第5話
あの男が去って、数分後。よくよく考えたら桜木妹を家に帰す手段がないことに気づいた。何か案を模索するも、良案が出てくる気がしない。俺は知り合ってすぐなので家の場所なんてわからないし、表札を見回って探し回ってもいいが、それこそ俺が不審者になりかねない。
最終手段なら仕方ないが、桜木が妹を探しにきて、俺たちを見つけてくれることがベストだ。
どさっ。
左の曲がり角から、鞄が落ちるような音が聞こえた。身を乗り出して覗いてみると、何故か膝から崩れ落ちたように座っている桜木を見つけた。体はこちら向いていたので、妹を見つけられた安堵によるものかと思ったが、そうではないらしい。まるでトラウマを呼び起こしたかのような表情で小刻みに肩を震わせている。顔色も悪く、目は焦点が合っていない。このまま倒れてもらっては元も子もないので声をかける。
「桜木。大丈夫か?」
放心状態のまま返事はない。
「おい!桜木!!目覚ませ!お前に倒れられたら困るんだよ」
「省吾、くん…。なんで......?」
それだけ言い終えると、気を失ったように眠ってしまった。何か急激なストレスになる原因があったのか。それともただ疲れていただけなのか。うなされている桜木を見ていると何故だか心が痛くなった。
桜木は来たものの、今意識があるのは俺だけ。こうなれば桜木が目を覚ますのを待ってみるしかない。ただ、道路の真ん中で座られても迷惑なので、妹と一緒でベンチに座らせることにする。しっかりと首の部分を腕で支えて、桜木を持ち上げる。無意識のうちにお姫様抱っこの体勢になってしまったが、怒られることはないだろう。意識がある時にすれば、顔面に柔道二段の回し蹴りを喰らうこと間違いなしだ。
ベンチまで運び、桜木妹の横に並べる。こうしてみるとやはり美人姉妹であることがよく分かる。かといって片方は小学生くらいの少女なので欲情することはないが。
「んんぅ…」
「起きたか桜木」
軽く声をかけると桜木はゆっくりと目を開け、じっとどこか焦点が合っていないように俺を見つめる。その顔はなにかに見惚れているように蕩けていた。本人は寝ぼけていて何のつもりもないだろうが、俺は見つめられると恥ずかしくなって顔を背けた。
「……えぇ?何で…私こんなところで……ハッ!?」
数分経つと、まるで催眠が解けたかのようにゆっくりと腕を両手にあげ背伸びをして眠そうな目を軽くこすっていたが、急に勢いよく立ち上がり周りを見渡し始めた。
「良かった……。もういないのね」
「ん?さっきの胡散臭いおっさんのことか?」
「……省吾くん。さっきはありがとう。本当に。何故だか安心してしまって気を失っていたみたい。それで......さっきあの人と何を話していたの?」
本当に感謝しているといった様子で頭を下げられる。よく分からんが、俺と目を合わせてくれないのは俺が桜木をお姫様だっこしたからだろうか。桜木と目を合わせようと顔をずらしてもまったく目線が合う気がしない。まぁ怒ってこないということはまた違うわけがあるのだろう。
桜木は少しかがんで俺の目線を逃がさないかのように真っすぐ見つめる。
声は分かりやすいほど震えていて、何かを恐れているかのように感じた。
「いや、ただ道を聞かれただけ。それ以外は何も話してない」
実際は桜木の家までの道聞かれたが、嘘は言ってない。
「本当でしょうね」
「あぁ。……っていうか俺がさっきのやつ他に何か喋ってたら何か問題あるわけ?」
そう俺が言うと、桜木は俺のことをキッと睨みつけて言った。
「えぇ、そうだとしたらあなたとは一切関わっちゃいけないことになるわ。もちろん咲もね」
★(注)咲とは桜木の妹の名前です。
いつか出そうと思っていたのですが、今までタイミングが見つからずこのタイミングになってしまいました。
早くも毎日投稿に限界を感じてきた。
だんだん文章が短くなってるのは素直にすいません。
評価よろしくお願いします!
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