第5話 クイーンオーダー


■ クイーンオーダー


『プルルルル……!』

 ――「テロドス(ロードス)」が海へと落ちていた丁度(ちょうど)その頃、「シャンシャン」にある『十二国特殊部隊シャンシャン司令室』には一本の電話が入って来ていた。

 オペレーターは電話に出ると、次いで(ついで)上官の「オワタ」に対してこう言った。

「オワタ隊長、オワタ隊長宛(あて)にお電話です」

「ん? オレは今『キンペイ』には居ないんだぞ……? 出先(でさき)のオレに連絡か?」

「はい」

 ――オワタは「チョビヒゲ+頬痩け(ほほこけ)」の「狐っぽい顔」をした「中年男(オジサン)」で、『十二国』皇帝『クマープ』直下の「特殊部隊」のリーダーだった。

 オワタは気怠そう(けだるそう)に尋ねてみせた。

「で? 何処のどいつがオレに何の用だ?(誰がオレを名指しした?)」

「これは『クイーンオーダー』です」

「何っ!?」

 言われてオワタは驚いた。

「繋げっ! 急いでやれっ!!」

「は、はいっ!」

 オワタは口早にオペレーターへと命令すると、次いで受話器を取って後、「相手」に対してこう言った。

「はいっ! コチラ特殊部隊隊長のオワタです! いったい何の御用でしょうか?」

 すると、「電話の相手」は“ボイスチェンジャーの使用”をしてはオワタに対してこう言った。

「今……、そちらに対して一台の『戦車』が向かって来ているのは知っていますか?」

「ええ、モチロン……。状況の把握は出来ています……!」

 そう言いながらにオワタが“手振り”をすると、スタッフ達は即座に応じ、司令室にある「巨大なディスプレイ」へと“関連情報”を示してみせた。

 すると、“相手”は言った。

「――それでは今から『チシュー』を現場に派遣して、『戦車』の迎撃をして下さい」

「『チシュー』をですか!?」

「ええ。今回のオーダーは『チシュー』の“運用実験”も兼ねています……。――それと、“人が死なない”ように努めて下さい……」

「……了解、しました!」

 オワタは与えられた「オーダー」を恭しく(うやうやしく)に承った(うけたまわった)。

『――ピッ!』

 ――そして、“相手”が電話を切ってみせて後、通話を終えてみせ遣ると、オワタは受話器を置いては皆へと言った。

「傾聴(けいちょう)せよ! これは『クイーンオーダー』である! ――現在、一台の戦車が『梯大橋(かけはし大橋)』を渡りながらに、ここ『シャンシャン』に対して向かって来ている! 今スグ『八脚式特殊戦車』である『チシュー』を起動して、戦車の事を迎え撃てっ!!」



■ 八脚式特殊戦車「チシュー」


 ――『十二国』南東部に存在している「シャンシャン」は『十二国』屈指の大都市である。

 古代より交通の要所として栄えて来たこの町は、今もなおその役割を同じとしては、「高速道路」と「高速鉄道」が「十二国全土」へと延びていた。

 そしてまた、ここには幾つかの列車用の「車両基地(倉庫)」が存在をしているのだが、その内の一つである「特殊部隊専用車両基地」は今、“慌しさ(あわただしさ)”に包まれていた。


『ウーン! ウーン! ウーン! ウーン!』

 ――「特殊部隊専用車両基地」は“地下”に在り、現在そこでは黄色い「回転灯」が回っていては、サイレンが五月蝿く(うるさく)鳴り響いてみせていた。

 そんな中、「SMの女王」みたいな格好をした「女(倉庫長)」が「拡声器」を手にしては皆に対して呼び掛けた。

「オラオラオラ! さっさとしろっ! 休憩はもう御仕舞いだっ!」

 ――すると、現地にいたスタッフ達は興じていた(きょうじていた)麻雀卓をそのままに、

『『『バタバタバタバタバタバタバタバタ!』』』

 と、急いで持ち場へと向かって行った。

 女は言った。

「そこのお前っ! 安全帽はキチンと被れ(かぶれ)っ! 身形(みなり)も仕事の一部だぞっ!」

「はいっ!」

 続けて言った。

「オペレーター!」

「はいっ!」

「交通局と鉄道局への連絡は済んだのか!?」

「今からですっ!」

「線路の切り替え作業も忘れるなっ! 良いなっ!」

「はいっ!」

 女は言った。

「皆、よく聞けっ! これは地下鉄網を使っての『チシュー』の運用実験である! ――そしてこれは『十二国』の力を内外へと示す“秘密の機会でもある”と知れっ! 分かったなっ!」

「「「はいっ!」」」

 言われて皆は返事した。

 ――『チシュー』とは、本体上部に「砲」を持つ「八脚式」の『特殊戦車』の事である。

 この戦車、『十二国』が独自開発をしたものであり、「八本脚」であるが故、「蜘蛛(クモ)」より『チ・シュー』と名が付けられていた。

 ――――――

 ――――

 ――

『『『バタバタバタバタ……!』』』

 ――と、『チシュー』の「パイロットの3名(運転手&砲撃手&戦車長兼通信手)」が「車両倉庫」へとやって来た。

 現在『チシュー』は「車両倉庫」の中にあり、「運転手」が真っ先に『チシュー』の中へと乗り込むと、「起動キー」を差し込んでみて後、回してみせた。

『ピピピピピピピピピ……!』

 ――すると、『チシュー』は起動をしていてみていては、コックピット内の計器が明るく光り、

「チシュー、起動完了! 計器に異状はありませんっ!」

 と、「運転手」は言い遣った。

 ――対して「倉庫長」が「無線機」経由で、

「それでは台車の上へと移動をさせろっ!」

「はっ!」

 と、指示を出し、言われて「運転手」は、

『ウィーーン、ゴォゥン……。ウィーーン、ゴォゥン……。ウィーーン、ゴォゥン……』

 と、『チシュー』の「八本脚(足)」を動かしてみては「台車」の上へと移動をさせた。

 ――ちなみにこの「台車」と呼ばれている存在は、倉庫内にある「2本の線路」を“跨ぐ(またぐ)形”にて存在しており、車輪を伴っていてみていては、“自走可能”なシロモノだった。

 ――そして「運転手」は(遠隔操作で)「台車」の操作を行うと、

『ガゴンッ! ガゴンッ!』

 と、『チシュー』の脚部に対しては「拘束装置」を取り付けていた。

 そして、言った。

「脚部固定、完了しました!」

「よしっ! オペレーター!」

「はいっ! こちらオペレーター! 交通局と鉄道局への承認完了しました! 倉庫長、いつでも出撃OKです!」

 「倉庫長」は言った。

「台車を本線へと移動させろっ!」

「はっ!」

 言われて「運転手」は「台車」の操作を行うと、「台車」は“『チシュー』を載せた格好”で倉庫を出ては、「地下鉄道(本線)」へと向かって行った。

 「倉庫長」は言った。

「分岐器、切り替えっ!」

「分岐器切り換え作業、行ないますっ!」

『ガコッ!』

 言われて「分岐器」は動いては、やがては「台車」が本線に対して合流をした。

 ――そして後、

『ウーン! ウーン! ウーン! ウーン!』

 と、未だにサイレンの鳴る中でオペレーターは報告をした。

「全工程準備完了! いつでも射出可能ですっ!」

「よしっ……!」

 ――と、

『(バッ!)』

 「倉庫長」は“ポーズをキメて”みせて後、出撃命令を出していた。

「チシュー、発進!」

「チシュー、発進しますっ!!」

 ――直後、

『ガッ!』

 と、音を立てては、「台車(自走可能)」が推進装置の起動をさせると、

『ゴオオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!』

 と、“物凄い速さ”にて加速(射出)をされては「レール(線路)」の上を爆走し遣ってみせていた。



■ 「戦車」の上にて


 ――一方その頃、

「よっ……! よっ……!」

 と、シュウは「戦車の屋根の上」を“前へ”と向かって這って(はって)いた。

 ――そして、“前方部”へと辿り着いてみせ遣ると、

「よっと!」

 と、「フロントガラス」に対しては“上から”顔を出していた。

 ――すると、

「NOOOOOOOOOっ!!?」

 と、シノビンは凄く驚いて、ハンドルを右に左に動かした。

 ――対してシュウは、

「あっ!」

 と、不意に「戦車」から“手”を離してしまっては、

「わわわわわ! わわわわわわわ……!!?」

 と、「屋根の上」を『ガラン! ゴロン!』と転がった。

 ――だけれども、

「くっ……!」

『(ガシッ!)』

 と、シュウは運良く「出っ張り(でっぱり)」に対して指を引っ掛ける事が出来てては、

「はあっ……! はあっ……! はあっ……! はあっ……!」

 どうにか「戦車」から“落ちやる事”を免れ(まぬがれ)ていた。

 ――一方シノビンは、

「むぅ~~~~っ!」

 と、“不機嫌な顔”を浮かべていた。

 ――そして、そんな彼女に対しては「動画(生配信)」の視聴者達は、

『シノビンさん、営業スマイルをお忘れですよ?』

『顔がヘンなの超ウケる!』

『ぶっさ! コミュ抜けるわ!』

『おいおい、シノビンはどんな時でもカワイイだろぉ~?』

『なお、本人の性格は考えないものとする!』

『記念にスクショしたったわ☆』

 と、コメントを寄せてみせていた。

 ――その一方で、

『今のってシュウじゃね?』

『は? 今のオッサンってシュウだったの!?』

『オッサン禁止な! これ、常識!』

『特別警察のシュウとか、マジウケるwww!』

『あ~あ、シノビン、捕まっちゃうのか……』

『オサラバでゴザル~☆』

『さよならシノビン。今までの配信楽しかったよ……。無課金だけど♪』

 と、コメントを寄せてみせて来た。

 ――そして、そんなコメントを見てシノビンは、

「不愉快デース!」

 と、イライラを募らせ(つのらせ)遣ってみせていた。



■ 『チシュー』出現


 ――場面変わって「シャンシャン」側。

『ウーン! ウーン! ウーン! ウーン!』

 「シャンシャン」側にある「梯大橋(かけはし大橋)」のたもとにある「とある大きな交差点」では、(近くのスピーカーから)「サイレン」とともに「音声」が流れ出していてみせていた。

『――皆様、『十二国特殊部隊』からの案内です。全ての車両は直ちに速度を落としては、“停車をするよう”お願いします。今からここら一帯は“強制的に封鎖”をされます。――繰り返し皆様方へとお伝えします。『十二国特殊部隊』からの案内です。全ての車両は直ちに速度を落としては、“停車をするよう”お願いします。今からここら一帯は“強制的に封鎖”をされます。なお、この警告を無視した場合に発生をした損害は、国が後日に請求をする事になっています。ご注意下さい。――繰り返し皆様方へとお伝えします。こちら『十二国特殊部隊』です。今からここら一帯は……』

 ――けれども、

「「「???」」」

 「とある大きな交差点」付近に居た多くの一般市民にとっては“何の事だか”分からなかった。

 皆々は一瞬“騒つき(ざわつき)”はしたものの、しかしは殆ど(ほとんど)“気にする様子”もなく、“普段通りの日常”を続けみせてくれていた。

 ――対しては、「何度目かの警告」の後、『十二国特殊部隊』は“宣言通り”に“行動を起こして”みせていた。

 ――突如、

『『『ジャキンッ!』』』

 と、「とある交差点」へと差し掛かる“地面”からは「進入禁止用のポール」が数十本、列を成しては一斉に“飛び出して”みせ遣ると、

「!?」

 と、“交差点へと進入しよう”としていた「一人のドライバー」が異変に気付いては、

『キキィーーーーーーーーーッ!!!』

 と、急ぎブレーキを踏み遣るも、

『ドンッ!!』

 と、「車」は「進入禁止用のポール」へと衝突しては、

『(ぐるん……! ぐるん……!)』

 と、その車体は“宙を舞って”はその後に、

『ガシャン!!!』

 と、地面に対しては“叩き付けられていて”みせていた。

 ――同時刻、

『ガシャンッ!』

『ドンッ!』

『プップー!!』

『ピピーーーーッ!!』

『ドンッ!』

『キキィーーーーッ!!』

『ドンッ!』

『ドゴンッ!』

『ガシャンッ!』

 と、「他」にも“同じような車(ドライバー)”が存在をしてみていては、「とある大きな交差点」では次々と“衝突事故(「進入禁止用のポール」への衝突もしくは、それに伴う玉突き事故)”が発生をしてみせていた。

『『『ざわざわざわざわ……』』』

 さすがに人々は立ち止まり、「(いったい何が起きたのだろう?)」と状況の把握に努めてみせた。

 ――するとそんな中、

『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!』

 と、“誰も居なくなった(?)”「大きな交差点」の内側から「警報音」が鳴り出していて、人々が「大きな交差点」に対してはその目を向けてみせ遣ると、

『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!』

『ウィイイイイイイ……』

 と、「警報音」に混じっては「機械的な音」が聞こえて来ており、

『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!』

『ウィイイイイイイイイン……』

 と、「大きな交差点」の「中央部分の地面」が(横へとスライドする形にて)“開いて”くれてみていては、

『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!』

『ウィイイイ…………』

 と、「大きな交差点」の中央には「大きな穴(下には地下鉄道が存在している)」が出現をしてみせていた。

『ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!』

 ――けれども「警報音」は未だに続いてみせており、

『ウゥウウウウウウウウウウウウウ……』

 と、今度は地下から「何か」が地上へと“迫り(せり)上がって来て”みていては、

『ガシューーーンッ!!』

 と、「『チシュー』を載せた台車」が一台、姿を現し遣ってみせていた。

『ざわざわざわ……』

 ――「警報音」の消えた中、

「なっ、何だアレっ!?」

「かっ、カッコイイー!」

「映画の撮影か何かか……!?」

 と、人々は『チシュー』の姿を見てみては感想をクチにしてみせた。

 ――その直後、

『ガゴンッ! ガゴンッ!』

 と、『チシュー』は足(脚部)を固定していた「拘束装置」を外してみせ遣ると、

『ウイーーーン……、ドンッ! ウイーーーーン……、ドンッ!』

 と、その「八つ脚」を“少し開いて”みていては、“どっしり”と構えてみせていた。

 ――そして後、

『ブゥーーーーーーン!』

 と、『チシュー』は車体に“備え付けられている”「空中ドローン」を空へと向けては飛ばしてみせると、

『ブルブルブルブル……』

 と、「空中ドローン」は「梯大橋」へと目を遣って、

『(ズーーーーム!)』

 と、望遠レンズを駆使してはシノビンが運転している「戦車」の姿を確認すると、

『ピピッ!』

 と、『チシュー』に対しては電波を送り、“「戦車」の位置”を伝えてみせていた。

 ――対して『チシュー』は、

『ウイーーーン……、ドンッ! ウイーーーーン……、ドンッ!』

 と、その「八つ脚」を使っては体勢を整えてみせ遣ると、

『ウィイイイイイン……!』

 と、その本体上部に載っている「砲身」を、シノビンが運転している「戦車」へと向けてみせてくれていた。




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