第2話 『世界の車両展』会場にて


■ 『世界の車両展』会場にて


 自由都市『ポートラル』――。

 それは『十二国』本土から少し離れた場所にある「ポートラル島」に存在している町(都市)である。

 この町は「皇帝クマープ」を頂点とした帝政を敷いている『十二国』の中にあっても「特別な自治権」を有する町であり、人々は「自由」と「平等」を有していてはその人口は数百万を超えていた。

 この町の治安はとても良く、色んな企業が世界中から進出しては「経済力」も高くあり、また「観光都市」としての人気もあっては、「高層タワーからの夜景(息を呑むような絶景)」や「繁華街にてギラつくネオン」、「屋根の無い2階建てバスによる観光」や「妖しい露店街でのショッピング」、「数多くの巨大な寺院」に「蝋人形館(ろう人形館)」と、魅力と見所に溢れている――そんな素敵な場所だった。


 そしてそんな「ポートラル」の“郊外”に、『メッセメッセ』の愛称で親しまれている「産業展示場」が存在をしてみせていた。

 「産業展示場」とは“様々なイベントを行う事が出来る「広い駐車場」を備えた施設”の事であり、現在その「産業展示場」では『世界の車両展』というイベントが開催をされてみせており、そこには「発売間近の車」から「骨董品級のプレミアカー」、「戦車」に「パンジャンドラム」と「一輪車」の類まで――、“タイヤが付いていれば何でもOK”な「世界の車両」が集結をしていた。

 そして本日の天気はとても良く、また「休日(日曜日)」で「イベント最終日」という事もあり、多くの人々が来場をしてては、それは「小さな子供を連れた親子」であったり、「車好きの男連中」、「催し大好きな若い女子」、「カーディーラー」と様々だった。

 また、客の中には「痛車(イタシャ)」と呼ばれる「デコレーションされた車」にて乗り付けて来た者も多数存在をしてみせており、加えて主催者が雇った「イベントコンパニオン」とは関係なくに「レースクイーンのコスプレ」にて来場して来た者があったりしては、“客か店員か分からない”といったカオスな様も示してみせた。

 ――そんな中、

「わ~おっ! 本物の戦車デ~~~ス♪」

 と、「屋内展示場」にて展示されていた一台の「戦車」を前にして、「金髪エセ外国人」風の若い女が目を「キラっキラ」と輝かせながらに「戦車」の事を見てくれた。

 ――と、女は近くに居たスタッフに対して声を掛けた。

「ヘイ、ボーイ! ちょーっと質問しても良いデスか~?」

「……はい、どうしました?」

「この戦車は“どーやってココまで来た”んデースか~?」

「…………」

 スタッフは少し考えてみせて後、こう言った。

「『船』……ですかね?」

 ――『世界の車両展』を開催しているイベント会社である『テナンカンパニー』は、今まで“世界各地”にて同様のイベントを開催してきた。

 そして今回「ポートラル(島)」へは“「船」を使って渡って来て”おり、故に(ゆえに)女に対して“そう言った”のだ。

 しかし、「金髪女」はこう言った。

「違ーうデース! “陸路での運搬はどーやったのか”ってー意味デスよー!」

「ああ、そうでしたか……」

 会釈(えしゃく)をして後、スタッフは言った。

「ココにあるのは全て港から『大型トレーラー』を使って運んで来ています」

「『大型トレーラー』ですか? それじゃあ“トレーラーからここ(展示場所)まで”は、どーやって運んで来たんデース?」

「えっと……、搬入をする際には“直接車に乗って運転をする形”にてココまで運んで来ています」

 ――つまり、目の前にある「戦車」には“多少なりとも燃料が積んである”と言う事である。

 スタッフは言った。

「あ、“車を運転しよう”としてはダメですよ?」

「勿論デース♪」

「それと、パーテーションを乗り越えて、“車に触れて”はダメですよ?」

「OKデース♪」

 「金髪エセ外国人」風の女は笑顔を見せてくれていた。

 ――ちなみに彼女の名前は「シノビン(自称)」と言って、仕事は“過激な事をやってみた系の生配信”にて人気を得ている「インターネットパフォーマー」である。


 ――一方その頃。

『ヴウウウ~~~ン……』

 1組の「男女のカップル」が「車(テントウムシみたいな見た目をしている)」に乗って「産業展示場」の「駐車場」へと入って来ていた。

 車の「運転席」にて座っている男の名前は『シュウ』と言い、その年齢は20代。

 彼は「ポートラル」にて「特別警察(特別な任務を担う警察官)」をやっており、“とても運動が得意”で“笑顔がステキ”な“子供っぽい笑顔がカワイイ”男であった。

 一方、「助手席」へと座る女の方は『ピピ』と言い、シュウの「同級生」にして「恋人(同棲中)」で、「フリーのジャーナリスト」をしていては、「ちょっとしたアイドル並みのルックス」の持ち主だった。



■ 「インターネットパフォーマー」の『シノビン』とかいう女


 ――少しして。

 「屋内展示場」にて“見回り”をしていた「ムーン(筋肉質の大男)」に対し、スタッフの一人が声を掛け遣る。

「ムーンさん、ちょっと来て下さいっ!」

「ん? どーした……?」

 言われてムーンは促される(うながされる)ままに移動をしては、やがては「多目的トイレ」へと到着をした。

 そして「ドア」を開けては“トイレの中”を見てみると、

「なんだぁ、これは……?」

 と、驚き遣ってみせていた。

 ――何故ならば、トイレの中には“一人のスタッフ”が居たのだが、その人物は“「猿轡(さるぐつわ)」を噛まされた格好”にて“床の上にて転がっていた”からである。


 ――一方その頃、「屋内展示場」は“ちょっとした騒ぎ”になっていた。

『ドドドドドドドドド!』

 なんと、展示されていた「戦車」の中に『シノビン』が乗り込んでみていては、エンジンを掛けていたのである。

「キミっ! 今スグ車から降りなさいっ!」

 「何事かしら?」という来場客の視線の中、「ジーン(細身のメガネ男)」が「戦車」のフロントガラスを叩きながらに女に対して呼び掛けた。

「♪」

 けれども「シノビン」は意に介さずに、「ウキウキ気分」で“動画配信の準備”をしていた。

 ――対して「世界の車両展」のスタッフ達は“戦車が動き出した時の事”を想定しては、

「お客様! 戦車の周りから離れて下さい! 危険ですので離れて下さい!」

 と、「戦車」から離れるように呼び掛けていた。

 けれども“そんなこんな”を無視しては、シノビンは「動画の生配信」を開始した。

「ハーイみなさん、コンニチで~す♪ インターネットパフォーマーの『シノビン』で~す♪」

 ――現在の「動画」の視聴者数は1000人だった。

 けれどもこれはシノビンが、事前にファンへと「この時間に生配信を行ないます♪」と伝えていた上での数字であった。

 ――と、シノビンは言った。

「今かーら、私が『お色気忍法(にんぽー)』で獲得をした、この戦車に乗って、(大陸側の)『シャンシャン』まーでドライブした~いと思いマース♪」

 ――『シャンシャン』とは『ポートラル』とは“海を挟んで対岸(十二国本土)”に存在している町の名称である。

 両都市間は「梯大橋(かけはし大橋)」という名の“大きな橋”により繋がって(つながって)おり、シノビンは今から“その橋を渡って”は「シャンシャン」へと向かう――と言ったのである。

「それじゃあ皆さん、行くデスよ~♪」

 ――動画には「待ってました!」「はよ行け!」「いや、それはマジで止めた方が良いのでは?」「この女、バカ過ぎる~!」「マジで?」「ヤバくない?」等のコメントが寄せられていたのだが、けれどもシノビンは構わずに、

「パンツァー! フォーーー♪」

 の言葉の後にアクセルペダルを踏み込んでいた。

 ――直後、

『ギャルルルル……!』

「ちょっ! マジかっ!?」

 アクセルペダルを踏み遣ったシノビンに呼応して「戦車」のキャタピラが回り出し、そして――、

『バリバリバリバリ……』

 と、「直接触れないよう周りを囲ってあったパーテーション」を踏み潰しながらに「戦車」は“発進”をしてみせていた。

「くっ……!」

 たまらず「ジーン(メガネ男)」は「戦車」の上から離脱をしては、床の上へと転がった。

 ――すると他のスタッフが駆け寄って来てみては、

「大丈夫ですか、ジーンさんっ!?」

 と、尋ねてみせた。

 ――対してジーンは、

「ああ、大丈夫だっ!」

 と、言って後、急いで立ち上がってみせ遣ると、

「皆っ! お客様の避難を最優先にっ! 警察にはボクの方から連絡をするっ!」

 と、言い遣ってみせてくれていた。


 ――一方その頃、

「わああああっ!!

「キャァアアアアッ!!」

「?」

 と、「多目的トイレ」に居たムーン達が“外の騒がしさ”に気が付いては、「多目的トイレ」より外へと出て来た。

 すると――、

『ガシャアアアアアン!!』

「なっ!? 何だあああっ!!?」

 ムーンの前方にあった「ガラスで出来た壁」に対して「戦車」が“体当たり”をしてみては、それを「ガシャン!」と突き破り、「戦車」は“建物の外”に対しては“飛び出して”みせてくれていた。



■ シュウとピピの災難


 ――一方ここは『世界の車両展』が開かれている「産業展示場」の「駐車場」。

 ――シュウは「車(テントウムシみたいな見た目をしている)」から降りて来てみせ遣ると、「助手席側」へと移動をしてはピピに対して手を伸ばし、

「それじゃあ行こうか?」

 と、エスコートをしてみせた。

 ――するとピピは、

「ええ♪」

 と、微笑み返してみせて後、

『(ぎゅっ!)』

 と、シュウの手を取った。

 それから二人は“仲良さそう”に手を繋ぎ(つなぎ)、「産業展示場」目指しては歩き始めてみせていた。

 ――と、その直後、

『ギャルルルルーーーッ!!』

「「!?」」

 と、突然に「駐車してある車の角(?)」から“スリップを起こした状態”の「戦車」が現れていてみていては、

『ギャルルルルーーーッ!!』

 と、“慣性力を持ったまま”にシュウとピピへと突っ込んで来た。

「ピピっ!」

 シュウは急いでピピの体を抱き締め遣ると、「戦車」を避けては“遠くの方”へと飛び退いて、“地面の上”へと転がった。

 ――対しては、

『ドオンッ!』

 と、「戦車」は“駐車してある車の群れ”へとぶつかって後、“移動を停止”してみせた。

 ――一方シュウは“自分の背中を地面へと着けた(つけた)格好”にてピピに対して尋ね遣る。

「ピピ、大丈夫かい!?」

「え、ええ……!」

 この時ピピは“シュウに抱き付かれているという格好”であった為、少し“恥ずかしさ”を感じながらに頷いた。

 ――それからシュウは、

「よっ……と!」

 と、「ピピの体」を“横(地面の上)”へと移動をさせては、肘を突きながらに上半身を起こしてみると、それから立ち上がってみせて後、ピピに対して手を伸ばし、

「どっこい……しょっ!」

 と、ピピの体を引っ張り上げた。

 ――対して「戦車」は、

『ギャルルルル……!』

 と、再びキャタピラを“回転させて”は動き出し、シュウ達の前より去り遣った。

 ――と、その直後、シュウは“とある事”に気が付いた。

「あーーーーっ!! ボクの車がーーーーっ!!」

 ――見ると、「シュウの車」は「戦車」に“ぶつけられて”みていては、“大きく凹んで(へこんで)”みせていた。

 シュウは言った。

「ピピ! 行って来るっ!」

「えっ!? ど、何処に……!?」

 ――シュウは走り去って行く「戦車」の事を指差しながらに、

「アイツに弁償させてやる! 絶対に逃がしてなるものかっ!!」

 と、ピピに対してそう言った。

 ――するとピピは、

「ええ、分かったわ……! ケド、あんまり無茶はしないでね?」

 と、シュウへと言った。

 ――するとシュウは、

「ああ! 分かってる!」

 と、言ってはピピへと頷くと、

『(ダッ!)』

 と、「戦車」目掛けては“駆け出していて”みせていた……。

「…………」

 ――と、ピピはシュウの“後ろ姿”を眺めながらに「独り言」を言い遣った。

「――私は現在、“彼と同棲(どうせい)している”のだけれども、今日は『久しぶりのデート』であり、私は“楽しみ”にしてたのだ……。――けれども彼は“そんな事”など構わない。デートを途中で“ほっぽりだして”何処かへ行っちゃうヤツなのだ……」

 続けて言った。

「けれども、“そんな所”も含めてね、私は“好き”であったりするのだよ♪」

 ――と。



■ スポーツカーの男


 ――一方その頃。

『ギャルルルル……!』

「おおっと!?」

 「駐車スペース」を探していた一台の「スポーツカー(オープンカーである)」に対して、「戦車」が“突っ込んで来て”みせていた。

 ――すると、

「フンッ!」

 と、車を運転していた「肌黒男」は上手にハンドルを切り遣ると、

『キキーーッ!』

 と、その「スポーツカー」は“スライドしながらに180度くらい回転”しては、「戦車」を回避し、停車した。

『ギャルルルル……!』

「なんだぁ、ありゃ~?」

 「肌黒男」は去り行く「戦車」を見ながら、そう言った。

 ――この男、その名前を「テロドス」と言い、「黒い肌+アロハシャツ+サングラス」といった格好をしていては、その首からは「銀色のネックレス(円柱状の形をしたペンダントトップが付いている)」を提げて(さげて)いた。

 また――、

「…………」

 “男の隣”には「黒豹の様な女(若くて美人である)」が無言で座ってみせており、彼女の名前は「ヴィーシャ」と言った。

 ――と、

「お~い! そこのスポーツカー~~っ!」

「「?」」

 二人は“誰かしらか”に“声を掛けられて”みていては、“声の方”へと振り向くと、そこには“手を振りながらに駆け寄って来ている”シュウの姿が見えていた。

 ……やがてシュウは二人に対して近付き終えると、テロドスに対してこう言った。

「ちょっと……、良いかな……?」

「あ……? 誰だ、お前は?」

 シュウは言った。

「ボクはシュウ。ここポートラルで『特別警察』をしている者だ!」

「「…………」」

 ――言われてテロドスは、

『(ちらり……)』

 と、“ヴィーシャの顔”を見てみるが、

『(フルフルフル……)』

 と、ヴィーシャもまた同じくに『(知らないです)』といった顔をした。

 対してシュウは“二人の反応”と“二人の身形(みなり)”を見て後に、二人が“観光客であるのだろう(特別警察を知らないのだろう)”と、分析をしてみせていた。

 そこで、それは兎も角(ともかく)として後に、シュウは尋ねた。

「すまないが車を貸してくれないか?」

「あ?」

「さっきの戦車を追いたいんだ。協力をしてくれないか?」

「「…………」」

 言われてテロドスとヴィーシャの二人は“互いの顔”を見合わせた。

 ――けれどもテロドスは“何を思って”みせたのか、

「良いだろう……、乗れ!」

「!?」

 と、シュウに対してそう言った。

 この時ヴィーシャは「本気なの?」といった顔をしては驚くが、対してシュウは――、

「ありがとう! 助かる!」

 と、礼を言い、素直に“それ”を喜んだ。

 ――その直後、

「ヴィーシャ……」

 と、テロドスは彼女の名を呼び遣ると、

『(コクン……)』

 と、ヴィーシャは頷いて、即座に“応じて”は、車の外へと降り立った。

 ――それを受けては、

「ありがとう!」

 と、シュウは(礼を)言い、それから早速テロドスの“隣の席”へと乗り込んだ。

 ――と、シュウが尋ね遣る。

「(車は)ボクが運転しなくても平気かい?」

「ハハッ! 安心しろ。カーチェイスの経験は何度かあるさ……!」

「…………」

 ――言われてシュウは「ピン!」と来た。

 恐らくこの男、“一般人では無い”のだろう。

 そして「カーチェイスの経験がある」という言葉にも“ウソは無い”ように思われた。

 それ故(ゆえ)、言った。

「それじゃあ、頼めるかい?」

「ああ、任せろ……!」

 ちなみにテロドスの「カーチェイスの経験」は専ら(もっぱら)“逃げる専門”だった。

 ――直後、

『カチッ!』

 と、「シュウがシートベルトを締めた事」と「ヴィーシャが車から距離を取った事」を確認すると、テロドスは車の「操縦桿(かん)」を「ガチャガチャ」と動かしてみては「ハンドル」を切り、「ペダル」を強く踏み込んだ。

『ヴウウウウンッ……!!』

「おおっと!?」

 すると「スポーツカー」は“距離を稼がず”に“進行方向を変化”させては、シュウへと「ドライビングテクニックの高さ」を見せ付けた。

「ハハっ! こりゃスゴイっ!」

 シュウは素直に驚いた。

 そして、“テロドスの方”を見てみては、シュウは言った。

「改めて名前を名乗ろう! ボクはシュウ! キミの名は?」

「…………」

 言われて瞬間テロドスは“困ってしまって”みせていた。

 ――けれども、言った。

「オレの名前は『ロードス=ランド』……。『ロードス』と、そう呼んでくれ……」

 それは「ニセモノの名前」であった。

 けれどもシュウは微笑み、こう言った。

「よろしく、ロードス♪」

「ああ、こちらこそ……!」

 ――と。

 ――直後、

『ヴウウンッ!!』

 ――「テロドス(ロードス=ランド)」はアクセルペダルを踏み遣ると、

『ヴゥーーーーン!!』

 と、シノビンの運転する「戦車」に対し“追跡”を始めてみせていた。




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