第6話


「えぇ、そうだとしたらあなたとは一切関わっちゃいけないことになるわ。もちろん咲もね」


桜木は未だベンチでぐっすりな桜木妹の頭をさらさらと撫でる。撫でられている咲ちゃんはもちろんのこと、撫でている桜木も嬉しそうに口をにまにまさせている。頭をなでているだけでこれだけ映えるとか天使かよ、。


「あのおっさんとどんな関係なんだ?」


「……それは私の家の問題よ。あなたには関係ないわ」


取りつく島もない様子できっぱりと回答を断られる。


「……あぁ確かにそうだ。ただ、その家の問題で俺に迷惑をかけたのはどこのだれだっけなぁ?しかも一切関わらないだなんて言っておいて訳も話さないなんて筋が通ってないと思うんだが?」


「むっ......!」


普段は人のプライベートには首を突っ込まないのだが、強気でお高くとまった桜木を少し困らせてやりたいと思ってしまった。これだけ桜木に巻き込まれて、報酬が桜木にもらったジュース一本だなんて割に合わない。


自分でも性格が悪いと思うが、ここは桜木のもつ責任感につけこませてもらう。自分のせいで家の名前に傷がつくとなれば桜木とて話すほかないだろう。


「…………分かった。じゃあ……私と、付き合って…」


「......え?」


予測したのとは大幅にずれた答えに戸惑いを隠せない俺に、若干キレ気味で続けていう。


「だから!私と付き合ってって言ってるでしょ!!」


二度言うのが恥ずかしかったのか、俺の目の前まで足踏みで来て肩を軽く揺らして言った。本人は力を入れて揺らしたつもりだろうが、実際は服が少し擦れる程度の力しか出せていない。揺らし終えて俺の顔を見ると、頬を桜色に染めてそっぽを向く。とりあえず怒るか照れるかどっちかにしてくれ。


「な、何で俺がそんなことを……」


できるだけ動揺していないように振る舞う。

ただ、後から俺の姿を見たとしたら、誤魔化せないほどキョドっている自信がある。俺だって男だ。絶対的美少女に告白されれば困惑もするさ。

俺みたいな平凡な人間には一生分の運を使い切るほどの美少女と交際のチャンスだが、俺は桜木ほどの美少女と対等に付き合う自信がない。たとえ付き合ったとしても桜木への劣等感で純粋な恋ができない気がする。あり大抵にいうと俺なんかとは釣り合わないってことだ。しかもこんなに急な告白、絶対に何かわけがあるはず。じゃなきゃ天と地がひっくり返ってもありえない。俺はもうこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。



ピロン♪



何かと理由をつけて断ろうとしていたその時、初期設定の通知音が俺のポケットから鳴った。俺の母から早く帰ってこいとの通達だ。おおかた夕食がもうすぐ出来るのだろう。桜木が起きるのを待っていたら意外と時間が経っていたらしい。


「と、とにかく、俺は行かないから。じゃあな」


ちらっと横目で見た桜木は顔を俯かせていて表情は読み取れなかったが何故か悲しそうな表情をしている気がした。



そもそも俺はいつも強気でお高くとまった桜木を少しからかってやろうとしただけであって、もとより桜木の家庭事情にはさほど興味がない。それに、付き合って、ということは彼氏のふりをしなきゃいけないとか、彼氏として危ないから送り迎えさせるとかそういうわけだろう。しかし俺は、恋愛とかそういうのに経験がない。頼る人を間違えている。桜木なら俺以外にも都合のいい男がいるだろうし、俺である必要はない。そう自分に言い聞かせるとなぜだか分からないが引っ掛かりを覚えた。

気まずい雰囲気を感じて、一歩踏み出そうとした俺のパーカーの袖が、軽い力で引っ張られる。


「お、おね……が」


「え?」


「おねがい…」


桜木は今にも消えそうな声で俯いたまま、手を離すまいとぎゅっと俺の袖を握りなおした。


「…………はぁ、いやだね」


そう俺がはっきりと言うと、桜木はハッとしたように顔を上げた。その目は少し潤み、裏切られたかのように唇を小刻みに震えさしている。今にも零れ落ちそうだったものは乱雑に桜木の腕で拭き取られた。


「私を……養ってくれている人が最近元気がなくて……ずっと何かを思い詰めていて。何かプレゼントしてあげたいんだけど……頼れる友達はいないし、お金を使っても叔父さんの負担にしかならないから……。でも、千紗の彼氏を見てみたいって言ってたのを最近思い出して。ごめんね。まだそんなに仲良くもなってないのに無理言っちゃって。また気が変わったら言ってほしい、、かな...」


いつの間にか俺の袖を握る力はなくなっていた。そこにはいつもの覇気のある桜木はいなかった。えらくしおらしくなった桜木を見て、悪くないとは思ったものの、内心何か、もの足りなさを感じてしまった。

自分でも意地悪な言い方をしたと思った。正直ここまで思い詰めているとは思わなかった。今更ではあるが少し後悔の念が押し寄せる。


「…何でまたなんだ?」


「…………ごめん。やっぱりもう誘わないように「俺が言ったのは、報酬がお前の家族事情を教えてもらうだけだとわりに合わないって言ったんだ」


桜木の消えかかった声にかぶせて強く言った。





★大幅に修正しました

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