第8話 夜、「ステーキハウス」にて(テロドス)


■ 夜、「ステーキハウス」にて(テロドス)


『『『ガヤガヤガヤ……』』』

『『『ガヤガヤガヤ……』』』

 ――夜。

 「世界の車両展」を世界各地にて開催しているイベント会社「テナンカンパニー」のメンバー(計36名)は、「ポートラル中心市街地」にある「とあるステーキハウス(店名はカニミソ)」へとやって来ていた。

 今日が『ポートラル』での「(世界の車両展の)イベント最終日」という事もあり、皆は席へと座っていては(食事の前の乾杯をする前に)色んな話をしてみせていた。

 ――そんな時、その場に「とある人物」が現れてみていては、

『『『ざわっ……』』』

 と、皆は“そちらの方”へと目を遣って、程なく静かになった。

「…………」

 ――そこには「十二国の伝統服」を身に纏った(まとった)「白髪+長い三つ編み髪」の「初老の男」が立っていた。

 男の名前は「ユエ」と言い、「世界の車両展」を開催している「テナンカンパニー」の社長であった。

 ――と、ユエは皆に対してこう言った。

「皆、楽しんでいる所をスマナイね。食事を始めるその前に、紹介をしたい人物がいる……」

「「「…………」」」

 言われて皆は緊張をした。

 そして、ユエは“離れた所”に立っていた「肌黒男」の事を招いてみせた。

『『『ざわっ!』』』

 ――一瞬、「場」が騒ついた(ざわついた)。

 皆の前へと現れたのは「テロドス(ロードス=ランド)」という名の男であった。

 彼は今、「スーツ姿」ではあるものの、本日“シュウとともに「戦車」の事を追い掛けた「肌黒男」”と“同一の人物”だった。

 彼は「スポーツカー」とともに“海へと落ちてしまった”のだが、その後“なんやかんや”があって後、どうにか「テナンカンパニー」のメンバーと合流する事が出来ていた。

 ――「肌黒男」は皆へと言った。

「テロドスだ。ヨロシク……」

「「「――!」」」

 言われて皆、驚いた。

 ――いや、“分かっていた”が驚いた。

 あの「(一部で)有名な人物」が“目の前に居る事”に興奮をした。

「(あれがテロドス……! テロドスなのか……!)」

「(『大九龍(ダイクーロン)爆破事件』の犯人……! いや、英雄か……?)」

「(だが……、“前に見た写真”とは随分印象が違って見えるぞ?)」

「(知らないのか? アイツは何度も整形手術を重ねているから、原形を留め(とどめ)ちゃいないんだ!)」

 ――皆、心々(こころごころ)に思ったり、“ヒソヒソ話”をしてみては、“色んな確認”をしてみせていた。

 ――と、テロドスは言った。

「……以上だ」

「「「!?」」」

 随分(ずいぶん)と短い「自己紹介」だった。

 そこでユエは尋ねてみせた。

「テロドス君……、もう良いのかい?」

「ああ、もう充分だ……」

 この時テロドスは「さっさと御暇(おいとま)したいぜ」と言った顔をしている様に見えていた。

 そこでユエは皆に対してこう言った。

「それじゃあ皆、今夜は遠慮なくやってくれ。好きな料理を食べ放題だっ!」

『『『わーーーーーーっ!!!』』』

 突如、「場」は沸き立った。

 そして、「テナンカンパニー」の社員(メンバー)が言った。

「ありがとう御座いますユエ社長!」

「社長っ! イベントお疲れ様でしたっ!」

「「「お疲れ様でしたーーーーっ!!」」」

 言われてユエは「ニコリ♪」と微笑んでみせ遣ると、次いではテロドス(とヴィーシャ)の事を伴って(ともなって)、皆の前から姿を消した。

 ――そんな中、

『(じ~~っ)』

 と、「ムーン(筋肉質の大男)」は“不満な顔”をしてみせていた。

 彼はユエの事を「オジキ」と慕って(したって)いたのだが、そんなユエに対しての“テロドスの態度”が“不遜(ふそん)に見えていた”からだ。



■ 「VIPルーム」にて


 ――「ステーキハウス」での食事会が始まってから一時間ほどが経過をした頃、「VIPルーム」にて食事をしていた「テロドス(肌黒男)」「ヴィーシャ(黒豹女)」「ユエ(白髪ロングの三つ編み初老男)」の三人は食事を終えてみせていた。

 そんな中、ユエはテロドスに対して尋ねてみせた。

「テロドス君、この店の料理はどうだったかね?」

「ん? ああ……、悪くなかったよ。不思議と“本物の肉”の味がした……」

「ハハッ! 面白い事を言うじゃあないか♪」

 ご機嫌にユエはこう言った。

「テロドス君! 今は昔と違ってね、『十二国』は“本物に溢れた(あふれた)国”なんだ。――キミが“この国に居た頃”と違ってね、今では“豊か”になっている♪」

「ふ~ん……、そーなんだ……」

 テロドスは退屈そうに返事した。

 ――そして店内に対して目を遣ると、

『(キラキラ! ピカピカ!)』

 と、店内には「高級そうな金色のピカピカの物体」や「ハデハデな何か」を見付ける事が出来ていて、確かに“お金持ちっぽく”見えていた。

 ――と、ユエは言った。

「だがね……、“豊かになった”と言ってもね、“その代償”としてこの国は“大きく歪んで(ゆがんで)”しまったよ……。――“あの事件”から何も改善はしていない。むしろ今が“最悪である”のかもしれない……」

「…………」

 ――と、ユエは茶を一口飲んで後、テロドスに対して尋ね遣る。

「――ところでテロドス君、“皆の訓練の様子”は見てくれたかな?」

『(すっ――)』

 ――言われてテロドスは一度“両目を閉じて”みせて後、それから“開いて”みては、ユエへと言った。

「『訓練中の動画』を見させて貰ったが、“思ったよりも良くやれている”というのがオレから見た感想だ……。これなら“先方”も『合格だ』と言うだろう……」

「ほほう……。それでは“好意的に解釈”しても良いのかね?」

「ああ、それで問題ない。“第一の関門はクリアした”って所だな……。――だが、“人間性”に関しては“これから見ていく”事になる……」

「ふむ……、“人間性”か……」

 言われてユエは自身のアゴを指でさすってみせていた……。

 ――ユエ達「テナンカンパニー」のメンバー(社員)には『大きな夢』が存在していた。

 それは“会社を大きくする”だとか、“世界中の人々へと色んな車を紹介して回る”だとかの『夢』ではない。

 彼らは『テナンの民』と呼ばれる存在で、彼らの『夢』は「この国(十二国)」を“民主主義国家にする事”だった。

 ――と、ユエは言った。

「テロドス君と出会って一年か……。長かった……」

「そんなもんか?」

「ん?」

「いや、アンタが経験をした“あの日”から既に二十数年経っている……。それに比べたら“一年”なんて“短い期間”であるだろう?」

「はははっ! 確かに……! 言われてみると、その通りだ……♪」

 ユエは満足気に笑ってみせた。

 ――現在、帝政を敷いている「十二国」では“民主化運動を行なう事”は“とても難しい事”だった。

 けれども、今から“一年くらい前”のある日の事、『アルメリア国』を訪れていたユエの元へと『とある人物』が現れた。

 ――『その人物』は世界的に有名な大企業である「カプコニウム社」の人間で、「十二国の民主化に協力したい」と言って来た。

 「カプコニウム社」は表向きは“善良な企業”ではあるものの、その裏では“様々な兵器を全世界へと販売”している「死の商人」をやっていた。

 そして『その人物』が言うには、「『新型兵器』を供与する用意があるが、それに相応しい(ふさわしい)かテストをさせてくれ」との事だった。

 ――後日、ユエはテロドスの事を紹介されて、テロドスが“合否判定を行なう人物である”と告げられた。

 そしてそれ以降、ユエ達「テナンカンパニー」のメンバーは「テロドスの審査」に合格する為に“『新型兵器』の訓練”を続けてみせていたのであった。

 ――――――

 ――――

 ――と、

『トン! トン!』

「「「?」」」

 「VIPルーム」のドアが“外からノック”をされていては、テロドス達は「ドア」を見た。

 ――すると、ドアの外から、

「フォウです……」

 と、“女の声”が聞こえて来ていた。

 ユエは言った。

「開けたまえ」

「失礼します……」

『ガチャッ……』

 ――開けられた“ドアの先”には「オレンジ色の髪の毛」をした「フォウ」という女が立っていた。

 そして、フォウはユエへと言った。

「社長、そろそろ“約束の御時間”です」

「うむ、もうそんな時間か……」

 ユエは一度「腕時計」を見てみせた。

 そして、テロドスに対してこう言った。

「すまないね、テロドス君。私はこれから『世界の車両展』のスポンサーの方々の“相手をせねばならぬ”のだ……。――私はこれから立ち去るが、キミ達はこのまま食事を続けて――」

 ――と、

『(――すっ!)』

「?」

 テロドスは“片手を挙げて”みていては、ユエの言葉を制止した。

 ――そして後、

「いよっ……と!」

 と、立ち上がってみていては、ユエへとこう言い遣った。

「それじゃあオレ達もまた、“このまま失礼”するとしよう……」

 対してユエは“少し困った”といった顔をしては、テロドスへと尋ね遣る。

「……もしかして、気に障って(さわって)しまったのかね……?」

「いや、気にしないでくれ。アンタの持て成し(もてなし)は十二分(じゅうにぶん)に堪能(たんのう)したよ……」

 テロドスは、そう言うと――、

『(ぐいっ!)』

「!」

 と、「ヴィーシャの体」を“抱き寄せて”みせて後、

「だから今度は彼女の事を――持て成してやらないとな♪」

 と、言い遣った。

「「!」」

 言われてユエとフォウは「言葉の意味」の理解をしては、「あらま!」といった顔をした。

「ハッハッハッハッハッ! “若い”というのは実に良いものだなっ!」

 ユエは笑ってみせていた。

 ――そして後、

『(すっ!)』

 と、ユエはテロドスに対して“別れの握手”を求めては、

「テロドス君、今夜は実に楽しい夜だった。そして出来る事ならば“この続き”を――『三日後の夜』にやりたいものだ♪」

 と、言ってみた。

 ――対してテロドスは「フッ!」と笑ってみせて後、

「そうなる事を、願っているよ……!」

 と、握手を返してみせていた。



■ 「ステーキハウス」の出入り口にて


 ――少しして。

 現在テロドスとヴィーシャの二人は「ステーキハウス」の出入り口へとやって来ていた。

 そしてそこには「ムーン(筋肉質の大男)」と「ジーン(メガネ男)」が立っており、二人の事を“見送り”に来てくれていた。

 ――と、ムーンがテロドスへと尋ね遣る。

「これからホテルに戻るのか?」

「ああ、少し散歩をした、その後でな……」

 次いでジーンが尋ね遣る。

「キミ達にボディーガードは必要無いのかい?」

「そうだな……」

 ――言われてテロドスは“ヴィーシャの方”へと目を遣ると、

『(ペコリ……)』

 と、ヴィーシャは“一礼”してはその後に、

『(ジャキンッ!)』

 と、何処からともなく「大口径の拳銃(リボルバー)」を取り出してみせてくれていた。

「「…………」」

 ムーンとジーンは“沈黙”をした。

 対してテロドスは二人に言った。

「――ま、“そういうワケ”だから、二日後にまた会うとしよう……」

 ――テロドスの予定では、明日は「ユエ達の支援者(カプコニウム社のメンバー)」と極秘に会う事になっており、そして二日後に「テナンカンパニー」のメンバーと再会する事になっていた。

「それじゃあな……」

 テロドスは“片手を上げて”はそう言うと、ヴィーシャとともに二人の前から歩き去ってみせてくれていた……。

「「…………」」

 ……ムーンとジーンは少しの間、テロドス達の“後ろ姿”を見送っていた。

 ――そして後、ジーンがムーンへとこう言った。

「ムーン、どうやらキミは『Mr.テロドス』の事が“気に入らない”みたいだね?」

「ああ。アイツはオレのオジキ(ユエ)に対し、“生意気な態度”を取ってたからな……!」

 ムーンのその言葉には「力み(りきみ)」が溢れて(あふれて)みせていた。

 対して、ジーンはこう言った。

「けれども彼はユエ社長の『とても大事な客人』だ……。だから今はまだ彼の“好きなよう”に、させて置こう……」

「…………」

「なぁ~に、例の『起動キー』を手に入れるまでの辛抱(しんぼう)さ♪ そうなりゃ彼は“御役御免(おやくごめん)”さ!」

「――フッ! そうだったな……! オレ達の目的を果たすまで、アイツは『大事な客人』だ……!」

「ああ、その通りだ♪」

 ジーンは微笑んで(ほほえんで)みせていた。

 ――と、

『(フルフルフル……)』

 ムーンは頭を左右に振って後、こう言った。

「イケネェな……。酒のせいか、ついつい先走ろうとしてしまう……。悪いクセだ……!」

「確かにキミは“単純なヤツ”ではあるけれど、“バカ野郎”ってワケじゃあ無い」

「ん?」

「“理性がある”って、そういう意味だ♪」

「ハハハ……。そう言って貰えると助かるぜ……♪」

 ムーンは笑ってみせていた。

 ――と、その直後、

『(だきっ!)』

「おっと?」

 ムーンはジーンへと“肩を組んで”みせ遣ると、

「よおしっ! 飲もう! 気分転換だっ!」

 と、そう言った。

 ――対しては、

「ああ、そうしよう……♪」

 と、ジーンは言うと、二人は「ステーキハウス」の中へと戻って行って、「宴会」を続けてみせていた……。



■ ポートラルの中心市街地にて(テロドス)


『『『ガヤガヤガヤ……』』』

『『『ガヤガヤガヤ……』』』

『『『ガヤガヤガヤ……』』』

 ――「ステーキハウス」を後にしたテロドスとヴィーシャは少しの間、“歩いてみせて”くれていた。

 そこは「テナントビル」が犇めき(ひしめき)合っては怪しいネオンがドギツく光り、道路の脇には「チープな露天」が並んでいては、人で賑わって(にぎわって)いるような場所だった。

『カツ、カツ、カツ、カツ、カツ……』

 ――暫く(しばらく)テロドス達は歩いていると、やがては「大通り」へと至り遣り、テロドスは交差点にて足を止めると、「赤信号」を前にして「ボ~っ」と待ち惚け(ぼうけ)をしてみせた。

 そんな時、近くに居た若者二人が“会話をしている”のが聞こえて来ていた。

「お、見ろよ! ま~たシュウの奴が何かやってんぜ!」

「うっわ、マジじゃ~ん。アイツいっつも何かの事件に巻き込まれてンな~」

「!?」

 ――テロドスは「シュウ」という名前に反応をした。

 そして“状況の確認”をしてみると、交差点の“上の方”には「大きなディスプレイ」が存在をしてみていては、

『本日、特別警察のシュウさんが戦車の暴走事件を解決しました……』

 との内容の「ニュースの映像」が流れている事に気が付いた。

 そこで早速(さっそく)テロドスは、二人に対して話を掛けた。

「オイ、お前らっ!」

「ん?」

「あ~? 何っスかぁ~……?」

 若者はテロドスが「スーツ姿のオジサン」であった為に、“侮り(あなどり)”を持っては対応をした。

 ――対しては、

『(ジャキッ!)』

「ヒッ!?」

「ちょっ、ちょっと!? 冗談でしょ!?」

 ヴィーシャは口径のデカい「弾倉回転式連発拳銃(リボルバー)」の銃口を二人に対して向けていた。

「ま、待って! 何なのっ!?」

「えっ!? 何!? どういう事っ!?」

 二人の若者は動揺しながらに“両手を上げて”は「降参」をした。

 するとテロドスは二人に対して問い遣った

「――今テレビに出ているアイツは“ココらじゃ有名なヤツ”なのか?」

「え? ええ! あ、はいっ! シュウの事ですね? モチロンですっ! なぁ!?」

「え!? う、うんっ! 間違いなくポートラルでは有名なヤツですよ! ハイっ!」

「…………」

 ――言われてテロドスは、

「そうか……」

 と、言って後、二人の若者から目を逸らし(そらし)ては、「大きなディスプレイ」へと目を遣った。

 ――対しては、

『(すっ……)』

 と、ヴィーシャは二人の若者に向けていた「拳銃」を仕舞ってみせてくれていた。

 ――直後、

「(オイ! 行こうぜっ!!)」

「(あ、ああっ!!)」

 と、二人の若者は駆け足で“その場”を後にしてみせた。

『『『ざわざわ……』』』

 ――少しの間、テロドスの周囲では“騒つき(ざわつき)”が発生をしてみせた。

 けれどもテロドスはその間も尚(なお)、「ニュースの映像」を眺めてみせた。

「…………」

 この時テロドスは「シュウが(戦車の暴走)事件を解決出来た事」に関しては“何よりだ”と思ってみせた。

 ――けれども、ニュースでは「テロドス(ロードス)」や「スポーツカー」に関しての情報は一切無く、(これはテロドスの知らない事ではあったのだけれども)『チシュー』の存在に関しても“触れられる事”は無いでいた。

 そしてテロドスは“触れられなかった事”に関しては、「違和感」を覚えて(おぼえて)みせていた……。




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