誰にも心を開かないことで有名なツンデレ美少女の妹を助けたら俺にだけ甘えるようになった

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第1話

 ある夏の日、木洩れ日を手で遮りながらゆっくりと足並みを進めていた。少しさびれたガードレールの向こう側には小さな砂浜と見渡す限りの海が見える。


汗をタオルでぬぐいながら、いつも通り一人の通学路を歩く。といっても今日は授業日ではない。同好会規模の集まりがあるだけである。中には多忙なやつもいるので自由参加となっているが、家にいても特にすることのない俺には暇つぶしに丁度いいのだ。家から少し遠いのが難点だが。



 清々しいほどに晴れた空を見ながらあるいていると、ふと甲高い泣き声が聞こえてきた。ここ一帯は高級住宅街になっていて、周りの地域と比べて静かなので余計に聞こえやすい。


この辺には事あるごとに警察に通報する金持ちばばあがいると学校で噂されているため、出来れば面倒ごとには関わりたくないのだが、不幸なことに俺が進む方向からの声がだんだん大きくなってきた。


突き当りを左に曲がると、案の定小さな女の子がオシャレなタイルの上でうずくまっていた。前に立っても俺には気が付かない様子で泣きじゃくっている。ふと純白のワンピースに目をやると、おしゃれ下手な俺でも分かるほどに生地がいいことが分かった。こんな小さな子が遠くまで来れるわけないし、この辺の子供だろう。もしかしたら目の前のモダンな豪邸の子かもしれない。お金持ちに関わるとろくなことがない。つい最近にも身をもって経験したところだ。そう思って女の子の横を速足で通りすぎる。女の子には悪いがここは身の安全を優先させてもらう。


 とその時、俺の一個先の曲がり角から二人のご老人が出てきた。どうにかこっちに来ないでと願うが当然あの女の子の泣き声が響いているのでこちらに近づいてきた。急いで隠れようにももう姿は見られているので隠れる方が余計不審である。


「あらこんにちは。」


「こんにちは」


「そこで泣いてるのは妹さん?」


「…そ、そ、そうなんです。お気に入りのおもちゃがなくなってからずっとこうなんですよねぇ」


俺の妹なんて言われるから流石に焦ったが、咄嗟に誤魔化すことはできた。


「かわいいわねぇ。うちのまごも丁度そのくらいで、かまってあげなかったらすぐ拗ねるのよぉ」


全然まんざらでもなさそうな満面の笑みでいう。まごの自慢話は長く続くだろうと思ったが、二分程度終え、俺が来た方向へ去って行った。


ふぅ。とりあえず一件落着。以外とバレないもんだな。


「嘘つくの良くない」


ッッ!?!?


後ろを振り返ると、さっきまで泣いていた少女が俺の方を指差していた。

まぁよく考えたら目の前で人が話してたら気づくよな。


「嘘つくの良くない」


少女はもう一度俺を指差しながらそう言った。なんとも純粋無垢な瞳だ。というかこの顔どっかで見たような気が......。


「じゃ、お前は嘘ついたことないのかー?」


「ある......」


それだけ言ってから、唇を震わせながら顔を俯かせた。少女の足元に水滴がぽろぽろと落ちた。


「か、っびんっ、割った、ろに、わっ、てないっ、て嘘、ついたぁっ、」


声を震わせながら嗚咽する少女にしゃがんで視線を合わせる。


「お父さんお母さんに怒られるのが怖かったのか?」


少女は一つ間を置いて首を振った。


「お父、さんお母さんっ、いないっ、おねぇ、ちゃんにっ、怒られるからっ、」


「........でもな、お姉ちゃんもお前を怒りたくて怒ってるんじゃないんだ。お前のことが大好きだから怒ってるんだ。な?」


優しく言い聞かせると、涙で溢れる目を乱雑に腕で拭きながら何度もうなづく。一瞬触れてはいけないこと言われた気がしたが、気にしないでおく。


「じゃあ、落ち着いたら謝ってこいよ」


なんだかこのまま放っておくのも後味が悪いので泣き止むのを待ってやることにした。時間に余裕あるしな。


「ほら、飴あげるからはよ行ってきな」


「おじさん!ありがとう!!」


「おにいちゃんなー?」


ストレートな感謝になんだかむず痒い。っていうか俺はおじさんじゃねぇぞ!!目の前の少女はたまたまポケットに入ってた飴を頬張るのに夢中で、おじさん呼びになんの含みもないみたいだから許してやるが。もう一回り大きかったら大人の怖さを教えてやるところだったぜ。


一応時間を確認しておかないと。現時刻は11時。少女との会話もほどほどに、再度足を進めようとした時、


「あのーその子もしかして......」


!?


「あぁ、いや、俺の妹でして、決して怪しいものでは」


背後から急に近くで話しかけられて焦ったが、即座にさっき思いついた言い訳を言いながら後ろを向く。


へ?



「あ、お姉ちゃん!あの、...わたし、...うそついてごめんなさい」


「やっぱり...。いいのよ咲。ちゃんと謝れるじゃない」



お姉ちゃん?


こいつが?



「というか省吾くん……。これはどういうことかしら。あなたを兄にした覚えはないんだけど」


俺の目を睨みつけながら、物凄い剣幕で詰め寄ってきた。今にも殴りかかってきそうな迫力である。さっきまでの慈悲に満ち溢れた天使のような笑顔はどこへやら。あれを見たら、普段のキツイ感じとのギャップで顔目当ての男とは他方面でもモテそうである。本人は底知れず嫌がっているようだが。


っていうか、こんな小さくて可愛い女の子の姉がこいつ!?信じられるわけがない。無駄に顔はいいのに性格がきつすぎて誰も近寄ろうとしないことで有名なこいつの妹なわけないだろ!最近生徒会で一緒になって分かったことなのだが、こいつは仕事ができない奴がとことん嫌いらしい。俺だって生徒会は初めてなのに、キーボードを打つのに時間をかけていると、もっとテキパキとしろだの集中しろだの言ってきた。金持ちは関わっちゃいけねぇと最近思ったのもこいつが原因である。


「……待ってくれ桜木!これには深い事情が、、」


「人の妹にちょっかいだしといて何が深い事情よ」


何とか言い逃れしようとするも、一向に桜木は信じてくれない。苦肉の策で桜木の後ろで面白そうに見てる桜木妹に視線を送る。気づいてくれる可能性は低いが掛けてみるに越したことはない。



「………お兄ちゃんは悪くないよ」


視線に気づき、若干嫌そうな顔をしながらも助け舟をだしてくれるみたいだ。


「え?」


「私が泣いてたのを慰めてくれたの」


「でも……」


いまだに信じられそうにない桜木だったが、妹の真っすぐな目を見て信じざるを得なくなったようで居心地の悪そうな顔で俺と桜木妹で視線をうろつかせている。


「……ありがとう。私からもお礼を言っておくわ。……あと。勘違いしてごめんなさい」


肩をもじもじ揺らしながら頬を薄紅色に染める桜木は有無を言わさぬ破壊力があった。普段学校では見せない仕草も加点対象だ。紫がかった艶やかな髪に、端正な鼻とぷっくらした唇。少しつり上がった目はまさに桜木の性格を表しているといっても過言ではない。正直俺も見とれてしまっていた。


この件がもう解決したと勘違いをして。


「でも……」


「私の妹を勝手に自分の妹と偽ったこととはまた別。覚悟はいいかしら……?」


拳を、ぎりぎりある判定になりそうな胸の前で構える。


「いやでも、待って!!」


俺の必死の叫びもむなしく、みぞおちに衝撃が走った。




どうやら桜木は重度のシスコンらしい。




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