第2話
気がつけば俺はベンチに腰掛けていた。隣には桜木妹がスースーと気持ちよさそうな顔で俺の肩にもたれかかっている。起こさないようにゆっくりと立ち上がり、俺の少し厚めのタオルの上に頭を乗せる。少々寝心地は悪いだろうが、これで我慢してもらうしかない。俺の予想だと桜木も近くにいるだろうしな。
「起きた?」
背後にはタオルで汗を拭きながら火照った頬を手で仰ぐ桜木がいた。
「あぁ。おかげさまでまだ下っ腹あたりがずきずきするがな」
「まぁ.....。あれはちょっとやりすぎたと思ってるけど」
桜木は申し訳なさそうに鮮やかな深紅の瞳を細める。
「よし。俺はもう行くけど、妹ちゃんは大丈夫か?」
俺は未だにベンチでスヤスヤと息をたてて寝ている桜木妹に視線をやる。
「いや、結構よ。妹の件で時間を使わせてしまったし流石にこれ以上手を煩わせることはできない」
「了解。じゃあ俺はもう行くから」
後ろを向かずに少し手を上げて足を進める。向こうがいらないと言った以上余計なお世話になりかねない。
と思ったのだが......。
少し心配になって先の曲がり角で隠れながら様子を伺う。
妹の腰に手をまわして持ち上げようと必死になっているが一向に持ち上げられる気配がない。ついには桜木もベンチに座り込んでしまった。少しくらい手助けしてやろうと思いベンチに近づく。と、どうやら桜木の様子がおかしいようだった。一見ただ暑がっているのかと思ったが、息も荒く、見るからに苦しそうにしていた。
「おい、桜木。......おい!大丈夫か!?」
少し声をかけるくらいじゃ反応がなさそうなので、その華奢な体を揺らしてみる。
「...水......。お願い......」
「...!?俺のでもいいか!?」
力が抜けたように首をうなづかせる。
素早く1Lほどの水筒を取り出し、その小さい口に飲み口をつけて、ゆっくりと水を流す。
「ふふぁああ...。.....お兄ちゃん?何してるのぉ?」
「お前のおねぇさまの看病してるのさ。軽い脱水症状だと思うから多分大丈夫だろうけど」
水で濡らしたタオルでおでこの汗を拭き、手を当てる。うん、少なくとも熱はないな。あとは落ち着くのを待つだけだ。
「お姉ちゃん病気!?なおるの??」
看病と聞いて、すぐに心配そうに桜木の顔を除く桜木妹。さっきまではスヤスヤ気持ちよさそうに寝てたのに、忙しいやつだ。
「治るからおとなしくまっとけ」
桜木妹の頭をわしゃわしゃとなでる。手を離そうとするも、俺の手を取って続けさせようとする桜木妹に癒しを感じながら、桜木が起きるのを待った。
「...ん......。んんぅ」
「起きれるか?」
目を開けると右隣にさっき帰ったはずの省吾くんがいた。というか何で私はベンチに座ってるのかしら。起きたばかりでは思い出せなかったものの、だんだんと記憶がよみがえってくるにつれ、私の顔は自分でも分からないくらいに熱くなっていった。いくら緊急だったとはいえ、まだ知り合って短期間の男性と、かか間接キッスをするだなんて!省吾君にはしたない女だと思われていないかしら。いや......省吾くんはしたことがあるでしょうから、わたしだけがしたことがないと知られるわけにはいかないわ。だってこんなにかっこよくて優しいもの。きっと私以外ともしてきたのでしょうね。とにかく!どうにか平然を装って挽回しないと……!
「………………まさかこの短時間で立場が逆転するなんてね」
「あぁ。…………というか、その……、えっと……」
「何?あぁ、別に気にしないわよ。間接キッスくらいで。私だって初めてじゃないもの」
よし。これで初めてだとバレていないはず。
「あの、手、離してもらっても...いい?」
「暑いから手汗とか...気になるし」
へ?
手の感触を確認すると右手にがっちりとした重みがあった。何度かにぎにぎしてみるも、それは省吾くんの手で間違いなかった。
「......あっ。ご、ごめ、ごめんなさい。手汗気持ち悪かったよね?すぐ、どけるから...」
「.........いや、そんなことない!小さくて綺麗だしちょっと冷たくて気持ちよかった……けど」
はへ?
.......なんてこと言ってるの省吾くんは!?
小さくて綺麗は嬉しいけど気持ちいいって何!?むちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。まともに顔も見れないし!?
「あらあら、お嬢ちゃん。彼女さんの妹ちゃんだったのー。仲睦まじくていいわねぇ。」
さっき会った犬の散歩中らしきおばあちゃん二人の一言で更に状況が悪くなったのはいうまでもない。
★第一章終わるまでは見て!お願いします!
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