第7話 訪問者

それから一ヶ月が過ぎ―――――



「なあ、今度さ、お前ん家、行って良い?」

「えっ?」


「別に付き合ってんだし。和華奈、一人暮らししてんだろう?」


「そう…だけど…」


「じゃあ、良いじゃん!」


「まあ…良いけど…でも、突然訪問は辞めてね。前持って連絡するかしてもらった方が良いから」


「OK」




そう約束したもののある日の休日―――――



ピンポーン

私の部屋のインターホンが鳴った。




「はい」



カチャ


玄関を開ける。



ドキッ



《…えっ…?嘘…》



そこには、まさかの彼・一暢の姿があった。



「どーも、こんにちは!君…妹さんか何か?和華奈いる?…つーか、一人暮らしって聞いてたんだけど……」


「あー…えっと…ちょっと近くまで出掛けてて…」


「そうなんだ。じゃあ…待たせてもらおうかな?」


「えっ?いや…それは…」




強制的に部屋に入ってくる。



「ちょ、ちょっと!」



次の瞬間、私はつまづき、転倒した。



「痛ーーぁ…」

「大丈夫?」



手を差し出されたかと思ったら抱き寄せられた。



ドキッ




グイッと両手を掴まれたかと思うと私を押さえつけた。



「ちょ、ちょっと辞め…」




キスされた。



「君、スタイル良いね。彼氏はいるの?」

「えっ?あ、えっと…います」



《つーか、目の前にいるんだけど…》




そう考えているうちに、私のジャージのチャックが下ろされ、首筋に唇が這う。



「や、やだ!ちょっと!辞めてっ!一暢っ!」

「えっ…?」



《ヤバイ…》




眼鏡が外された。



「は?ちょっと待てよ!お前…和華奈?マジかよ…」



私から離れる。



「…嘘だろ!?」



「………………」



「まあ、良いか。俺達付き合ってんだし」



再び押さえつけた。



「や、やだ!ちょっと待ってよ!例え好きでも心の準備ある…」


「初めてじゃねーんだろう?元々、学校のお前なら経験あるんだろうし」


「えっ…?」


「まあ例え初めてだとしても、痛いのは最初だけだって」



そう言うと再び唇が首筋に這う。



「や、辞め…」


「…ふーん…じゃあいいや。だったら、こっちにも考えがある」


「えっ?」


「恋人同士でありながら、関係持たないなら、お前の事をバラす。関係持つならバラさねーよ」



「…………………」



「交換条件。学校の和華奈と、今、俺の目の前にいる和華奈ってさ、かなりギャップヤバイだろう?騙された気分なんだけど!」


「何言って…大体、突然訪問しないでって言ったはずたよね?しかも…私が、牧屋和華奈じゃないって知っておきながら流れでHしていた可能性あったって事でしょう?一暢こそ、タチの悪い男だよ!私って分かってHしようって……」



「…………………」



「で?どうすんの?ヤるの?ヤらないの?」

「ヤるとか、ヤらないとか……そんなの…」


「どっちか選べよ!…外面だけ良くって実は、こんなんですって。絶対、みんな知ったら一気にイメージ悪くなるし変わるんだろうな?」



「………………」



「…ぅ…ぃ…」


「えっ?」


「もう良いよっ!…って…帰ってよ!!」

 

「あーそう!それが和華奈の答えだ。じゃあ、みんなにバラして良いって事だよな?じゃあ、そういう事で。和華奈とは今日限りな」




そう言って一暢は部屋を後に出て行った。



そして、私の部屋から出て行く一暢の姿を見かける弘渡



「…淅山…?」




「……おしまいだ…せっかく…ずっと…隠し通してきたのに…最悪だよ…」



私は悔しさから涙がこぼれ落ちる中、手当たり次第部屋の物を散乱させる。



「…和華奈…?おいっ!和華奈っ!落ち着け!!」


「…弘……渡…?」


「…さっき…淅山…出て行ったけど…つーか…その格好…」


「…あ…ううん…大丈夫…暑かったから…」




私はチャックを閉める。




「………………」



「…和華奈…?」


「…大丈夫!ごめん…弘渡、出かけるんでしょう?」


「…あ、ああ…」


「さあ、行った!行った!私は大丈夫だからさ」




私は追い出すように玄関まで背中を押して行く中、玄関の外に出る前で弘渡は止まった。




「…弘渡…?」

「バレたんだろう?アイツに」



ギクッ


「大丈夫だよ!バレて…」

「正直に言いな。おかしいだろう?あんな姿見りゃ…」

「大丈夫だから!本当に…。だから…行って…」


「和華奈っ!俺達しか知らない秘密だろう?もし、本当にバレたとかなら俺も黙っておかねーけど?」


「…えっ…?…弘渡…」



スッと両頬を優しく包み込むように触れる。



ドキン…



優しい眼差しで私を見つめる弘渡。



「和華奈ばっかり嫌な思いさせる気ねーから。第一、お前だけ責められてんのって割り合わねーだろ?」


「…弘渡…」




「俺が味方になるから…胸張れなくったって俺が必ず味方になる。だから…いつものお前で学校に来な」


「…うん…」



頭をポンとされる。



「じゃあ、俺出掛けて来るから」





そして、弘渡は出掛けた。






他人に聞こえないように


いつも耳元でムカつく一言を垂らす


容姿隠して


誰にも対等でクラスの中心人物




でも――――




本当は――――




そんなアイツが





ベールを脱ぐ―――――


















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