第87話 洗いっこ ★
「ふえ……ふえええぇぇぇぇッ!?」
ウィスリーの絶叫が洞窟内に木霊した。
「ご主人さまがあちしの体を洗うってこと!?」
「そうだ」
「あちしもご主人さまの体洗うの!?」
「そうだ。嫌か?」
こちらの問いかけにウィスリーが過去一番の迷い顔を見せた。
「やではない……やではないけど……」
「けど?」
「ものすごっく恥ずかしい……」
「……っ!」
な、なんだ。この胸の奥から湧き上がってくる気持ちは!
羞恥に悶えるウィスリーを見ていたら胸がキュンとしたぞ!
欲情とも違う。
これはまったく未知の感情だ!!
「どーしたのご主人さま、固まっちゃって……」
見たい。
恥ずかしがっているウィスリーを、もっと見たい。
いや、待て待て!
正体のわからない感情に支配されるなど言語道断!
感情と行動は分離して、あくまで情報として記憶しなくては!
「フゥ~、大丈夫だ。嫌ではないなら洗っこをするが、いいか?」
「あう……」
「もしかして怖いか? 怖くてもやめるぞ。ウィスリーを怯えさせるのは本意ではない」
「怖くはない、と思うけど。ホントーにただひたすら恥ずかしいだけ……」
「これは試練だ。恥ずかしいのは辛抱してもらわねばならない」
「わ、わかった……がんばる……」
「よし、いい子だ」
「はわわ~……」
頭を撫でてやると、いつもと違う反応が返ってきた。
しかし、ここまで恥ずかしがられるのは本当に予想外だったな。
ウィスリーの女性の部分は、既に異性を意識しているということか。
「では、まずは頭を洗うぞ」
「ん、頭ならいつも触ってもらって嬉しいし……いけるよ、ご主人さま!」
大丈夫そうだったのでウィスリーの髪の間から頭皮をマッサージしていく。
「改めて見てみると立派な角だな」
「そ、そうかな? にへへ……」
「ちゃんと目を
「つむってる!」
ポニーテールを解いたウィスリーの髪が結構長かったので苦戦したが、特に大きな問題なく洗い終えた。
一度お湯で洗い流してから、再び石鹸を泡立てる。
「では、次は体を洗う」
「ふえっ! それってやっぱりご主人さまに触られちゃうよね?」
「一応は布で垢をこすり取っていくが、多少は肌と肌が触れ合うだろう。嫌か?」
「やじゃないけど恥ずかしいの!!」
「嫌でないなら続ける」
「ううう〜、今日のご主人さまはイジワルだぁ〜」
「すまない。本当にすまない。だが、ウィスリーのために俺も心を
「まさかこんな形で返ってくるなんて〜!」
「よし泡立ったぞ。背中からいこう」
ウィスリーがごくりと生唾を飲み込んでから、身をすくめるように猫背になった。
泡立てた布を少女の背中につけて、肌をこすり始める。
「あうあうあう~……」
「心臓の鼓動が早いな」
「それはそうだよっ!」
「力加減はどうだ? 痛かったりしないか?」
「ゴシゴシされてもなんかよくわかんない。頭がぐるぐるしてる」
背中はクリア。
さらに肩、首、腕、手のひらと順調に洗っていく。
しかし俺の手がわきの下に伸びたとき、ウィスリーがブルブルと首を振った。
「あわわっ! そこはさすがにちょっとっ……!」
「そうだな。自分で洗っていいぞ」
「ふぅぅ~っ……!!」
「では、俺は尻尾を洗おう。大丈夫か?」
「あ、うん。そこは特に恥ずかしかったりは……にゅあっ!?」
「どうした? 尻尾が一気に固くなったが」
「なんかビクッとした。なにこれ?」
む、まさか尻尾のどこかが性感帯なのか?
刺激するのはまずいな。
今度、メルルに詳しく聞いておかなければ。
「すまないが、尻尾も自分で洗ってくれ」
「わかった」
ウィスリーが尻尾を抱えるようにして洗う。
途中で腰に手を回すような形で尻尾の根元を、その流れで一気にお尻と
肩越しにこちらを振り返ったウィスリーは下唇を噛んだまま、俺の機嫌をうかがうようにジッと見つめてくる。
「わかってるわかってる。そこは全部自分で洗っていい」
「ふぅ……」
「では、こっちを向きなさい」
「えっ!?」
「足が洗えないだろう?」
ウィスリーがこの世の終わりのような顔をした。
「嫌ならやめる」
「やではない……」
ウィスリーがおずおずと前を向きながら、胸元を手で、鼠径部を尻尾で覆い隠した。
全身をプルプルと震えさせながら顔を背けて目をきゅっと瞑り、股もぴちっと閉じてしまう。
「足を閉じられると洗いにくいのだが……」
そこまで言うとウィスリーが命乞いをするような目で見てきた。
「お願いだから『足を開け』って命令しないで……従いたくなっちゃうの……」
「嫌なら――」
「やじゃないから困ってるの!」
複雑な心理だな。
俺にはわからない。
「わかった。洗いにくいが、そのままでいい。なんとか工夫しよう」
右足のつま先から足の裏と表、くるぶしからふくらはぎ……少しずつ上にのぼっていく。
「あっ!」
布が太ももにかかり始めたところでウィスリーが声をあげた。
「ここから先は自分で洗うか?」
コクコクコクコクと超スピードで頷くウィスリー。
「では、俺は左足を洗っておくから、その間にどっちも済ませておきなさい」
「あいっ!!」
なんだかこれまで聞いた返事の中で一番大きな声だったな。
「お、終わったぁ~……」
全身洗いが終わると、ウィスリーが椅子の上でへなへなとなった。
手も尻尾も脱力してしたからガードが解けて全部見えてしまってるが……まあ、本人が気づいてないなら言わないでおいてあげよう。
「さて、と。では、次は俺が洗ってもらう番だな」
俺がすっくと立ちあがると、ウィスリーが放心した顔で見上げてきた。
「ククク……俺にNG箇所はない。すべて洗ってもらうぞ、ウィスリー」
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