距 離

「はあぁ〜…」



溜め息を吐く私。




「幸せ」



ビクッ


突然の声に驚く。




「逃げるぞ!」




ドキン…



「弘渡…ていうか不法侵入!人の部屋に勝手に入って来ないでよ!」


「呼び出し音、鳴らしたけど?」


「嘘!!だったら気付くってば!」




微笑む弘渡。


ドキン




「どうかしたのか?」


「…弘渡ってさ…ムカつくけど、どうして優しくすんの?」


「良いじゃん!」


「何か調子狂う!でも…今じゃ弘渡はモテモテだね?何、眼鏡外して登校しちゃってるわけ?」



「妬く?」

「ありえない!」

「そう?」

「そうです!あったらとっくに告ってるよ!」

「へえー…じゃあ、アピールする方なんだ」



「えっ?…それは…まあ…。でも第一自分の事、知って欲しいじゃん!遠くでずーーっと見つめるよりも自分の想いぶつけんの!嫌われたっていい。ただ、自分の想いはぶつけて素直になってスッキリした方が良くない?」



「まーな」


「弘渡はどっち?」


「えっ?」


「好きって告白する方?それとも受け身?でも弘渡って受け身系だよね?モテそうだし。つーか、現にモテてるし」




私達は自分達の、お互いの恋愛話をした。






そして……




弘渡と私は


ゆっくり ゆっくりと


距離が縮まり始めていた




だけど……




自分達の想いには



まだ……



気付いていなかった







それから数ヶ月が過ぎ、私達は何も変わらず過ごしていた。





そんなある日の夜―――――




「それでね〜」




グイッ ビクッ

背後から私の口を塞ぐとナイフを突き付けられる。



「言う事を聞け!今から、言う通りにしろ!」



私は頷く。


塞がれた口が解放される。



「ごめん…ちょっと…来客だ。またね!」




私は電話を切る。

  



「洋服を脱げ!」


「えっ?」


「言う通りにしろ!言ったはずだ!」



私は脱がず抵抗した。



「何をしてる!殺されてーのか?」


「……おじさんが脱がしなよ。前開きジャージだから簡単だよ」



「………………」



「ほら!早く!脱がして良いよ」



「………………」




手が伸びてくるも、結局、そのまま未遂で終わり帰って行く。




その直後。



「和華奈っ!」



ビクッ



「きゃあっ!何!?弘渡っ!?」

「大丈夫か?」

「えっ?う、うん…大丈夫…」




グイッと抱きしめられた。



「きゃあっ!ちょ、ちょっと!弘渡?」


「お前の部屋から男出てきたから。最近、変質者や強盗が、ここのマンションの建物を出入りしているって話聞いてたから」


「えっ!?」




バッと抱きしめられた体を離す。




「悪い!」

「いや…大丈夫だけど…ねえ…弘渡」

「何?」


「ジャージって…やっぱり…辞めた方が良いのかな?」


「何だよ、急に。まあ…人それぞれだし良いんじゃ?確かに俺も初めて見た時は驚いたけど……今は慣れたから気にしない」


「…そっか…」




ポンと頭に触れる。



ドキン




「今、ジャージも色々あるだろう?部屋着も楽しめば良いじゃん」


「ありがとう…」


「一人で平気か?添い寝してやろうか?」


「カップルじゃないんだから!」


「まあな」




クスクス笑い、弘渡は部屋を出て行った。













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