車)をしてみていては、シュウは最後まで「演説」を聞き遣る事は無いでいた。

 ――そして今、

『(むすっ……!)』

 と、シュウは“不機嫌な顔”をしながらに“窓の外”を眺めてみていた。

 ――ちなみにシュウが“不機嫌である”そのワケは、「次の理由」に因っていた(よっていた)。

 ――『十二国』は元々は「12の国と地域」に分かれていては、それらが“統一”をしたその結果、“今の形”となっていた。

 モチロン“統一までの道のり”は平坦なものでは無かったし、“紆余曲折(うよきょくせつ)”も有りはした。

 現在でも“不仲な地域同士”というのも存在をしているし、国に対して“何の不満も無い”というワケでも無いでいた。

 ――だがしかし、それでも“今”は「統一された国」なのだ。

 “色んな事があった”その上での、“今の形”であるのである。

 ――だからシュウは思っていた。

 もしも「この国のあり方」を“本気で変えたい”と言うのなら、“正攻法で行くべきである”――と。

 まずは選挙への「出馬資格」を獲得し、「選挙権」を持った人達からの“支持”を受け、「下院」から「上院」へと“ポスト(立場)”を上げて、“頂点を目指すべきである”――と。

 そして、「頂点」――つまりは『十二国皇帝』に成ったその上で、国民に対して「判断」を問い、皆が望むと言うのなら“民主主義国家へと移行をするべきである”――と、そういう風に考えていた。

 ――けれども彼ら『テナンの民』は、選挙の「出馬資格」すら獲得しようとはしないのだ。

 彼らは唯々(ただただ)“ゲリラ的に色んな場所へと出没”しては“国に対してのネガティブな発言をするだけ”だった。

 ――だからシュウは“彼らの事”が――『テナンの民』の連中が「とっても嫌い」であったのだ。




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